世界幸福度ランキング上位を占める「北欧」、日本でも人気ある各国のアートも幸福感いっぱいなのか

2024年3月30日(土)8時0分 JBpress

ノルウェー、スウェーデン、フィンランド。北欧を代表する3か国の絵画を紹介する展覧会「北欧の神秘ーノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」がSOMPO美術館にて始まった。

文=川岸 徹


世界一幸福な国は?

 3月20日、国連が発行する「世界幸福度報告書」2024年版により、最新の世界幸福ランキングが公開された。1位は7年連続でフィンランド。以下、2位デンマーク、3位アイスランド、4位スウェーデン、5位イスラエル、6位オランダ、7位ノルウェー、8位ルクセンブルク、9位スイス、10位オーストラリア。日本は4つランクを落とし、51位という結果だった。

 このランキングは各国の約1000人に「最近の自分の生活にどれくらい満足しているか」を回答してもらい、幸福度として算出。結果には「一人あたりのGDP」「社会的支援」「健康寿命」「人生の選択の自由度」「寛容さ」「政治の腐敗度」が大きく反映されているという。

 ただし“幸福かどうか”のとらえ方は主観的なもの。中庸、平均的を好む日本の順位は低くなりやすいのも仕方がないだろう。ランキングの算出方法に少しばかりの疑問はあるが、北欧各国の順位が安定して高いのは確かだ。

 ではなぜ、北欧は幸福度が高いのか。言うまでもなく、北欧の自然は厳しい。フィヨルドに代表される原始的な風景は美しくもあるが、1年を通して寒く冷え込む時期が長く、快適に暮らしやすい地とは言い難い。さらに北欧は争いの多い地でもあった。欧州の強国やロシアから侵略を受け続け、第一次・第二次の両世界大戦でも大きな打撃を被っている。最近では移民問題によるトラブルが増加していると聞く。

 それでも北欧の人々は忍耐強く過酷な自然と共生し、様々な困難を乗り越えてきた。独自の政策やシステムにより、今や教育、医療、福祉は世界最高といわれる高水準。産業の創出にも力を注ぎ、洗練されたデザインのファッション用品、あたたかみのある食器、無駄を省き機能性を重視した家具や電化製品などを生み出してきた。スウェーデンのIKEA、ノルウェーのヘリーハンセン、フィンランドのノキアといった北欧生まれのアイテムは世界中で愛用されている。


過酷な自然がモチーフに

 そんな北欧の「美術」はどんなものなのだろうか。SOMPO美術館で開幕した「北欧の神秘—ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの3か国の絵画に焦点を当てた国内初の本格的な展覧会。ノルウェー国立美術館、スウェーデン国立美術館、フィンランド国立アテネウム美術館の3つの国立美術館のコレクションから、19〜20世紀初頭に制作された約70点の作品を紹介する。

 さて、展覧会会場へ。予想通り、展示されている作品は雄大な山岳や森、湖といった自然風景や、夏季の白夜、冬の極夜、オーロラなどの気象現象をテーマにしたものが多い。ただし、そこにフランスの印象派絵画のような明るさはない。冷たく、重く、画面からひんやりとした空気が流れ出してくるかのよう。

《春の夜》は、ファン・ゴッホに強い影響を受けたスウェーデンの画家・ニルス・クレーゲルの作品。枝ぶりのいい樹木が描かれているが、タイトルにある「春」の爽やかさはまったくない。厳粛でしんとした空気の緊張感。その冷たさに心が揺さぶられる。

 ノルウェー出身のエドヴァルド・ムンク《フィヨルドの冬》も不思議と惹きつけられる作品。水辺の雪景色を単純化して描いているが、その単純化によって画面の冷たさが剃刀の刃のように鋭く際立っている。「やはりムンクは凄い」と唸らされる一枚だ。


民話や伝承を題材にした幻想的な作品群

 こうした風景画に加え、北欧の絵画には民話やおとぎ話、北欧神話、フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』を題材にした作品が目立つ。こうした物語の舞台の多くは森。深い森では魔法や呪いが効力をもち、人や動物ではない「何か」が棲みついているという。

 ノルウェーの国民的画家テオドール・キッテルセンは、民話のエッセンスを盛り込んだ物語『ソリア・モリア城—アスケラッドの冒険』を創作した。少年アスケラッドが城を目指して冒険に出るストーリー。キッテルセンは12点の絵画を制作し、1911年に絵本として出版した。本展では、城で囚われている姫が眠ったトロルの体からシラミを取る場面を描いた《トロルのシラミ取りをする姫》など、3点の絵画が展示されている。

 装飾芸術家として名高いガーラル・ムンテもまた、トロルから姫を救う作品を制作している。《帰還するオースムンと姫》は、モチーフを平面的に描いた壁画調の画風がユニークだ。

 フーゴ・シンベリ《素晴らしい花》は、記者が本展で最も気に入った作品。2人の若者が描かれており、純白の襟がついた上品な服を着た裕福な青年は野に咲く花をハサミで切り落とそうとしている。質素な服装に裸足のもう一人の青年は、その様子を悲しげな表情でじっと見つめている。富裕と貧困を対立させた教育的絵画といえるが、そこに“説教臭さ”のようなものは感じない。ごく日常的な草原の一コマのように、さらりと描かれているのがいい。アンリ・ルソーを連想させる素朴であたたかみのある画風がそう思わせるのかもしれない。


北欧の絵は“冷たくあたたかい”

 北欧の絵画には、一見、人を寄せ付けないような冷たさを感じる作品もある。でも、見ているうちに、あたたかで幸せな気持ちになってくる。それは、IKEAの家具と通じるような気がする。無駄をそぎ落とし、シンプルで万人の部屋に合うように作られた家具。でも、なんだか不思議とあたたかい。だから、世界中にファンがいるのだろう。

 展覧会の最後はエドヴァルド・ムンク《ベランダにて》で締められている。ベランダから色彩豊かな景色を眺める2人の女性の後ろ姿。心地いい余韻が残る展覧会だった。

筆者:川岸 徹

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