生徒減少に悩む北海道・斜里高校、「地域みらい留学365」で、全国へ魅力を発信

2024年4月10日(水)19時13分 マイナビニュース

少子高齢化が著しい地方では、生徒減少に悩む学校が少なくない。北海道斜里高等学校(以下、斜里高校)も、そのひとつだ。問題を払拭すべく、斜里高校では令和3年度から「地域みらい留学365」の留学先として、留学生の受け入れを行っている。
「地域みらい留学365」とは、高校2年生の1年間、在籍する高校から離れ、地方の高校で過ごすことができる留学制度だ。内閣府の「高校生の地域留学の推進のための高校魅力化支援事業」として、令和2年度にスタートした。
「地域みらい留学365」によって、地方の高校や留学生に、一体どのような効果がもたらされているのか。斜里高校にて「地域みらい留学365」のPR活動や留学生のサポートを行う山本さんと、3期生(令和5年度)として留学を経験したモーガンさんに話を聞いた。
※本取材は、モーガンさんの留学中(令和5年度3月)に行ったものです
○斜里高校が選ばれるように。斜里町が「地域みらい留学365」に込めた想い
人口約11,000人の町・斜里町に校舎を構える斜里高校は、今年で開校83年を迎える。開校時は、普通科・商業科高校だったが、2004年に総合学科に転換した。
海や山に5〜10分ほどで行くことができ、町に出れば生活に必要なものはすべて揃う。大自然と利便宜を兼ね備えたロケーションこそ、この学校の特徴だ。
山本さん「なんといっても、世界遺産のまち・知床にあるのが、この学校の良さだと思います。なかでも特徴的なのは、地域の自然をどういう風に活かしていくかについて学ぶ『知床学』という授業でしょうか。知床は、農業や漁業といった第一産業が安定している町なので、知床の食材や自然、観光など、さまざまな視点から知床について学んでもらっています」
「知る、広げる、伝える」をテーマに、知床について深く学ぶ「知床学」。2年生では、バスに乗って森に行くなど、体験形式の授業も多い。その取り組みが評価され、2011年にはユネスコスクールに認定された。しかし、そんな名誉のある認定を受けてもなお、斜里高校は生徒の減少に悩んでいたという。
山本さん「以前は、各学年3クラスあった斜里高校ですが、今では1クラスにまで減少してしまいました。理由は、人口減少もありますが、そもそも“選ばれる高校になれていなかった”のだと思います。というのも、2004年に総合学科に転換した頃から、『総合学科って何かよくわからない』と他の学校を選ぶ生徒が増えてしまったんですね。魅力が伝えきれていなかった結果だと思います」
普通科目・専門科目の両方を学べる総合学科。1994年に導入されたものの、普通科が大半を占める日本では、未だに総合学科の制度は浸透していない。
山本さん「町の教育委員会が『どうにかしたい』と思っていた頃、『地域みらい留学365』の事業について知り、斜里高校と町が『やってみよう』と手をあげたのが、本取り組みのはじまりです」
○森に触れ、町に溶け込む。斜里高校ならではの留学生活
高校に入学してたった1年しか経っていない学生が、本当に斜里高校に来てくれるのかーー誰もが不安に思っていたが、1期生で2名、2期生で1名、そして3期生ではモーガンさん1名が留学生として斜里高校に来てくれた。留学する理由は、生徒によってさまざまだ。
モーガンさん「僕が『地域みらい留学365』に応募をしようと思った理由は、親元を離れて自立したかったのと、海の近くに住んでみたかったからです。実家は神奈川県にありますが、海がない地域で……。斜里高校を選んだのは、教育課程が合ったのと、流氷を見てみたかったからですね」
他の留学先が、寮で受け入れを行うなか、斜里高校では「町に住んでもらう」をテーマに、ペンションや民宿にホームステイさせる形で受け入れを行っている。町での暮らしについて「まるで家のように過ごせる」とモーガンさんは言う。
モーガンさん「個室なので、プライバシーが確保されています。実家にいるときは、兄弟が勝手に部屋に入ってきたりしていたので、居心地のよさはこっちのほうがいいかも(笑)ペンションの人もちょうどいい距離感で接してくれるので、とても楽に過ごせました」
また、斜里高校の留学生は、知床財団の活動である「知床の森づくり」のメンバーとして、ボランティア活動に参加できる。知床財団とは、“知床で自然を「知り・守り・伝える」”を目標に活動している公益財団法人だ。
山本さん「知床財団では月4回、森づくりのボランティアを募集しているのですが、すぐに定員に達して締め切ってしまうんですね。でも留学生は、締め切った後でもボランティアに参加することができるんです。ちなみにボランティアへの参加は強制ではなく、参加できる日に参加してもらう形にしています」
モーガンさん「10月の植樹祭など、森づくりの活動には7回くらい行きました。『知床学』で行った植樹は植えて終わりでしたが、ボランティアでは、柵を立てたり針金で固定する作業もあって、とても新鮮でした」
○外部からの刺激で学校が変わる、知床を知って留学生の価値観が変わる
令和5年度で、すべての学年が留学生の受け入れを経験した斜里高校。それによって、学校全体に良い変化がみられたという。
山本さん「生徒のコミュニケーションが良い方向に変わりました。私が初めて斜里高校に来たときは、挨拶はしてくれても全体的に大人しい印象だったんですね。でも今の子たちは、挨拶も以前より明るいし、話しかけてもすぐに返してくれるんですよ。それは『地域みらい留学365』のおかげだよねって、先生方とも話しています」
新しい出会いが多い都会の高校では、自分のことを知ってもらうためのコミュニケーションが必要不可欠だ。しかし斜里高校の場合、保育園から同じ顔ぶれで過ごしているため、コミュニケーションに甘えが生じていたと山本さんは言う。
山本さん「1期生いわく『この子に、これは言わなくていいや』みたいな暗黙の了解みたいなものが、当時の生徒間であったようです。でもその1期生の子が『なぜ言わないの? 伝えなきゃわからないままじゃない?』と指摘することで、クラス全体がどんどん変わっていったんですね。留学生をきっかけに、生徒たちが『はっきり言うこともコミュニケーションだ』と分かったんだと思います」
また、良い変化があったのは留学生も同様だ。モーガンさんの場合、部屋で過ごすことが多かった状況から外で遊ぶ楽しさを知り、挑戦することへの怖さがなくなるなど、さまざまな変化があった。なかでも、「留学によって視野が広がった感覚があった」と語る。
モーガンさん「僕は元々、設計士になりたかったのですが、今は海に関係する仕事にも興味があります。きっかけは、インターンシップです。斜里高校では3日間、農家さんやホテルなどで職業体験をするのですが、僕は建設会社を選びました。その会社で海沿いの柵の役割などを教えてもらって、そのときに『柵をつくる仕事もあるんだ』って気づきました。留学中に視野が広がったので、今後はやりたいことを決めたいですね」
地域みらい留学を3年間実施してきた斜里高校。今年度は定員にあたる3名が4期生として来てくれた。
山本さん「3名いると、SNSの更新やボランティアへの参加を協力して行えるので、もっと動きが活発になると思います。やっぱりすぐに生徒数が増やせるわけではないので、まずはさまざまな活動をしていることをたくさんの人に知ってもらって、斜里町と高校と留学生の地元との繋がりを、より強固なものにしていきたいですね。その結果、留学生に斜里町を『第二のふるさと』と感じてもらい、卒業しても交流できる関係を目指したいです」
高校の魅力を、斜里町、そして全国へ。「地域みらい留学365」を通して、斜里高校の取り組みは、これからも続いていく。

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