新社会人の第一印象を決める「白い歯」と「爽やかな息」 - 歯科医師が歯ブラシと歯磨き粉の選び方を解説
2025年4月17日(木)15時31分 マイナビニュース
心理学者アルバート・メラビアン提唱の「人が他者から受ける情報の割合は、視覚55%、聴覚38%、言語7%」という法則がある様に、視覚は最もその人の印象を決定づけます。そして顔の印象70%は口元からくるとも言われています。まだ仕事に慣れず実力が発揮できていない新社会人が先輩・上司からの評価を得るためにも第一印象を大切にしたいもの。そこで今回は「白い歯と爽やかな息」を手に入れるためのオーラル・ケアについて解説します。
種類が多すぎる歯ブラシ、ベストな1本の選び方
ドラッグストアのオーラル・ケア用品のコーナーには「これでもかっ!」というぐらいに歯ブラシや歯磨き粉、マウスウォッシュが並んでいます。「一体、どれを選んだら良いのか?」と迷った経験があるのではないでしょうか。そこで歯ブラシ選びの「意外な選択基準」をご紹介しましょう。
それは「あなたの口臭のタイプ」です。口臭は弱かれ強かれ、誰にでもありますが、「ゆで卵」に近い臭いのタイプと「台所の三角コーナー」のような臭いのタイプに分かれます。
どちらのタイプか確かめるには、20cm×30cm程度の薄いビニール袋を準備します。袋の中に温かみが残るくらいにそうっと息を吐き出し、袋が空気でいっぱいになったら袋を締めます。一度、鼻でゆっくり深呼吸をして嗅覚をリセットしてから、温かみがあるうちに袋を少し開け、中の臭いを嗅いでください。
もし「ゆで卵」の臭いなら生理的口臭から来る、誰にでもある口臭です。この場合は虫歯ケアを考えたオーラル・ケアがお勧めです。歯ブラシの毛先がフラットで先端が丸くなった、歯の表面の清掃効率が高い「ラウンドタイプ」でしっかりと歯磨きをしてください。
「台所の三角コーナー」の臭いだった場合は歯周病が原因なので、毛先が先端に向かって細くなっている「テーパードタイプ」で歯と歯の間の細かいところまでしっかり磨いて歯周病ケアを行います。
ただし歯周病が原因の場合の口臭チェックは、パートナーなど他者に行ってもらいましょう。歯周病はサイレント・ディジーズ(沈黙の病気)と呼ばれるほど、症状を自覚することは難しいからです。歯周病菌は歯ぐきの神経を麻痺させ、歯がグラグラになって知覚も麻痺させる最恐のバイ菌であり、同様に歯周病菌は嗅覚も麻痺させるため、歯周病が原因の口臭があっても自分では気づけないのです。
ところで歯ブラシの毛の硬さには「硬め」「普通」「柔らかめ」の3段階がありますが、「硬め」は歯へのダメージが大きいのでお勧めできません。毛の硬さは歯ブラシを歯に押し付ける力と比例します。つまり「硬め」だと力がかかりすぎ、「柔らかめ」は力が弱くなります。新しい歯ブラシの毛先が2週間以内に開いてしまう人は力が強すぎるので、「柔らかめ」にしましょう。自然と力が抜けて適切なブラシ圧に近づきます。
また、「ラウンドタイプ」の場合は「普通」、「テーパードタイプ」の場合は「柔らかめ」を選択してください。歯ブラシの握りは「グー」ではなく「エンピツ」を持つように指先で持ちましょう。
「爽やかな息」の必需品、これだけは1本持って!
「生理的口臭」は「ゆで卵」の臭いと言いましたが、この臭いの元があるのは舌の表面です。猫の舌がザラザラしているように、人間の舌の表面にも小さな突起(乳頭)があります。この表面に粘膜から剥がれた組織が沈着し、その下に口臭菌が住みつき口臭の原因となる物質(発揮性硫黄化合物)を発生します。
生理的口臭は舌の表面をキレイに清掃すれば瞬時になくなります。舌表面をガーゼで拭っても良いのですが、毎回の手間を考えて舌清掃専用に「舌ブラシ」を使うと効果的にキレイにできます。「舌ブラシ」にもさまざまな種類がありますが、最初はブラシだけのタイプで柔らかい物から使い始めましょう。
鏡の前で舌を「あっかんべー」の様に前に突き出して観察すると、舌の中央付近が白くなっているのが見えるでしょう。奥にいくに従って白さが濃くなっている人もいると思います。この白いのが舌の「汚れ」です。「舌ブラシ」を舌の奥から手前に擦るように、表面を数回清掃してください。手前から奥に動かしてしまうと、舌の表面に潜んでいるバイ菌を喉に押し込むことになるので方向は間違えないように。舌は柔らかいですから、力の入れすぎにも注意。舌の表面を傷つけ、出血する人も散見されます。一度に全部清掃できなくても、1日2〜3度を目安に行うと汚れや口臭は気にならなくなり、「爽やかな息」を手に入れることができるでしょう。
時々、歯ブラシを代用する方がいますが、歯ブラシは硬い歯を清掃する様にデザインされています。柔らかい舌を清掃するのには不適切ですから控えた方が良いでしょう。
また、歯周病は自分だけのオーラル・ケアでは「絶対」に治りません。歯周病の口臭は「メチルメルカプタン」という物質が原因です。これは日本の法律では「毒物」に指定されており、その毒性は「青酸ガス」に匹敵します。歯医者さんで歯周病治療を受けて、怖い物質を直ぐに体から追い出してください。
用途に合わせて選びたい歯磨き粉、1本に絞るなら?
歯磨き粉は老若男女を問わず、フッ素入りを使いましょう。フッ素は歯の表面を強くして虫歯予防を強固にします。最近の歯磨き粉はほとんどがフッ素配合なので、選ぶ時に「一応」確認するぐらいで良いでしょう。
新社会人の方へのお勧めは「CPC(塩化セチルピリジウム)」配合の歯磨き粉です。口腔内のバイ菌は700種類あり、1g(耳かき1杯分)に1,000億の密度でバイ菌が生息しています。この密度はウンチと同程度なので、いかに口腔内が汚いのか想像できるでしょう。しかもウンチは褐色なのに対し、口腔内のバイ菌は白いので歯の色と同化してしまうため分かりづらいのです。口腔内のバイ菌の70%は歯の表面に付着しており、CPCはバイ菌をやっつける効果があります。CPC配合の歯磨き粉の例を挙げるならサンスターの「G・U・M」です。
歯周病が気になる人は「IPMP(イソプロピルメチルフェノール)」配合の歯磨き粉を選んでください。歯周病菌は特殊な菌膜(バイオフィルム)に覆われて、歯の表面に強固にこびり付いています。これを完全に剥ぎ取るには歯科医院でないと難しいのですが、IPMPは菌膜の表面を攻撃して内部に浸透し、歯周病菌をやっつけます。ライオンの「システマEX」などにはIPMPが配合されています。
歯の表面の着色(ステイン)を落とすなら「ピロリン酸ナトリウム・ポリリン酸ナトリウム」配合の歯磨きを使ってください。これらの成分は汚れを浮かして化学的に除去してくれるので、歯の表面を傷つける心配がありません。僕はその成分が入ったライオンの「Brilliant more」を使っています。
実は「選んではいけない歯ブラシ、歯磨き粉」もある
昨年、友人のお医者さんからアメリカ製の歯ブラシを勧められました。その歯ブラシはサイズが日本のそれより一回り大きく、硬めの毛先がさまざまな方向を向いて「けったいな」形でした。歯科医師という職業柄、その珍しいデザインに興味があったので試しに2週間使ってみました。その結果、歯と歯の間にたっぷりの磨き残しがあり、とても歯医者の口の中とはいえない状態になりました。この様に選んではいけない歯ブラシ、歯磨き粉もあるのです。
まずNG歯ブラシですが、豚毛など動物の毛を使ったものは歯ブラシの内部で菌が繁殖するので選ばない方が良いです。通常のナイロン毛は内部が乾燥しやすいので菌が繁殖しにくくなっています。
最近は毛先がラバー素材の歯ブラシもあります。これで歯を磨くと歯の表面がツルツルするので、汚れが落ちている様に感じます。しかし実際には汚れはそんなに落ちていないのでお勧めしません。
外国に行くとサイズの大きい歯ブラシを目にすることがありますが、これも避けましょう。小回りが効かないので、歯と歯の間など細かいところに磨き残しが生じるためです。また先述した「けったいな」形だけでなく、これまで数多くの変わった形の歯ブラシを使ってみましたが、どれもイマイチでした。やはりデザインはシンプルで、サイズはやや小さめの歯ブラシがお勧めです。
歯磨き粉で避けてもらいたい成分が「研磨剤」です。以前は歯の表面の汚れを落とすとされて多くの歯磨き粉に入っていましたが、長年使用すると歯の表面を傷つけてエナメル質がザラザラと粗造になり、逆に汚れがつきやすくなります。また数多くある歯磨き粉に含まれている成分を見ると、時に「?」と思うような効果が信用できないものもあります。さすがに人体に有害な成分は配合されていないでしょうが、魔法のような効能を謳っている時には鵜呑みにしないほうが良いかもしれません。
そして歯ブラシにも歯磨き粉にも言えますが、安価すぎるものは品質が保証されないので敬遠した方が無難です。
ランチ後のケアやベストなうがいのタイミング
うがいは粘膜表面や歯の周りの汚れを落とす効果があり、手軽に行えるので、日常からうがいの習慣を持つとお口のコンディションを良い状態でキープできるようになります。
うがいを最も行って欲しいタイミングは起床時です。寝ている時は唾液の分泌量が減り、口の中が乾燥しやすくなっているので、唾液の洗浄効果や殺菌効果が望めなくなります。口の中のバイ菌は、起床時は寝る前の30倍に増加。そのまま何か飲んだり食べたりすると、増えた菌を体内に入れることになります。
また、口の中のバイ菌は歯磨き後に減少しますが、時間と共に増殖し、歯磨き後4〜7時間で歯磨き前の状態に戻ります。食事前が最もバイ菌が多いタイミングになるので、食事前にうがいをするとバイ菌が体内に入る恐れを減少できます。
ランチ後にも歯磨きをしてもらいたいのですが、外食などのシチュエーションでできない場合、うがいだけでも行うと、(うがいをしないよりは)お口の状態は全然違います。
うがいをするなら「全力5秒うがい」がお勧め。NHK「あさイチ」で立証された効果は、普通のうがいでの除菌率63%に対し、「全力5秒うがい」では93%でした。方法は100mlの水をコップに入れ、3分の1を口に含みます。唇を閉じて全力でブクブクうがいを5秒間します。この際に頬を膨らませながら行うのですが、同時に舌を前後に激しく動かしてください。それが終わったら上を向いて口を開けてガラガラうがいを5秒。この際には喉の動きを観察しながら行うと効果的です。これを3セット行います。
歯科医師・歯学博士・MBA : 宮本日出 日本顎関節学会代議員・専門医・指導医。 1965年、石川県金沢市生まれ。愛知学院大学歯学部卒業後、石川県立中央病院歯科口腔外科に勤務。1994年、豪アデレード大学歯学部で研修し、1996年から同大学歯学部口腔顎顔面外科招待研究員に。2000年から明海大学歯学部の教員に就任。2007年、幸町歯科口腔外科医院を開業。国内外に160編以上の論文を発表している。 著書に『お口からの感染予防』(ギャラクシーブックス)、『レモン水うがいダイエット』(あさ出版)がある。 この著者の記事一覧はこちら