シングル定年女性、老後の家をどうする?いつまで働けるのか、折り合いの悪い母と住むか、家を探すか…連立方程式のような「老後モラトリアム」

2024年4月5日(金)12時31分 婦人公論.jp


写真提供◎photoAC

昨年は、モトザワ自身が、老後の家を買えるのか、体当たりの体験ルポを書きました。その連載がこのほど、『老後の家がありません』(中央公論新社)として発売されました!(パチパチ) 57歳(もう58歳になっちゃいましたが)、フリーランス、夫なし、子なし、低収入、という悪条件でも、マンションが買えるのか? ローンはつきそうだ——という話でしたが、では、ほかの同世代の女性たちはどうしているのでしょう。今まで自分で働いて自分の食い扶持を稼いできた独身女性たちは、定年後の住まいをどう考えているのでしょう。それぞれ個別の事情もあるでしょう。「老後の住まい問題」について、1人ずつ聞き取って、ご紹介していきます。

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前回「老後の家がありません!みんなはどうしてる?編 第2回(上)」はこちら

母との関係


大企業に勤め、独身のまま59歳になった紀美子さんは、終の棲家としてサ高住を探しているところです。実家の敷地内には母と姉夫婦がそれぞれ家を持っており、20年ほど前、母の家の新築の際には紀美子さんは資金を援助、固定資産税も払っています。間取りは母に任せたところ、母は紀美子さんと「未来の孫」の部屋まで作っていました。

紀美子さんは、母を支配的だと感じています。「お風呂入りなさい」。実家では、母はこんなふうに紀美子さんに指図します。いつも母はこんなふうに「**しなさい」と命令口調です。主従関係のように、紀美子さんは感じてしまいます。

母—娘関係が支配—従属関係であることに、まったく無自覚な母が苦手で、紀美子さんは、母との同居はあまり考えたくはありません。

それに、価値観の違いも感じます。戦前生まれの人なので仕方ないと思いつつも、イヤだなあ、と思ってしまいます。

例えば、語学も堪能で外国人の友人も多い紀美子さんには、韓国人の女友だちもいます。彼女はとても優秀で、人柄も良く、紀美子さんの親友です。ある時、彼女と一緒の時に、母から電話がありました。親友と一緒だと話し、すごくお世話になっているのだ、と彼女を紹介したのに、電話を替わった母の対応はあっさり。

日本人の友だちなら、もっと積極的にいろいろ話したんじゃないか。母の中にどこか差別的な視線があるのではないか。そう思うと、紀美子さんには苦痛でしかありません。年を取ったら、よけい、「母の心が狭くなった」と紀美子さんは密かに感じています。

年金の受給


そんな母と同居したら、毎日顔を合わせたら、きっとぶつかるでしょう。ストレスになるでしょう。もちろん、帰れる実家が首都圏にあるのはありがたいことです。恵まれているとも思います。

けれど、実家は荷物置き場にして、他に住みたいと思います。いまは1人暮らしですが、会社を退職後も実家に戻りたいとは、あまり積極的に考えられないと、紀美子さんは言います。

「でも、このまま、会社に居続けるのも苦しい。年金定期便をチェックしたけれど、年金は、年に200数十万円しかもらえないんですよ? なら、年金の受給開始年齢を70歳まで後ろ倒しして、年300万円は確保したいなあと思って……」


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会社に65歳定年まで居続けるとしても、年金受給開始を70歳にすると、5年のブランクができます。その場合は、5年間だけと割り切って実家に帰り、貯蓄を少しずつ切り崩して生活しようか、とも考えます。それとも65歳で、退職金で前払い可能な金額のサ高住に入って、もう年金も受け取り始めるか……。

姉妹といえど、関係性は難しい


それでも、実家の土地が首都圏にある、というのはすごい利点です。モトザワは紀美子さんに尋ねました。

「実家の土地が、お母様のところとお姉様のところに分筆されているなら、お母様にもしものことがあったら、実家の土地と建物は紀美子さんが売り払っちゃったら良いんじゃないですか? で、その土地建物の代金で、サ高住に入るなりマンションを買うなりすれば良いのでは?」

「または、お姉様に、実家の土地・建物を買い取って貰ったらいいのでは? そもそもお母様が万一の時は、お母様の財産である土地・建物は、お姉様と分けることになるんですから。お姉様は実家の土地に住み続けるでしょうから、紀美子さんは遺産分与分を現金で貰えば良いじゃないですか」

紀美子さんは一瞬、きらりと目を輝かせました。「ほう。そんな手がありますか」。希望に満ちた様子で真剣に考え始めました。が、すぐに溜め息をつきました。「やっぱりダメです。姉が大変です。きっとうるさいことを言ってくるので」。

せっかく紀美子さんがお金を出した実家を活用することも、遺産分与でもらえるはずの土地を活用することも、考えられないなんて。姉妹といえど、関係性は難しいものです。


『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)

「終の住まい」


しかも、紀美子さんの会社は近年、業績が厳しく、給与も高く人数も多い50代の社員を辞めさせたがっています。退職勧奨としか思えないような、無茶な異動や配置転換をやらかします。

今春の異動で、紀美子さんにきつく当たる年下の上司は異動になりませんでした。紀美子さんが来年度以降、異動になる可能性はあります。意に染まない部署に行かされるかもしれませんし、気の合う上司に恵まれるかもしれません。60歳を超えても働き続けられる環境かどうか、紀美子さんに先のことは、まったく予測できません。

もしも60歳で退職するのなら、今回見学したサ高住を、紀美子さんは退職金で払ってしまうつもりです。地方なので、東京に比べると、生活費は安く抑えられます。もし働きたいなら、近くの介護付き高齢者ホームで介護ヘルパーの口があると言われました。

農業は体力的にきついかもしれませんが、近隣の農家には、バイトをさせてもらえるとも聞きました。けれど、……本当にこのサ高住が紀美子さんの「終の住まい」になるでしょうか。

実は、住宅としてはステキだけれど、立地が、紀美子さんには今一つ気に入りません。とても保守的な土地柄だからです。首都圏でリベラルな空気に触れて育った紀美子さんにとって、政治的に保守的な土地は息苦しくなったり、闘いたくなったりしそうです。

ならば、地方のサ高住を選ぶにしても、もう少しリベラルな場所で決める方が精神衛生上は良さそうだとも思います。老後を見据えた「終の住まい」ならばなおのこと、平穏に暮らしたいものです。

老後モラトリアム



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紀美子さんの「老後の設計」は、変数が多すぎて解けない連立方程式のようです。会社にいつまで残って働くのか。定年が延びても、上司や職務との折り合いで、続けられない可能性もあります。逆に、環境が良い職場に異動になれば、65歳まで続けたい、となるかもしれません。

仕事の内容とやりがい、したいことができるかどうかと、60歳以降はどれだけ給料が下がるのか、退職金の金額、そもそも実家の母の健康状態がどうなるか、いつ万一の事態になるか、他の地方にも魅力的なサ高住があるかもしれない、サ高住じゃない家でも良いかもしれない、……どの条件が変わっても、紀美子さんの老後の計画は変わってくるでしょう。

見学に行ったサ高住に住むのか、首都圏の実家に帰るのか、それとも、……。

「うーん。……でもやっぱり、60歳じゃ、まだ会社は辞めない!」と、取材の最後に、紀美子さんは明るく宣言しました。話しながら、いろいろな可能性を検討した結果、やっぱりまだ働きたい、という結論になったようです。

なので、老後の家探しも、あと少し猶予が出来ます。その間、がんばって節約してお金を貯めるのだそう。そして5年後、もう少し予算に余裕ができた時には、もしかしたら実家の状況も違っているかもしれません。その時にまた改めて考えることになるのでしょう。「老後モラトリアム」ですね。

サ高住


定年退職後にどこに住むかと考えた時、候補として、普通の民間賃貸か、UR賃貸か、それともマンションを購入するしかない、とモトザワは当初考えていました。ところが、紀美子さんの話を聞いてびっくり。まだ体も効く60歳から、早くも「サ高住」(サービス付き高齢者住宅、「高齢者」住宅ですよ!)に住んでしまう選択肢もあるなんて。


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たしかにサ高住ならば、普通の民間賃貸のように年齢差別で入居を断られることはありません。死ぬまで住み続けられます。その手があったかと思う半面、やはり、どこまで行っても地獄の沙汰は金次第だろうと、モトザワは思います。

サ高住を調べてみると分かります。首都圏だと、普通の分譲マンションよりも安くて狭い物件か、億単位の入居金が必要な高級物件になってしまいます。

例えば、横浜市内のある物件は、45平米の部屋に80歳で入るとして入居時一時金を約5000万円払ったうえに毎月の利用料が約20万円。入居一時金を払わないなら、毎月、家賃と施設費などで最低約50万円(食事代などは別途)かかります。

もし、もっと若いうちから入居するなら、入居期間の家賃の全期前納にあたる入居時一時金はもっと高額になるでしょう。

つまり、それなりのグレードのサ高住に住みたいなら、やはり地方に行くしかないということです。でも地方だと、車がないと生活に困るでしょう。……いつも、この堂々巡りです。なんだかなあ、と思ってしまいます。

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