「“障害は個性”と言われると違和感」外見に症状を持つ女性が語る“当事者の本音”と支えになった“母の一言”

2025年4月20日(日)17時30分 週刊女性PRIME

トリーチャーコリンズ症候群の山川記代香さん(左)と口唇口蓋裂の小林えみかさん



「“病気だから”と諦めたくない」。そう語るのは、重度の口唇口蓋裂の小林えみかさんと、小林さんの友人でトリーチャーコリンズ症候群の山川記代香さん。見た目の症状を伴う先天性疾患を持つふたりは、同い年ということもあり、悩みを共有できてなんでも話せる仲だという。

 Youtubeチャンネルで対談したり、ふたりで講演会を行ったりしている彼女たちに、経験を重ねてたどり着いた“外見との向き合い方”、そして他者とともに生きる社会への思いを聞いた。

ジロジロ見られたり、指をさされて笑われる

 小林さんはこれまでに20回以上の手術を受けてきた。口唇口蓋裂に加え、両耳の高度難聴、小耳症、心臓疾患など、複数の症状を抱える。「顎の病気の手術も何度か経験しました」と振り返るその声には、過去の痛みとともに、確かな強さがにじむ。

 山川さんもまた、16回の手術を経験してきた。「ミルクが飲めない状態で生まれて、口の上部の手術から始まりました。耳は耳たぶしかない状態で、片耳4回ずつ、計8回の手術を受けました」と話す。

 幼い頃から幾度となく入院と手術を繰り返してきたふたり。身体的な治療だけでなく、精神的な痛みもまた深く、長く続いた。

「小学生のころは、周囲の子にジロジロと覗き込まれたり、指をさされて笑われたりすることが多くて。難聴や噛み合わせのせいでうまく喋れなかったこともあり、保育園ではほとんど話さなくなってしまいました」(小林さん)

 山川さんも、似たような体験をしている。「自分の外見がすごく嫌だと思ったのは、小学生のとき。はっきりとそう感じたのはそのころが一番濃いですね」

 子どもたちの無邪気な反応だけでなく、大人の無理解が突き刺さることもあった。いまでも、人前でマスクを外すことには抵抗があると山川さん。

「昔ほどではないですが、ぱっと見られたときに反応があったりするのは怖いな、と。いろんな視線が集まるので、いまだにマスクを外すというのは少しストレスもあるというか……」(山川さん)

 そうした感情は、子どものころの「視線」に対する記憶が、いまも消えずに残っているからかもしれない。

 また少し意外なことに、同じ症状を持つ人と出会うことすら、最初は複雑な感情を抱いたという。

「病院で同じ病気の子を見かけると、やっぱり意識してしまって。見ないようにしたり、逆に見すぎてしまったり。あのころは、自分自身を受け入れられていなかったからだと思います」(小林さん)

 山川さんも、「同じ症状を持つ人を見たとき、自分を鏡で映し出されたように感じた」と打ち明けてくれた。



“障害は個性”と言わると違和感

 知らないうちに、当事者に嫌な思いをさせることがある。

「外見に症状があることを『個性』と言われることに違和感があります。自分で変えられるもの、例えば、髪型とかファッションとか、自分で変化をつけられるものを個性と呼びたくて。病気によってできた症状を誰かに個性と言われると、自分が望んで表現したものではないですから」

 ふたりともそう感じると話す。「障害は個性」と言われることに拒絶する人もいる。自分発信ならいいが、「それはあなたの個性だね」と他人が言うのは違うのかもしれない。



 小林さんが今、口唇口蓋裂の当事者として発信を続けられるのは、子ども時代から寄り添ってくれた両親の存在が大きかったという。

「特に母は、『先のことを想像して不安になるのはやめなさい。そのときに起きたことを、そのとき考えればいい』と。『ケセラセラ、なるようになるさ』って(笑)。“親が明るく太陽のようにいれば、子どもも安心する”という母の姿勢に、今も私は支えられています」

 疾患がわかった当初、小林さんの母は自責の念にかられた。『高齢出産だったから』『計画的でなかったから』と、自分を責め続けた時期もあった。しかし、保育器の中にいるえみかさんの姿を見て「この子はどれだけの坂を越えていくのだろう」と考えたとき、母としての覚悟が芽生えたという。

「両親はよく『不便ではあっても、不幸ではない』と言ってくれました。この言葉があったから、私は“病気がある自分”を責めることなく育つことができたと思います」

 この言葉を当事者の子どもを育てている親御さんにも、ぜひ届けたいと話す。

「親が『この子はかわいそう』と思ってしまうと、それが子どもに伝わってしまう。でも、たとえ大変な状況でも“この子と一緒にいられて幸せ”と思えることが、子どもにとって一番の安心なんだと思います」



 山川さんにとっても、家族、とりわけご両親の存在は大きかった。

「私からみる母の姿は、いつも前向きで強い人でした。私が弱気になった時も“きよかなら大丈夫”と信じて背中を押してくれて、言葉だけでなく行動でも、困難に立ち向かう姿を見せてくれました。自分が辛いとき、母の励ましを思い出して“これでいいんや”って思える。それは、病気や障害を持つ人に限らず、誰にとっても大事なことじゃないかと思うんです」

 山川さんは両親のことを「月と太陽のような存在」と表現する。

「母は私にパワーを与えてくれる太陽の存在だとすると、父は優しく見守る月の役割。そんな両親の絶妙なバランスが私を成長をさせてくれたのだと思います。とても大切で頼れる存在です」

 何度も繰り返された入院や手術のなかで、ご両親が示してくれた“変わらない愛情”が、山川さんの心の奥深くを支えていた。

「マイナスな気持ちになっている時も、「プラス! プラス!」と常に私に声をかける母がいたおかげで、私は安心していられたし、今こうして発信することにもつながっています。本当に感謝しかないです」

違いを尊重し合える社会へ

 ふたりが外見に症状がある当事者として発信を続けるのは、「同じように悩む人がいることを知ってほしいから」だと口を揃える。

「どんな人でもコンプレックスを抱えているし、それは決して“贅沢な悩み”ではない。お互いの悩みや背景を尊重し合える社会になってほしいと思っています」(山川さん)

「私たちの発信を通じて、誰かが自分を少しでも好きになれるようになったらうれしい。そして、周囲の人にも“そういう違いがあるんだ”って自然に受け入れてもらえるような世の中に変わっていけばいいなと思います」(小林さん)

 小林さんは現在、口唇口蓋裂の当事者、親族などの相互交流を目的とする『笑みだち会』の代表理事をしている。情報共有や支援活動やセミナー等の情報発信を行い疾患の認知を広げる。

 山川さんは公務員として働きながら、障害を持つメンバーも交えた地元の音楽グループ「ミュージックパレット」の演奏会等で、自らの体験や想いを語っている。『大丈夫、私を生きる。』(集英社)を上梓。外見を理由とする差別や、偏見のない社会への貢献する、彼女たちの活動を見守りたい。

週刊女性PRIME

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