森永卓郎 お金をかけずに豊かな老後を過ごす方法とは?教養のない人はお金でエンターテインメントを買うしかない
2025年4月10日(木)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
テレビやラジオなど多くのメディアで活躍した経済アナリストの森永卓郎さん。2023年末にがんであることを公表してからも活動を続けていましたが、2025年1月28日に逝去されました。今回は、森永さんが病と闘いながら書き遺した著書『森永卓郎流「生き抜く技術」ーー31のラストメッセージ』から、森永さん流<生き方の本質>を一部引用、再編集してお届けします。
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東京ディズニーリゾートが楽しいのにはワケがある
東京は誰をも魅了する刺激にあふれた街だ。世界中の美食を集めたレストラン、さまざまな劇団がしのぎを削る小劇場、一流のブランドショップなど、田舎では絶対に経験できないスポットがぎっしりと詰まっている。
私のゼミには、毎年数人、東京ディズニーリゾートに夢中になる学生がいる。なかには、好きが高じてキャストになる学生も少なくない。
彼らの話を聞くと、本当に楽しいと言う。私も、それは当然だと思う。楽しくなるように作られているからだ。
一流レストランの料理がおいしいのも、一流の舞台を見るとワクワクするのも、すべてそうなるように綿密な計算があり、努力が積み重ねられているからである。
ただし、そうしたエンターテインメントを楽しむためには当然「カネ」が必要だ。だから東京はカネのある人には天国だが、カネのない人には地獄だ。
教養レベルを上げれば……
一方、大都市以外には、お金のかからないエンターテインメントがいくらでもある。
たとえば、草原に寝っ転がって空を眺めていれば、さまざまな雲が流れてくる。小鳥のさえずりが聞こえてくる。近所を少し歩くだけで、さまざまな植物が芽を出し、花を咲かせている。
ただし、それらを楽しめるかどうかは、その人の持つ教養レベルに大きく依存する。
雲の名前、鳥の名前、虫の名前、植物の名前を知っているかどうか。どこにきれいな湧き水があるのか。どこで魚釣りができるのか。どこに秘湯があるのか……。それを知らなければ、田舎は楽しくない。
逆に言えば、教養レベルを上げれば、エンターテインメントを楽しむために、わざわざムリをして働く必要はなくなるということだ。
日本で一番面積の小さい村は、富山県の舟橋(ふなはし)村というところで、面積は3.47平方キロメートルだという。その広さは、東京都千代田区の3分の1にも満たない。村内には、工場がひとつあるだけで産業の大部分は農業だ。
ところが、そんな小さな村に異変が起きている。人口が急増しているのだ。1985年の村の人口は1419人だったが、2025年には3313人と2倍以上に増加している。
一体なぜ、そんな奇跡が起きたのか。
エンターテインメントも「自給」できる
舟橋村は、富山市に隣接している。そして、富山地方鉄道本線の電鉄富山駅と越中舟橋駅は5駅、15分ほどで結ばれている、とても立地のよい村なのだ。つまり舟橋村は、富山市のベッドタウンとして、人口を急増させているのである。
しかし、単に立地がよいという理由だけで人口が増えたのではない。舟橋村は、文化振興を最優先した政策を実行しているのだ。
(写真提供:Photo AC)
たとえば、越中舟橋駅には駅舎と併設する形で図書館が建設された。県からは「分不相応の立派な図書館」として、厳しい意見を言われたそうだが、それを押し切ってのことだ。そのおかげで、住民1人当たりの貸出冊数は年間26.2冊と日本一を誇っている。
また、舟橋会館というコミュニティセンターには、270人収容の大きなホールが併設されている。舟橋村民の10人に1人が訪れないと満席にならない「過剰設備」だ。ところが、住民の学習意識が高いため、満席になるのだという。
実は、私も講演会で呼ばれて行ったことがある。当日、2019年11月3日は三連休の中日であったにもかかわらず、ホールは立ち見が出るほどの満席だった。
このように文化・教養のレベルを上げていく政策をとっていけば、住民は集まってくる。
そして、そうした村の文化振興策のなかで、私が一番心を打たれたのが、農業の遊休地対策だった。
舟橋村もご多分に漏れず、高齢化で農業を廃業する住民が増えている。そこで、村が耕作放棄地を借り上げ、細かく区分けして、サラリーマンの世帯に貸し出しているという。しかも、農作物の栽培方法を、プロの農家から教えてもらえる仕組みにしているそうだ。
富山市という都市で基本的な生活費を稼ぎ、ときに、さまざまな文化的な刺激を受けて、短時間で田園風景の広がる豊かな自然に囲まれた自宅に帰る。
そして、晴れた日には畑に出て耕作に勤(いそ)しみ、雨が降れば図書館で本を読む。まさに「晴耕雨読」の生活である。
講演後に住民の人たちと少し話をした際、驚いたことに、皆が経済学者レベルの話を普通にしていた。
「なぜ、そんなに経済に詳しいんですか?」という私の問いに、「だって図書館でたくさん本を読んでいるからね」という答えが返ってきた。
舟橋村には、現役時代、定年後を問わず、ずっと住み続けられる豊かな生活環境と、自然と教養が身についていく文化的環境というふたつの特徴がある。それが人口の急増をもたらした最大の要因ではないだろうか。
好きなことをやっていけば、自動的に教養は積み重なっていく
大都市でカネを稼ぐことに追われる生活から逃れる術(すべ)は、自分で農業をして食料の自給をすることと、太陽光パネルで電気を自給することがコスト面ではメインになる。そして、もうひとつ重要なのはエンターテインメントを自給することではないだろうか。
私の同級生は60代後半を迎えて、軒並み年金生活に入っている。
なかでも、豊かな老後を過ごしているな、と私が感じるのは、若いころにやっていたギターやドラムを再び取り出し、仲間とバンドを組んで音楽活動をしていたり、一眼レフのカメラを持ってあちこち撮影に出かけたり、俳句の会に所属して俳人になったり、オリジナルの紙芝居を作って児童施設などで披露したりしている人たちだ。
彼らのエンターテインメントには、ほとんどお金がかかっていない。それでも、大都市で提供されているお金のかかる出来合いのエンターテインメントと同じか、もしかしたら、それを超えるくらいの刺激を受けて活動をしている。それもこれも、自ら楽しむための教養を身につけていればこそだ。
教養というと、何かむずかしいことを想像されるかもしれない。だが、好きなことをやっていけば、自動的に教養は積み重なっていく。
そうして、教養を身につけること自体が一種のエンターテインメントになるのだ。
エンターテインメントは、どこにでも転がっている。ただ、それを楽しむ教養のない人は、お金でエンターテインメントを買うしかない。
※本稿は、『森永卓郎流「生き抜く技術」ーー31のラストメッセージ』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
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