鉄道遺産、グルメ…全国で数少ない第3セクター運営の黒字路線・天竜浜名湖鉄道、「アニメの聖地」以外の魅力とは?
2025年4月22日(火)6時0分 JBpress
(山﨑 友也:鉄道写真家)
ドラマの撮影地やアニメの聖地としてファン激増
静岡県の掛川駅と新所原駅とを結ぶ第3セクターが天浜線と呼ばれている天竜浜名湖鉄道。浜名湖の北側を通ってはいるものの東海道本線と並走しているので、東海道本線だけでも良かったような気がするのだが、それには建設当時の理由がある。
天浜線の前身は旧国鉄二俣線で、1932年に路線の建設計画がスタートした。これは国防を絡めた交通機関の整備に基づいて発表された全国鉄道路線網案によるもので、戦争が拡大した際に東海道本線の天竜川や浜名湖などの鉄橋が破壊された場合の迂回路線として計画された。
確かに天竜川橋梁は全長1209mで建設当時は国内最長、浜名湖には3本の鉄橋が架けられており、爆撃後の復旧には相当の時間を要すると思われる。こうしたことからそもそも迂回を目的として造られているため、先述したようにわざわざ遠回りしながらも東海道本線と並走するような路線となっているのだ。
二俣線は1940年に全線が開通し、通勤通学のみならず木材や農産物、セメントなどの貨物輸送も盛んに行われて沿線は活気にあふれていたのだが、徐々に赤字へと転落していく。その後1987年に天竜浜名湖鉄道として生まれ変わるのだが、このようなプロセスは他の第3セクターの鉄道路線と大差はない。
ところが天浜線は元気なのである。コロナ禍では利用者が大幅に減少したものの、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」や「ゆるキャン△SEASON2」といったアニメのモデル地になったことから、聖地巡礼などで沿線を訪れるファンが急増することに。またテレビ東京の番組「AKB48、最近聞いた?」でも取り上げられ、さまざまなコラボ企画が生まれたことからも、路線の知名度や乗車率のアップにつながっていった。これらの関連グッズは予想以上の反響があり、2023年度のグッズ販売収益は2019年年度に比べて何と約475%と驚異的な伸びを示している。
また「副駅名ネーミングライツスポンサー」のスポンサー契約も順調で、ラッピング列車の広告料とともに安定した収入源となっているなどの要因から、2024年3月期の単独決算は420万円の最終黒字を確保し、6期連続の黒字となっている。
赤字が酷くて旧国鉄やJRから見限られたため、第3セクターで運営している鉄道のなかでは黒字経営の路線というのはごくわずかなので、利益額はともかく大変素晴らしいことではないだろうか。
豊富な鉄道遺産と沿線グルメ
さて、アニメの聖地巡礼やTV番組タイアップ企画以外にも、天浜線の楽しみ方はまだまだある。ボクのオススメは歴史とグルメ。こう書くとそれこそTVの旅番組のようだが、天浜線は赤字が幸いしてきたのかどうか、駅や施設などの多くが開業当時のまま残されているのである。駅舎やプラットフォーム、橋梁、トンネルなど、全部で36件もの施設が国の登録有形文化財に登録されており、全線が鉄道遺産と言っても良いほどだ。
なかでもメインターミナルである天竜二俣駅には蒸気機関車の進行方向を転換するための転車台や扇形の車庫などが多数残されている。それらを見学するためのツアーも土日を中心に予約不要でおこなわれているので、是非とも参加して鉄道遺産への関心を高めてもらいたい。
もうひとつの楽しみ方だが、多くの駅には飲食店や食品販売店が同居しており、そのどれもが本格的な味を追求し提供しているので、途中下車を重ねての食べ歩きで胃袋を満たしてみよう。北海道の釧網本線、九州の南阿蘇鉄道と並んで、天浜線をボクは勝手に日本3大グルメ路線と呼んでいる。
最後に1泊2日で天浜線の歴史とグルメが満喫できるモデルコースを紹介しよう。
1日目
・遠州森駅(1935年開業の古い駅構内でボーッと過ごす)
・遠江一宮駅(文化財の駅舎内にある手打ちそば屋「百々や」で十割そばに舌鼓を打つ)
・天竜二俣駅(「転車台&鉄道歴史館見学ツアー」に参加して鉄道遺産三昧)
・二俣本町駅(駅舎をリノベーションしたホテル「INN MY LIFE」に宿泊)
2日目
・都田駅(「マリメッコ」を中心とした北欧インテリアに囲まれた「駅café」でアート鑑賞)
・金指駅舎内にある「石窯焼きピザ piazza」)、もしくは三ヶ日駅舎内の「グラニーズバーガー&カフェ」で昼食。駅はどちらも文化財
・西気賀駅(開業当初から残る木製の改札口を抜け、「月暈」でフランス菓子を購入し浜名湖を散策)
・都筑駅(パン屋「メイポップ」で手づくりパンをお土産に購入)
・新所原駅(「駅のうなぎ屋 やまよし」でうな重を購入し、帰路の車内で食す)
以上、掛川駅から天浜線に乗車し、翌日に新所原駅で帰路につくというプランであるが、もちろんこの他にも文化財やグルメが味わえる駅はたくさんある。これからは静岡名産であるお茶の新芽がキラキラと輝き気候も良く、旅には絶好の季節である。この機会を逃すことなく、それぞれの天浜旅を思う存分味わってみてはいかがだろう。
(編集協力:春燈社 小西眞由美)
筆者:山﨑 友也