59歳シングル女性、定年前に「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」のガチ見学に。何歳まで働くべきか模索中

2024年4月5日(金)12時30分 婦人公論.jp


写真提供◎photoAC

昨年は、モトザワ自身が、老後の家を買えるのか、体当たりの体験ルポを書きました。その連載がこのほど、『老後の家がありません』(中央公論新社)として発売されました!(パチパチ) 57歳(もう58歳になっちゃいましたが)、フリーランス、夫なし、子なし、低収入、という悪条件でも、マンションが買えるのか? ローンはつきそうだ——という話でしたが、では、ほかの同世代の女性たちはどうしているのでしょう。今まで自分で働いて自分の食い扶持を稼いできた独身女性たちは、定年後の住まいをどう考えているのでしょう。それぞれ個別の事情もあるでしょう。「老後の住まい問題」について、1人ずつ聞き取って、ご紹介していきます。

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前回「老後の家がありません第二弾一回目 長女はつらいよ、ローン撃沈でお先真っ暗」はこちら

サ高住を考えている


誰もが知るような大企業に勤める正社員だとしても、女性は一般的に、まだ男性に比べて出世も難しいし給料も上がりません。生涯年収も低いので、貯蓄額も限られます。結果、老後の終の住処を買う時の予算も限られます。

そんな中、まだ定年前なのに、一足飛びに「高齢者住宅」を検討しているのが、紀美子さん(仮名、59)です。退職後の住まいとして「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」を考えている、といいます。高齢者住宅なんてまだ先、後期高齢者になってからでいいんじゃない?と、モトザワは思っていたのですが……。

「まあ、広い玄関!」

東京から新幹線で1時間半。そこから車圏内にある、ある地方のサ高住を、2024年3月上旬、紀美子さんは内見に行きました。サ高住への入居条件である「60歳以上」を満たす1年後に備えて、真剣に検討するためです。

最初に見た部屋は、18坪(約60平米)の2LDK。さすが高齢者住宅、室内はすべて車椅子に対応可能なバリアフリーです。玄関近くの水回りもゆったりしています。リビングには幅広の掃き出し窓があり、外には小さな庭。キッチンは標準仕様の壁付けではなく、オプションでリビングに向けたカウンターキッチンに変更してありました。

国交省が推進する高齢者のための住宅


サ高住とは、国交省が推進する高齢者のための住宅です。「高齢者住まい法」を2011年に改正し、整備を進めてきました。いま全国で8000棟以上。入居要件は60歳以上で、安否確認や生活相談などの「サービス」が付帯した賃貸住宅です。

ただ、老人ホームのような福祉施設(厚労省所管)とは違って、あくまで住宅です。自立型の場合、それぞれの住居内にトイレ、風呂、洗面所、キッチンがあり、食事や洗濯などは自分でできます。入居時一時金が不要で、月々、家賃とサービス費を払い続けるタイプのほか、事業者によっては終身全部前払い制の住宅もあります。


『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)

高齢者住宅なので、途中で、建物の建て替えによる立ち退きを迫られたり、年齢を理由に契約を更新してもらえなかったりはしません。

この日、紀美子さんが尋ねたサ高住は、家賃分は入居時に前払いするタイプで、向こう15年分の家賃を一括前納します。16年目以降の家賃は不要で、もし事情があって15年以前に退去・転出したい場合は日割りで返金されます。

家賃以外の月々の支払いは、3万3000円のサポート費と、周辺地域への往復乗り合いバスの運営費7000円の計4万円のみ。同じ運営者によるカフェが隣接しているので、炊事が難しい人は手作り弁当を購入したら宅配してもらえます。同じ事業者による要介護高齢者のための施設も隣接しており、そこで看取りもしてもらえます。

部屋の住み心地をチェック


ハウス長も、このサ高住に惹かれてこの土地に移住してきた1人です。紀美子さんは、ハウス長の部屋のほか、いま空室になっている部屋を見せてもらいました。賃貸ですが新築なので、分譲マンションのように間取りを自由に変更できます。居間に高窓を付けたり、ウッドデッキを作ったりしている部屋もあるそう。

もちろんレイアウトを変えると追加の工事費がかかります。建築費が高騰している昨今、以前は約130万円だった坪単価が、いまは約160万円。オプション工事なしで、15坪(約50平米)で約2400万円、18坪(約60平米)なら約2900万円とのことです。


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でも東京で新築分譲マンションを買うのに比べると半額から3分の1程度、このエリアで新築一戸建てを買うのと比べても半額から同額程度です。

「明るいですねえ。南向きですか?」

紀美子さんは、真剣な眼差しで部屋の住み心地をチェックしました。「冬場、寒くないですか? 床暖房ないですよね?」

案内してくれたハウス長が「毎年しもやけになっていた家族が、ここに引っ越してからは、しもやけになっていません」と説明すると、紀美子さんは「失礼」と断って、スリッパを脱ぎました。足元の冷えをチェックするためです。

退職までがんばって節約して…


このサ高住は、一部の2階建てを除き、ほとんどの住居が長屋形式の平屋です。全戸南向きの角部屋で、高い勾配天井と広い窓のおかげで、室内は明るく解放感があります。

ただし玄関扉は、室内の様子が外からうかがい知れるようにガラス戸です。また、サ高住ならでは、毎朝、安否確認をされます。各棟は隣接しており、人目があります。1人暮らしの終末期の高齢者にとっては安心材料でしょうが、アラ還にはまだ、プライバシーのほうが気になりそうです。

紀美子さんは、12坪(約40平米)の1LDK、10坪(33平米)のワンルームも、チェックしました。ワンルームはさすがに「荷物が入らないか」と却下しましたが、12坪あれば意外に住めそう、と感じたそうです。あとは予算です。基本の間取りのまま、何のオプション工事もしなくても、12坪の部屋だと1920万円。

「もし60歳で退職するなら、この間計算したら、退職金は1900万円でした。だから、今年、来年と、退職までがんばって節約して、あと100万貯めようと思って。そうしたら2000万。このサ高住が買えるかな、と思って」

何歳までがんばってこの会社で働くのか


紀美子さんが勤めているのは、誰もが知る有名企業です。大学を卒業して入社して以来、総合職としてずっと勤めてきました。

ですが昨今、バブル前後に入社した社員たちは、会社から激しい肩たたきやリストラに遭っており、同期の男女もすでにたくさん退職しています。紀美子さんはそれでも、がんばって仕事を続けてきました。まだ会社でやれることがある、やりたいことがある、と思ってきたからです。

そこへ、会社が65歳定年を導入しました。60歳を過ぎると、給料はそれまでの3割〜4割ほどに減る、と職場の先輩から教わりました。それでも業務量は変わらず、職務内容も変わりません。


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ストレスとプレッシャーと責任感は同じまま、給料だけが下がる。そうまでして勤め続けるのか、何歳までがんばってこの会社で働くのか、いま、紀美子さんは迷っています。

どこに住むか問題


迷っているもう1つが、どこに住むか問題です。

紀美子さんは、姉と2人姉妹。父は早くに亡くなり、いま86歳の母が働いて育ててくれました。その母が実家の一戸建てを建て替えた20年ほど前、敷地内に、姉夫婦は一家4人の家を建てました。

実家の建物の名義は母ですが、固定資産税は紀美子さんが払っています。実家の新築資金は紀美子さんも援助しましたが、「好きにしていいよ」と中身は母に任せっぱなしでした。

すると母は新しい家に、紀美子さんの部屋と、さらに「将来の、紀美子さんの子どもの部屋」までも作りました。38歳だった当時、紀美子さんには結婚の予定もなかったのに、です。

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