ステーキにケーキ、高脂質食品が太りやすいことは経験的にも学術的にも分かっているけれど…筋肉先生・谷本道哉が教える<食べていい脂質><よくない脂質>

2024年4月8日(月)12時42分 婦人公論.jp


テレビでも人気の谷本先生いわく、脂質にも<食べて良いもの>と<いけないもの>があるそうで——

日本生活習慣病予防協会の発表によれば、いわゆる肥満に該当する人は男性 の33.0%、女性 22.3%(2020年12月発表)に。健康管理維持を考えれば、肥満対策はもはや日本人全員の課題とも言えそうです。一方、テレビでも人気の谷本道哉先生は70歳まで働けるカラダを維持することを目標に掲げ、各種の運動や体操を提唱してきました。その先生いわく、脂質にも<食べていいもの>と<よくないもの>があるそうで——

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高脂質食品には麻薬と類似した中毒性が


「高脂質食品は麻薬と類似の作用がある」というモントリオール大学のマウスを用いた研究報告は、世の中に大きな衝撃を与えました。脂質の高い食事は麻薬と類似した快楽作用を脳に及ぼし、また麻薬と類似した中毒性があるというのです。

そもそも少ない量で多くのカロリーを持つ脂質は、われわれ動物にとって貴重な栄養素。それだけに体は脂質を強く欲するようにできているのでしょう。

なお、脂質のカロリー9キロカロリー/gは、糖質、タンパク質の4キロカロリー/gの2倍強程度ですが、これはあくまで乾燥した重量の場合。食品の水分量を考慮するとその差はさらにずっと大きくなります。

肉の脂身の水分量は20%程度ですが、主にタンパク質でできた赤身は70〜80%が水分、主に糖質でできたご飯などだと60%が水分です。それを考慮すると、同じ量を食べたときの脂質のカロリーは、糖質、タンパク質の2倍どころか4〜9倍にもなるわけです。

ですから、脂質によるカロリー過剰の影響はかなり大きいのです。

たとえば同じ肉ならほとんどタンパク質のササミは100gで約100キロカロリー。一方で脂質たっぷりのカルビなら100gで500キロカロリーを超えてしまいます。

脂質は麻薬作用さえある「おいしい」ものですから、人生を豊かにするうえでの大事な栄養素といえますよね。一方で、甘い誘惑に負けて摂りすぎてしまえば、肥満に対しても健康に対しても非常に大きな影響を与えます。上手なつき合い方を考えなければいけません。

高脂質食品はわかりやすく太りやすい


脂肪ののった肉汁あふれるステーキ、生クリームたっぷりのケーキなど、脂質の多い食べ物は「太る」というイメージが強いと思います。実際に高脂質食品が太りやすいことは、経験的にも学術的にも分かっています。

動物実験で肥満モデルを作成するときは高脂質食を与える方法が標準とされているくらいです。研究者として断言できますが、それはもう、期待どおりに太ってくれます。

脂質も重要な栄養素。確かに必要ですが、摂りすぎは肥満を誘発します。そして肥満はさまざまな病気のリスクを増加させます。

高脂質食が肥満を誘発する原因として、前述のとおり同じボリュームを食べたときのカロリーが数倍も高いことが挙げられます。しかし、脂質が肥満を誘発する理由は実は高カロリーだから、だけではないのです。

摂取カロリーが同じでも、高脂質の餌を食べたラットでは、体重が変わらないままで体脂肪率だけが大きく増加したという報告があります。カロリーが高くなくても高脂質食は体脂肪を増やすのです。

高脂質食には体脂肪の分解を抑制する作用、ミトコンドリアでの脂質の燃焼反応を低下させる作用のあることが分かっています。高脂質食は「体脂肪をエネルギーとして使いにくくする」ので脂肪がつきやすくなるのです。

また、高脂質食は、食欲を抑えるレプチンというホルモンの分泌を減らしてしまいます。レプチンに対する感受性も低下させます。つまり、高脂質食品を摂っていると、レプチンが働かないため食欲の抑制がきかず「食べすぎてしまいやすい」という要素まであるのです。


『学術的に「正しい」若い体のつくり方』(著;谷本道哉/中公新書ラクレ)

肥満対策で重要な意味を持つ「肉よりも魚」


とはいえ、ひとことで脂質といっても、それに含まれる「脂肪酸」の種類によって肥満や健康効果には違いがあります。ここで脂肪酸について簡単に説明しておきましょう。

食事に含まれる脂質の大半は中性脂肪(トリグリセリド:TG)です。そして中性脂肪の大半は脂肪酸で構成されますので、食事の脂質は大半が脂肪酸ということになります。

脂肪酸は、炭素の二重結合のない飽和脂肪酸と、二重結合が一つだけある一価不飽和脂肪酸、二つ以上ある多価不飽和脂肪酸の三つに大別できます。

肉類や乳製品に多い飽和脂肪酸の摂取では、魚油などに多く含まれる多価不飽和脂肪酸(DHA、EPAなど)と比べて脂質がエネルギーとして使われにくく、体脂肪の蓄積量が大きくなることが報告されています。

ですので体脂肪が気になる方は、飽和脂肪酸の多い肉類や乳製品を摂りすぎないようにすべき、ということになります。「肉より魚」は、主には動脈硬化対策などの健康面からいわれる言葉ですが、肥満対策にも重要な意味を持つのです。

脂肪酸の種類が動脈硬化・認知症とも関連


さらに肉類に豊富に含まれる飽和脂肪酸は、動脈にコレステロールを付着させて動脈硬化を進めるLDL(いわゆる悪玉コレステロール)を増加させ、さらには付着したコレステロールを回収して動脈硬化を改善するHDL(いわゆる善玉コレステロール)を減少させてしまうことが認められています。対して、魚に豊富な多価不飽和脂肪酸はLDL(悪玉)を減らします。

肉の脂身は「悪い脂質」、植物油や魚の脂身は「善い脂質」などといわれる主な理由は、このような動脈硬化に与える影響の違いにあるでしょう。

なお、魚の多価不飽和脂肪酸等による脳血管の状態改善は、脳血管性認知症の予防にもつながります。脳血管性認知症は全体の15%ほどですが、70%程度を占めるアルツハイマー型認知症にも実は有効です。

アルツハイマー型認知症は、脳内に老人斑(アミロイドというタンパク質)が蓄積するために起こるとされますが、この老人斑形成予防にも魚に含まれる脂肪酸が効果的だということが分かっています。脳神経の炎症を抑える作用や、脳神経の材料となることなどがその理由とされています。

魚を週3回以上食べる習慣がある人は認知症のリスクが半分になるという研究もあります。魚の脂肪酸は「頭」によいのです。


魚を週3回以上食べる習慣がある人は認知症のリスクが半分になるという研究もあり、魚の脂肪酸は「頭」によい(写真提供:Photo AC)

脂肪酸組成の割合


さて、肉類には飽和脂肪酸、植物油や魚には不飽和脂肪酸という流れで話を進めてきましたが、正しくは、ほかの食品と比べて「飽和脂肪酸の割合が多い」「不飽和脂肪酸の割合が多い」となります。

各食品の脂肪酸組成を図示します(図)。飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸であるn−6系とn−3系の四つに分けてグラフ化しています。

多価不飽和脂肪酸を二つに分けたのは、n−6系とn−3系で、体に与える生理作用に大きな違いがあるからです。

魚油に豊富なn−3系は前述のとおり血管、脳機能などへ望ましい影響を与えます。

揚げ物など調理によく使われる植物油に豊富なn−6系も大切な脂肪酸なのですが、摂りすぎると悪玉のLDLを増やしたり、炎症を誘発したりすることが知られています。

覚えておきたいこと


肉類では、牛肉、豚肉の場合は飽和脂肪酸の割合が40〜50%程度(残りの50〜60%が不飽和脂肪酸)と多めです。鶏肉なら飽和脂肪酸の割合が30%程度と牛、豚よりやや少なめになります。

ですので血管系の状態改善を考えた場合、同じ肉を摂るなら「脂肪酸組成的には牛や豚より鶏がよい」ということになります。

そして揚げ物などによく使われる植物油の組成を見ると、飽和脂肪酸の割合は5〜15%程度とかなり低くなります(例外:ヤシ油は90%程度と高い)。

飽和脂肪酸が少ないという点ではよいのですが、摂りすぎを控えるべきn−6系の多価不飽和脂肪酸がやや多いという特徴があります。

ただしオリーブオイルならn−6系が少ないので、オリーブオイルで揚げ物をつくるというのは一つの健康調理法といえるでしょう。俳優の速水もこみちさんも、youtubeなどで料理する際によくオリーブオイルを活用されていますよね。試してみてはいかがでしょうか。


n−6系が少ないオリーブオイルで揚げ物をつくるというのは一つの健康調理法といえる(写真提供:Photo AC)

魚の場合、魚種によりますが、飽和脂肪酸は20〜30%程度と肉類よりはおおむね低めです。そして特筆すべきは、魚は、前述の健康効果の高い、n−3系の多価不飽和脂肪酸が非常に豊富であること。ほかの食品ではくるみにn−3系が多く含まれます。

飽和脂肪酸(主に肉)、n −6系不飽和脂肪酸(主に調理油)は摂りすぎないよう、n −3系不飽和脂肪酸(主に魚)はある程度しっかり摂る、と覚えておきましょう。

※本稿は、『学術的に「正しい」若い体のつくり方』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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