トラックドライバーに「働き方改革が必要な理由」、「2024年問題」を社労士が解説

2024年3月26日(火)9時41分 マイナビニュース

今、テレビやインターネットメディアを通してトラック業界の2024年問題についてしきりに取り上げられています。
地域によっては、朝ネット注文すればその日のうちに品物が届き、概ね翌日中には品物が届いているといったことも少なくないでしょう。欲しいものを頼んだらすぐに手に入る環境が当たり前となっているわけです。
私たちが物を買うのに便利になっている反面、EC市場の拡大にドライバーが追い付いていない状況があります。また、ドライバーの高齢化、免許制度の変更がよりドライバー不足に拍車をかけてしまっている状況にあるわけです。
国の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では何もしない場合に2030年には輸送能力が34.1%不足する可能性が指摘されています。
輸送能力が低下すれば、翌日に品物が届かないといったことは当然ですが、輸送を断られる。水産物など新鮮な生ものも手に入らないということも起こりうることでしょう。
このトラック輸送という必要不可欠な社会インフラを持続していくために国はメスを入れました。それがトラックドライバーの働き方改革なのです。
○何が変わるの? 働き方改革のポイントは時間外労働の上限規制と改善基準告示の改正
トラックドライバーの働き方改革とはいうものの今までと一体何が変わるのでしょうか。
すでに一般の業種については働き方改革関連法案が2019年4月から施行されていますが、簡単に言ってしまえば、法律上明確に時間外労働の上限規制がかかるようになります。
また、法律とは別にトラックドライバーの働くルールを定めた改善基準告示も改正されるのです。
○1.法制化された上限時間
労働基準法では1週40時間、1日8時間が法定労働時間として定められており、この時間を超えて働いてもらう場合には36協定という使用者と労働者で取り交わした書面による協定を締結したうえで労働基準監督署に届け出る必要があります。
この協定書の中で時間外労働の上限時間を定めることによってその範囲内で法定労働時間を超えて働くことができるのです。
ところが、従来はトラック業界では法律上の規制はなく、会社任せで上限時間を設定することが可能だったため、事実上、青天井になっていたわけです。
2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間となり、特別な事情がなければ、この時間を超えることはできません。
突発的な受注に対応するためなど、臨時的な事情がある場合は特別な事情を定めておくことにより最大で年960時間まで働くことが可能となります。
言い方を変えると960時間以上は働くことができなくなったのです。一般の業種は年720時間が上限となっていることを考えるとそれだけトラック業界が、長時間労働を是正しにくい環境にあることが分かるのではないでしょうか。
○2.法改正だけでは足りないの? なぜ改善基準告示を改正する必要があるのか 
改善基準告示とは「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」という自動車運転者について労働条件の向上を図るための基準を定めた厚生労働大臣告示をいいます。
なぜ改善基準告示が必要なのでしょうか。
ダイエットに例えると減らす目標体重が法律だとしたときに、どんな方法と手順で体重を減らすか決めておかなければ、安全に体重を減らすことができません。
無茶して飲まず食わずで運動を続けることにより体調を崩してしまうといったことにもなりかねないのです。その方法や手順などルールとして定めたものが改善基準告示といえます。
トラック業界は長時間労働による労働災害も多い状況となっています。陸上貨物運送事業における労働災害発生状況を示す数字として死傷年千人率があります。
死傷年千人率は1年間の労働者1,000人あたりに発生した死傷者数の割合を示したもので令和4年度の全産業平均が2.3%に対して陸上貨物運送事業は9.1%と高い傾向が続いているのです。※出典 厚生労働省「トラック運転者 労働時間等の改善のための基準学習テキスト」
つまり、トラックドライバーの安全と健康を守るにあたってドライバーの働くルールを定めた改善基準告示を法改正に合わせて変更する必要があるのです。何がどう変わるのか具体的に見ていきましょう。
○改正になった拘束時間と休息期間のルールとは
トラックドライバーの仕事は、荷待ちの時間がある等業務の特性上、拘束時間の長い仕事です。拘束時間とは、運転だけではなくトラックの点検整備や荷待ち、積み下ろしなど様々な業務を行う労働時間と仮眠などの休憩時間と合わせた時間をいいます。
別の言い方をすると始業時刻から終業時刻までの時間が拘束時間となるのです。
一方で休息時間は、使用者に拘束されない時間の事を指し、勤務と勤務の間の時間をいいます。具体的には前の勤務の終業時刻から次の勤務の始業時刻までの時間をいうのです。
トラックドライバーが、安心安全な運行を続けるためには、より拘束時間を短くしたうえで休息時間を長くする必要があります。
1日の拘束時間の原則は13時間までと変わらないものの、今回の見直しにより延長できる時間が16時間から15時間まで短縮されたのです。(1週間の運行すべて、長距離貨物運送である場合を除く)
また、休息時間について継続8時間のところが見直し後は継続11時間を基本としてどれだけ短くても9時間としたのです。(1週間の運行すべて、長距離貨物運送である場合を除く)
1ケ月、1年についての拘束時間についても以下のように見直されることになったのです。
○連続運転時間、休日労働に関する規制
トラックドライバーには安全に運転する観点から連続で運転する時間についても詳細に定められています。
連続運転時間については従来通り、連続4時間運転したら4時間以内に30分運転を中断する。若しくは4時間経過後に30分以上運転を中断することがルールとしてあります。
ただし、今回の改正により運転の中断は1回おおむね10分以上としたうえで今までは10分未満の中断は絶対にNGだったものが10分にわずかに満たないことによって直ちに違反にすることは現状の実態から踏まえると適切ではないと少し柔軟に考えられた部分もあるのです。
とはいえ、10分未満の中断が3回続いた場合は30分中断したことにはならないといったように緩和した部分はありつつも30分の中断について抑えられた内容になっています。
また、例外としてサービスエリアやパーキングエリアに駐車、停車できないことによりやむを得ず連続運転時間が4時間を超えてしまう場合には30分まで延長できる例外ができたのです。
○働き方改革に必要な取り組みとは
今回の改正により労働時間に上限が設けられ、また、改善基準告示によりドライバーが安全に運転できるように拘束時間や休息時間、運転時間などドライバーの労働条件も改善されています。
今までの長時間労働が見直されることにより、個々の労働時間に頼った運用を改善しなければ大幅に輸送量が減ってしまうことも想定されるのです。
業界各社で労働時間を削減する取組が進められていることに加えて、輸送量を極力下げないような取り組みもなされているのです。
コンテナに工夫を入れ脱着のみにすることにより今までは数時間かかった荷下ろしの時間を大幅に削減することや、一人で長時間走ることが難しくなることを想定して輸送をリレーのようにつないでいくなど大幅に転換している会社も見られます。
これによりドライバーが家に帰れる頻度が高くなる等働き方の改善も見られています。
採用が難しくなる一方離職者を出さない取り組みも必要不可欠となります。業界のみの取り組みでは現在のインフラを維持することも難しくなります。
荷主にも発送する側の発荷主と受取側の着荷主といますがそれぞれの荷主の理解こそトラックドライバーの働き方改革に必要なエッセンスといえるでしょう。
○著者プロフィール:土井裕介(どい・ゆうすけ)
特定社会保険労務士、医療労務コンサルタント、ジョブオペTM認定コンサルタント家族の病気をきっかけに働きやすい医療現場作りに貢献したいと考えコンサル業務を行う。フジテレビの「Live News イット!」の年金コーナーの監修を行う等、わかりやすい制度解説を心がけている。

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