King Gnu常田大希がパリコレで着た「スモーキングジャケット」とは何か? 喫煙が生んだ流行ファッション

2023年3月31日(金)16時0分 Jタウンネット

King Gnuの常田大希さんといえば、人気のミュージシャンであるだけでなく、ファッションアイコンでもある。

そんな彼は2023年、世界最大のファッションの祭典「パリ・コレクション」に参加した。

常田さんは2023年2月10日、自身のSNS上で仏ラグジュアリーブランド「サンローラン(SAINT LAURENT)」のアンバサダーに就任したことを発表。パリ・コレクション中の2月28日(現地時間)には、同ブランドの2023年冬ウィメンズショーを訪れていたようだ。

ジャケット、シースルーのブラウス、ゆったりしたパンツのすべてを黒で統一した常田さんの姿を『FASHIONSNAP』が撮影。そのうちの1枚が、SNS上で注目を集めた。常田さんがたばこをくわえている写真に、賛否両論が寄せられたのだ。

「この人、くわえタバコがかっこいいと思っているみたいだけど、世界のスタンダードからしたらダサい」
「どうと聞かれたらタバコが嫌いだから元が良くても個人的にはダサく見える」
「スモーキングジャケットなんだからタバコとセットであるのは普通の事だろ」
「スモーキングジャケットに煙草なんて粋なコンセプトじゃん?」

気になったのは「スモーキングジャケット」という単語だ。ファッションに疎い記者にとっては、初めて見る言葉だった。

そこで「日本国語大辞典(小学館、ジャパンナレッジ版)」を引いてみると、スモーキングジャケットは「室内でくつろいでタバコをすうときなどに着る、男子用の上着」と説明されている。たばこを吸う時にいちいち着替える人など見たことないが、そんな時代や文化があった(あるいは、ある)ということなのだろうか?

Jタウンネット記者はラグジュアリー領域に詳しい服飾史家・中野香織さんに尋ねることにした。

スモーキングジャケットは、単なる「煙除け」ではない

——スモーキングジャケットとは、どのような経緯で生まれた服なのでしょうか?

中野さん:スモーキングジャケットの源流をさかのぼると、くつろぎ用のジャケットとして生まれた17世紀の長いローブ(上着)に行きつきます。
当時の紳士たちは社交の際、正装として堅苦しい燕尾服など着ていたのですが、そういった社交用の上着をパイプや葉巻といったたばこの灰や煙で汚さないため、別室でそれらの代わりに着る上着が誕生し、その後も延々と命脈を保っています。

——喫煙用の上着が「スモーキングジャケット」という形になったのはいつごろですか?

中野さん:イギリスを中心とするメンズファッション史の視点から申しますと、今のスモーキングジャケットの原型は1850年代に生まれています。
このころにあったクリミア戦争で、トルコのたばこがイギリスにもたらされ、それに伴ってパイプでたしなむたばこが大流行しました。当時、喫煙という行為は、現代の日本で言われるような「不健康で害がある」というイメージはなく、「紳士社会の特権的なお楽しみ」。喫煙用のスモーキングジャケットもジェントルマン社会において広まっていきました。
上着だけ着替えてリラックスして優雅にたばこや酒をたしなむ、というイメージです。

——「スモーキングジャケット」の原型はどのようなスタイルのものだったのでしょう?

中野さん: 状況・時間によって細かく着分けるのが当時の文化で、スモーキングジャケットは別室でたばこを楽しむためのものですが、単なる『煙除け』というわけではありません。上質な素材で精巧に作られた、高価な紳士用ワードローブの1つでした。
ショールカラー、ターンナップカフス(袖の手首が折り返されているデザイン)で、素材はシルクやベルベットというやわらかでリラックスできるもの。きれいな色、トグルボタン、折り返しカフスなどで優雅なイメージのものでした。

——その後、「スモーキングジャケット」はどのような形でファッション史に登場しますか?

中野さん:20世紀においては、1930年代、40年代のハリウッドスターなどのスタイルアイコンたちがこのジャケットを流行させました。たとえばミュージカル俳優のフレッド・アステア(1899-1987)はスモーキングジャケットを着て埋葬されています。俳優のケーリー・グラント(1904-1986)、クラーク・ゲーブル(1901-1960)、歌手のフランク・シナトラ(1915-1998)もこれを着て写真を撮らせています。
50年代以降は少しトレンドから姿を消しますが、プレイボーイ誌の編集長、ヒュー・ヘフナー(1926-2017)は、スモーキングジャケットをトレードマークにしました。

そして2023年、常田さんの着用によって注目を集めた「スモーキングジャケット」。歴史を知ってから今一度その写真を見ると、たばこを携えたその姿に抱く印象が、少し違ったものになるかもしれない。

Jタウンネット

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