ホモ・サピエンスが生き延びた理由は日焼け止めにあるかもしれない
2025年4月22日(火)20時0分 カラパイア
かつて私たちホモ・サピエンスの祖先とネアンデルタール人は地上で共存していた。だが最終的に私たちは生き残り、ネアンデルタール人は絶滅した。いったい何が両者の明暗を分けたのだろうか?
新たな研究によると、運命の分かれ道は「日焼け止め」だったという。
ネアンデルタール人が絶滅した当時、地球の地磁気は弱くなっており、地上には大量の紫外線が降り注いでいた。
日焼け止めの手段を知らなかったネアンデルタール人は、それによる皮膚がんや免疫の低下を防ぐ手立てがなく、そのせいで姿を消すことになったというのだ。
この研究は『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adq7275]』(2025年4月16日付)に掲載されたものだ。
地球磁場の変動と強まる太陽放射
今私たちが地上で健康的に暮らせるのは、地球を包む地磁気やオゾン層のおかげだ。これらはまるでバリアのように作用し、宇宙から降り注ぐ放射線や紫外線を防いでくれる。
だが、このバリアは常に一定しているわけではない。地球の歴史の中で、地磁気の逆転が繰り返し起きていたことはすでに明らかになっている。
逆転まで行かずとも、地磁気の極が地球の自転軸の極から大きくズレることもある。これを「地磁気エクスカーション[https://karapaia.com/archives/52233771.html]」という。
こうした大きな変化が起きたとき、地磁気は非常に弱くなり、大気中のオゾンも減少することが知られている。
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地磁気エクスカーションとネアンデルタール人の絶滅の時期
直近で起きた地磁気エクスカーションは、4万1000年前の「ラシャンプ地磁気エクスカーション[https://karapaia.com/archives/459668.html]」だ。
偶然か、それとも必然か、じつはこの時期はちょうどネアンデルタール人が絶滅した時期でもある。
この地磁気エクスカーションは300年ほどで終わったが、その間地磁気のバリアはほとんど失われていたようだ。
ミシガン大学をはじめとする研究チームがモデルで検証したところ、この時期の地磁気は90%も弱まっていたことが判明している。
その結果、紫外線を防いでいるオゾン層には強烈な宇宙線が降り注ぐことになった。それによるオゾン層の破壊は、20世紀後半に問題となったフロンガスを強化したようなもので、地上に降り注ぐ紫外線は大幅に増えたと考えられる。
こうした紫外線は皮膚がんを引き起こすのみならず、免疫を低下させ、葉酸不足による先天性欠損のリスクをも高める。
研究チームの仮説によるなら、この紫外線への対応の仕方の違いが、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の明暗を分けた可能性があるという。
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ホモ・サピエンスの生存を支えた日焼け止めの技術
注目すべきは、ネアンデルタール人が絶滅した頃、ホモ・サピエンスでは衣服に変化があったことだ。
体にぴたりとフィットする仕立てられた服が広まり、彼らの遺跡からは、毛皮の加工に使われたスクレーパーだけでなく、針や千枚通しが見つかっている。
また同時期ホモ・サピエンスたちの間では、洞窟の壁画を描くためのオーカー(黄土)も広まった。これは身体を装飾するためにも使われたかもしれない。
オーカーで描かれた洞窟壁画は、紫外線が増大した時期に登場している。Photo by:iStock
これらには紫外線から身を守る効果がある。衣服を着た部分が日焼けしにくいのはご存知の通りだし、一部の地域では今もオーカーが日焼け止めとして使用されている。
一方のネアンデルタール人も衣服を着ていたことが知られている。
だが彼らの遺跡で、きちんと仕立てられた衣服が作られた形跡は見つかっていない。北の寒い地域に適応していたために、ホモ・サピエンスほどには衣服を着る必要性がなかったのかもしれない。
その結果として、ネアンデルタール人はホモ・サピエンスよりも大量の紫外線を浴びることになったはずだ。そしてその悪影響に脅かされることになった。
ネアンデルタール人は紫外線に負けた説
なぜネアンデルタール人だけが滅び、ホモ・サピエンスが生き残ったのか? これは長年議論される人類学の大きなテーマだ。
その理由については、これまでホモ・サピエンスがやってきた地域でさまざまな動植物が絶滅しているように、ネアンデルタール人もまた初期ホモ・サピエンスとの紛争や食料獲得競争に負けて駆逐されたのだとされることが多い。
だがこれまでの研究で、ホモ・サピエンスがヨーロッパに到達したのは5万6000年前で、そこからネアンデルタール人の絶滅までにはさらに100世代相当の時間があったことがわかっている。
ならば、絶滅原因は単純に生存競争に負けたからというわけではないのかもしれない。
今回の研究チームは、これまで説明した理由から、ネアンデルタール人は紫外線から身を守れなかったために絶滅したとの仮説を提唱している。
実際、地磁気ラインがつながっておらず宇宙線や高エネルギー粒子が地表にまで達していたと思われる地域を調べたところ、4万1000年前の初期ホモ・サピエンスの活動範囲とよく一致していたという。
とりわけ洞窟利用が増え、大昔の日焼け止めが使われていた地域では、このことが当てはまっていたそうだ。
この仮説は点と点を結びつけて導かれたもので、それを裏付ける直接的な証拠はない。ゆえに日焼け止めの有無が私たちを生き残らせたのか、確かなことは不明だ。
さしあたって私たち現代人は、たかが日焼けと油断することなく、まもなく到来する夏に向けて紫外線対策を万全にしておこう。
References: Wandering of the auroral oval 41,000 years ago[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adq7275] / Our Ancestors Knew To Wear Sunscreen – It May Be How They Survived[https://www.iflscience.com/our-ancestors-knew-to-wear-sunscreen-it-may-be-how-they-survived-78833] / Ancient Sunscreen: How Early Humans Survived a Solar Storm Apocalypse 41,000 Years Ago[https://scitechdaily.com/ancient-sunscreen-how-early-humans-survived-a-solar-storm-apocalypse-41000-years-ago/]