吉永みち子73歳「心穏やかに暮らすためには、《筋トレ》ならぬ《心トレ》が必要。こう受け止めれば救われると、期待しすぎを戒めて」
2024年4月1日(月)12時30分 婦人公論.jp
40年来の盟友だという、残間里江子さん(左)と吉永みち子さん(右)(撮影:藤澤靖子)
40年来の盟友、残間里江子さんと吉永みち子さん。コロナ下で会えなくなって以来3年ぶりの再会だそう。73歳の今も現役でご活躍されるお二人の、最近の暮らしぶりは(構成:丸山あかね 撮影:藤澤靖子)
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あんまりご機嫌でもないけれど
残間 持つべきものは古い友達だね。気取ることもなく何でも話せるわ。
吉永 ともに3月生まれの同い年、成人した子どもを持つ母親で、今は一人暮らし。仕事にも共通するところがあり、悩みも似たようなものだからね。
残間 会うといつもとてもリラックスした気分になるし、みっちゃんも頑張っているんだから私も頑張ろうって、テンションが上がるの。
吉永 しかしお互いにもうすぐ74歳。来年は後期高齢者なんだから何が起きても不思議じゃない。
残間 最近はどう?
吉永 耳問題が勃発したのよ。私は中学時代から持病の薬の副作用で難聴気味だったのが、加齢が重なりグッと進行したらしくて。コロナ下で、人と対面する時にアクリル板を立てていたでしょう?相手の声がよく聞き取れないわけ。でも補聴器をつけることで一件落着しました。
残間 よかった。それにしても、胆のう炎で胆のうを摘出したり、狭心症になったり、劇症肝炎になったり。みっちゃんもいろいろあるわね。緑内障の治療もしているんでしょう?
吉永 そうなの、今も左目の視野が4分の1ほど欠けてて。ここ最近は変形性膝関節症で、一時は杖なしでは歩けなくなるくらい苦しんでたのよ。主治医からは完治しないと言われて、それなら「治す」から「長持ち」に目標を変更するしかない。そのために、筋肉を復活させようとラジオ体操に励んだの。4年かけて、1万歩以上すいすい歩けるようになりました。
残間 私も筋力の大事さに気づいてジムに通っているの。
吉永 そういえば、里江ちゃんもスニーカーだね。
残間 わっ、よく見てるのね。
吉永 自分がスニーカー一辺倒の身だから、ご同輩の様子が気になるのよ。
残間 あなた満身創痍だけど、ちゃんと全部乗り越えてるわね。
吉永 それほどでもないよ。年相応にガタはきてる。あなたもいつもどこかつらそうだったけれどね。
残間 喘息、心筋性関節リウマチ、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などなど。中学生の時に3ヵ月くらい、リウマチから心臓弁膜症になって入院したこともあるの。今も指の関節が痛いんだけど、これはブシャール結節とへバーデン結節。痛いのはつらいよね……って、今日の対談のテーマは「『ご機嫌力』をつけよう」じゃなかった?
吉永 どうやら私たちは、ご機嫌に生きている人代表として呼ばれたようですな。長いこと生きてこられてありがたいとは思ってるけどね。
残間 そんなに「ご機嫌」ってわけでもなくて、放っておいたら不機嫌になる。年のせいなのかしら?どんどん自分が老朽化していくのを実感するのは恐怖よね。
私の母は99歳で亡くなったのだけど、80歳を超えてからほうれい線を取る整形手術をしたいと言い出して、当時は何を言っているのかと呆れていたの。でも今はなんとなくわかるのよ。この年齢になって初めてわかることがあるというのは、人としての成長かもしれないと思えば、年を重ねるのも悪くないかな。
吉永 見方を変えれば、心が穏やかになることはあるよね。幸せか不幸せかは捉え方次第だと思う。嬉しい出来事に焦点を当てて感謝できる人は幸せな人生だし、不幸な出来事を拡大鏡で眺めている人は不満だらけになってしまうのかもね。
残間 とはいえ自分の心をコントロールするのは簡単じゃない。特に親しい人との死別はキツいわ。実は私、ここ2年ほど鬱々としていたの。コロナ下に同世代の知人がたくさん逝ってしまって。
吉永 寂しいよね。
残間 もしかしたら次は自分かもとか思うじゃない?
吉永 毎朝、目覚めると「ああ、今日も生きてる」とか思うもんね。でも、それが毎日を丁寧に暮らそうという気持ちにつながっているかもしれない。
残間 今年は能登半島地震で始まり、被災された方々の気持ちを考えると、とてもいたたまれなかった。
吉永 あのニュースを見ながら、他人事じゃないなと感じたわ。自分はもう完全に逃げ遅れる側の弱者なんだ、と気づいてハッとして。だって津波警報が出ても、最早、坂道を駆け上れないんだから。
残間 同じことを思ってた。阪神・淡路大震災のときは44歳で、東日本大震災のときは60歳だったかな?とにかく自分のことは自分で、という認識だったけど……。能登半島地震でお亡くなりになった方のなかに70代が多かったと知って、さぞかし無念だろうなと胸が痛くなったわ。
長生きしたい?したくない?
吉永 自然災害や戦争は若い人の人生も奪う。無念さは私たちの数百倍でしょうね。それを思うと、私はもう十分に生きたな、と思うことがあるの。
残間 「もう十分」って、いつも言ってるわね(笑)。30代から聞いてる。
吉永 だって生きるって大変なことだもん。とにかく私はずっと手一杯だった。若い頃は食べていくだけで手一杯で、その後は子育て、今は老いや死を受け止めることに手一杯。手一杯の方向性が違うから、十分に生きたというのは、生きてるだけで十分じゃないかという意味もある。
老いると家族とか仕事とかから解放されていく心地よさもあるから、自分中心に生きる初体験でもあるし。一番楽しい時期だと言えなくもない。ま、要は開き直ったわけだよね。(笑)
残間 私は長生きしたい。小さい頃から病弱だったから生きることに対する執着が強いのかもしれないけれど、なんだかまだすべきことが残っているような気がするの。
吉永 会社を運営してたら簡単に消えることはできないもんね。私なんかは今日から消えますってことで済んじゃうけど。責任感の違いかな?
残間 58歳の時に立ち上げた大人世代向けのネットワーク、「clubwillbe」でセミナーを企画したり、合唱団活動を引率したりしているのだけど、責任感が生き甲斐に通じている、みたいなカッコいいことではなくて、メンバーの人たちから元気をいただいている感じね。それはとてもありがたいことだと思ってるの。
子どもにも友だちにも期待しすぎない
吉永 ところで一人暮らしには慣れた?
残間 息子が自立して10年だから、「慣れた」を超えて、もう誰とも暮らせないという域に達してる。
吉永 私は一人暮らし歴22年になるけど、24時間フリータイムって最高よね。
残間 「年を重ねてからの一人暮らしは、夕方まで明るい部屋に限る」と聞いて、最初は西向きの部屋に暮らしてたの。でも、沈むのよ夕陽が。気持ちも沈んじゃって(笑)。それで東向きの部屋に引っ越したの。快適よ。
吉永 時々、「一人暮らしといっても、吉永さんにはお子さんがいるから、老後は安泰ですね」とか言われるんだけど、そういうものでもないな。
残間 息子なんて当てにするだけ無駄よね。
吉永 私の実の子である次男はすさまじい反抗期があって、口はきいてくれないわ、やんちゃして警察のお世話になるわで大変だった。40代になった今は、飲食業界で働いて自力で生きているから、それだけで上出来だと本気で思うよ。
残間 うちの息子は30代なんだけど、連絡してくるのは猫の世話をしてほしい時ぐらい。
吉永 うちも一緒。出張中に飼い猫の世話をよろしく、みたいなLINEがくる。猫はかわいいから行くけど、ある時、猫が下痢してるよって報告したら出張を切り上げて飛んで帰って来た。私が病気で入院しても見舞いに来なかったくせに。(笑)
残間 うちの息子もドライ。もっとも、はなから期待してないからいいんだけど。
吉永 友達だってそう。元気なうちは仲良くできても、お互いに体が動かなくなってからは期待しちゃだめよね。そうやって戒めておかないと、どこかで期待してる自分もいるから。心穏やかに暮らすためには、「筋トレ」ならぬ「心トレ」が必要なのよ。「こうなったらこう受け止めれば救われる」みたいな、いわば自己防衛策なんだけど。
<後編につづく>