2025年5月末に運転開始! 西武鉄道8000系「サステナ車両」を徹底解説【豆知識10選】
2025年4月14日(月)21時45分 All About
西武のサステナ車両8000系の改修工事が完了し、2025年5月末の営業運転開始に向けて最後の調整段階にさしかかった。この車両はどのようなものか。車両の外観や車内などの豆知識を「10のチェックポイント」としてまとめてみる。
1. サステナ車両とは?
サステナ車両とは、西武鉄道独自の呼称である。使用電力量を大幅に削減するためにVVVFインバータ制御車両の導入を図ることが重要だが、全て新造車両で賄うと予算も膨大なものとなる。そこで、他社で余剰となったVVVF化した車両をリユース(再使用)することで経費を削減することとなった。新車製造や車両廃棄で排出するCO2を削減することもできるため、環境にやさしく、SDGsへの貢献もできる。それゆえ、他社から譲受したVVVFインバータ制御車両を「サステナ車両」として定義した次第だ。
2. 小田急8000形から西武8000系へ
西武のサステナ車両第1弾は小田急8000形の譲受だ。鉄道車両は単体の場合は、D51形蒸気機関車のように「形」で表示する。電車も古くは1両ずつ切り離して自在に連結していたのでモハ151形のように「形」が主流だったが、固定編成といって、例えば10両編成をバラバラにして運用することがなくなってからは、101系のように「系」で表示することが一般的になった。しかし、鉄道会社によっては、今も「形」で表示している会社がある。関東では、京急電鉄、小田急電鉄、京成電鉄が車両を「形」と呼んでいる。これは法令で定められているわけではないので、各社の慣例を尊重するしかない。
今回の小田急8000形は西武が譲受し、西武の慣例にしたがって8000系と命名された。
3. 新デザインの意味するもの、デザイナーは誰?
西武8000系は、小田急8000形時代は、アイボリーに青帯が一本入った塗装だった。西武8000系となり、塗装がどうなるか注目されていたが、西武電鉄のコーポレートカラーである「ブルー」「グリーン」をベースに「永遠」「発展」「繁栄」を表わす市松模様にアレンジしたデザインが採用された。これは、西武鉄道社内で車両の整備、点検や管理を行う社員よりデザインを募集し、その中から若手社員が発案したものを選び、外部の協力を得ながらも満足できる仕上がりになったようだ。「昔から走っている西武の電車みたいだけれど、なんか違うね、というイメージを利用者に持ってもらえたら」とは関係者の弁。
4. 車内の様子
座席は通勤型車両なので、オールロングシートだ。ドアとドアの間は7人掛けでこれは小田急時代と同じである。車端部は4人掛けだったが、3人掛け用にシートを変更(バケットのへこみの位置を変えた)。ゆったりとしたものとなった。運転台後ろの車椅子スペースには跳ね上げ式の座席が収納されているが、これは変わっていない。5. 元小田急車と分かる痕跡は?
車内に提示される銘板が変更となった。新造以来一度改造が行われているので、それを示すものと2024年に小田急エンジニアリングで改造された旨が記されている。6. なぜ小田急から譲受したのか?
西武ではVVVFインバータ制御車両で譲受できそうなものを全国の鉄道会社にあたっていた。その中で、車両長20m、4扉車であること、ホームドアの関係でドアの位置が合うもの、改造工事ができるだけ少なくて済むもの、ある程度まとまった車両数が譲受でき、2030年までに調達可能なものといった条件をクリアできそうな車両が小田急にあったということが決め手になったという(西武鉄道 鉄道本部 車両部 車両課 窪谷紀生(くぼのや のりお)氏の話)7. 小田急から西武へ、どんな経路でやってきたのか?
小田急と西武の線路は直接つながっていないので、JR線を介して回送された。かつてのように、小田急とJR、西武とJRの線路がつながっている個所も限られている。まずは、小田急の車両基地から小田原線の新松田駅近くの短絡線(特急ふじさんが使用中)を介してJR御殿場線へ。ここからはJR貨物の電気機関車にけん引されて、沼津駅へ。ここで進行方向を変え、東海道本線上り線を走行、貨物線を経由して川崎貨物駅へ。そこからは、尻手駅、新鶴見信号場駅、武蔵野線を経由して新秋津駅に至る。
ここで先導してきたJRの電気機関車は任を解かれ、西武の101系4両編成(電気機関車代用)と連結され、単線の連絡線を経由して所沢駅へ。さらに西武池袋線で小手指車両基地へ向かった。
8. 西武のどの路線で走るのか?
サステナ車両はいわゆる支線での活躍が予定されている。8000系は6両編成なので国分寺線(国分寺駅〜東村山駅)で使用される(他の支線は4両編成もしくは8両編成)。国分寺線は、元川越鉄道(本川越駅〜国分寺駅)の路線の一部で2025年3月に全線開通130周年を迎えた西武最古の路線だ。この記念すべき年に国分寺線に新たな車両が導入されることとなる。9. 車両基地はどこ?
西武拝島線沿線の玉川上水車両基地所属となる。国分寺線の車両基地はもともと新宿線沿線にある南入曽車両基地(埼玉県狭山市)だったが、東村山駅付近の高架化工事のため、新宿線との直通運転ができなくなり、玉川上水車両基地に変更されている。10. サステナ車両の今後
8000系の第2編成以降の予定は小田急側の都合もあるので未定となっている。その前に、東急9000系の譲受が先になる模様だ。サステナ車両第2弾がどのように変身して私たちの目の前に姿を現すのか楽しみである。取材協力=西武鉄道
※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正いたします(4月14日23時10分:編集部追記)
誤:特急あさぎり 正:特急ふじさん
この記事の筆者:野田隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。
(文:野田 隆)