味わい深いうんちの役割 【辛酸なめ子 コラムNEWS箸休め】
2025年4月19日(土)9時55分 OVO[オーヴォ]
(C)2025 Nameko Shinsan
約150点の動物のうんちが一堂に会するGallery AaMo(ギャラリー アーモ)の「うんち展 No UNCHI,No LIFE」。会場に行ったら、インナー小学生男子が呼び覚まされたのか、中年男性が「こんな展示見たらうんちしたくなっちゃうよ!」と嬉(うれ)しそうに話すのが聞こえてきました。ふだん声に出してなかなか言えない単語を会場内では堂々と発せられるのにもカタルシス感が。
展示はうんちの役割や多様性を学べる充実した内容でした。動物の剝製とうんちだらけでしたが、ケースに入っているというのもありますが、不思議とにおいませんでした。動物のは自然由来のものでできているからでしょうか。人間にとっては汚物で即トイレで流して存在を消し去っていますが、自然の中では巣の材料になったり、身を守るアイテムだったり、コミュニケーションの手段だったりします。何より種を散布する大切なツールです。例えばキツネザルは果物を食べて種子入りのうんちを排出することで広く散布されます。タヌキは他の個体のうんちのにおいを嗅いで、どんな個体で何を食べているのか情報交換をしているとか。テンは目立つところにうんちをして縄張りアピールをする習性があるそうです。人間も嫌がらせとして排泄(せつ)物をまき散らすことがありますが・・・。動物たちのほうが、生きるため、地球のために、純粋にうんちを有効活用しています。ウサギなど、自分のうんちを食べることで消化を促進したり、微生物や栄養を摂取する生き物もいます。人間だと特殊な趣味になり、スペインの議員が排泄物を食べている映像が流出して辞任した、という事件もありました。その議員の健康状態が良くなったかどうかは・・・不明です。見た目を虫のうんちに似せる「糞擬態(ふんぎたい)」で天敵から身を守る昆虫「ツツジコブハムシ」の一生も味わい深いです。命を守るのと引き換えにうんちの姿で一生を送る・・・。究極の手段ですが、人間が滅亡した後もしぶとく生き残りそうです。
動物のうんちの活用例として、象のうんちで作った紙や、ジャコウネコの糞から作られるコーヒー「コピ・ルアク」、ウグイスの糞が原料の化粧品なども紹介。人間のうんちは、下水を利用した航空燃料の開発や、腸内細菌を改善する便移植などの研究が進んでいるようです。もし自分のうんちが世の中の役に立てるなら、生きているだけでも良いと思えて人類の自己肯定感が高まります。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 15からの転載】
辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。2024年7月に「川柳で追体験 江戸時代 女の一生」(三樹書房)を上梓。