大学生のeスポーツ大会は定着するのか
2025年4月24日(木)9時23分 マイナビニュース
こんにちは。eスポーツライターの小川です。
いまひとつ盛り上がらない、大学生のeスポーツ大会。主催側の話を聞くと、その多くが「大学生のリアルスポーツ大会があるのだから、大学生のeスポーツ大会も盛りあがるはずだ」という、軽はずみな動機で企画・運営がされており、結果として「集客」に苦戦しがちです。
そもそも、大学生のスポーツ大会は、高校生大会と比べて人気が低い傾向にあります。高校野球や春高バレー、サッカー国体など、高校生の大会は幅広く話題性があるのに対して、大学生の大会で注目されているのは、東京六大学野球と箱根駅伝など、極めて限定的です。
大学生大会は高校生大会と比べると「青春」「最後の大会」といったストーリー性に欠け、母校や地元の応援熱もトーンダウンしているのではないでしょうか。
これらの実態を踏まえると「大学生のリアルスポーツ大会があるのだから、大学生のeスポーツ大会も盛りあがるはずだ」という冒頭の主張にも、無理があるように思えます。
今回は「大学生のeスポーツ大会は定着するのか」という観点から、箱根駅伝、東京六大学野球などの、リアルスポーツの現状も踏まえ、大学生のeスポーツ大会の未来を考えます。
大学生“スポーツ”の現状──。「見に行きたい」は減り、「やりたい」は増えている
代表的な大学生スポーツ大会として、東京六大学野球が挙げられますが、長らく観客数の減少が指摘され続けています。また、青少年のスポーツ観戦率、および大学野球の部員数の推移を見ると、ある傾向が浮かび上がってきます。
笹川スポーツ財団の調査によると、12〜19歳の青少年の直接スポーツ観戦率は、2011年の46.7%から2021年には18.6%へと減少。全日本大学野球連盟のデータによると、2007年に約20,147人だった大学野球の部員数は、2022年には約28,769人となり、約1.4倍に増加しています。
つまり「見に行きたい」は減り、「やりたい」は増えているという見方ができます。その一方、コロナ禍以降は、リアルスポーツ全体の観戦形態がオンラインにシフトしており、「見に行きたい」は減っているが「見たい」は維持されているという見解もあります。
実際、現役大学生の77%がスポーツ観戦を好み、66%が主にテレビを通じて観戦しているとの調査結果もあり、正月の箱根駅伝は、1990年代から現在に至るまで、25%〜30%の高い視聴率を維持しています。
総じてリアルスポーツは、現地観戦が減少傾向であるものの、メディアを通じた観戦は依然として人気であるといえます。
大学生“eスポーツ”の現状──。平日開催は「配慮」か「妥協」か?
「見に行きたい」と「やりたい」の関係性については、大学生eスポーツも同様の傾向があります。大学生のeスポーツイベントも現地集客に苦戦しており、入場料が無料であるにもかかわらず、空席が目立つイベントも少なくありません。
その一方、出場選手側の大学生の参加数は増えており「やりたい」は増加傾向です。これは大学生eスポーツ大会の多くが、平日開催であることが、影響しているように見受けます。
実際、2025年3月に開催された、「マイナビeカレ」(主催:マイナビ)、「VALORANT CAMPUS SUMMIT」(協賛:NTTeスポーツ)、「REIGNITE VALORANT College Tournament」(主催:REIGNITE)はすべて平日開催です。
休日開催されたのは「シャドバスペシャルフェス2025」内のイベントとして実施された「Shadowverse University League」(主催:Cygames)のみでした。
3月の平日開催が主流なのは(運営側の立場に立つと)「大学生は春休み期間なので、参加も応援も差し支えない」「ほかの大会や会場費用との兼ね合い」などの主張が挙げられますが、個人的には「選手ではなくインフルエンサーのキャスティングの都合を優先したのではないか」「観客ではなく運営都合を優先したのではないか」などの邪推もできてしまうので、この点においては、最後の考察部分で言及します。
大学生eスポーツの集客ジレンマとは──。「大学生」要素に固執すると失敗する
2025年3月に開催されたイベントのうち、オフラインの集客に成功したといえるのは、「REIGNITE VALORANT College Tournament」「Shadowverse University League」であるように見受けられました。
前者は、当日のサブイベントとして、eスポーツプロチーム「REIGNITE」の所属選手や、有名インフルエンサーによるトークショーが展開され、推し活の人気を取り込むことに成功しました。この事例を「大学生eスポーツ大会」としての集客の成功事例と捉えるべきかは、微妙なところですが、「現地に来た人たちに損をさせない」という運営の意図は感じました。
後者の「Shadowverse University League」は、「シャドバスペシャルフェス2025」内のイベントという扱いになっており、新作シャドバの試遊イベントやインフルエンサーイベントとの同日開催ということもあって、会場は超満員でした。
これらのイベントに共通しているのは、集客方法を「大学生」要素に固執しなかったことです。
個人的には「Shadowverse University League」のほうが、より大学生プレイヤーたちをリスペクトしつつ、自然な形での集客導線になっていたように思えます。「潜在的にシャドバの競技シーンに関心がある」客層に向けて、大学生大会の観戦の導線を提供することで、直接的に「大学生の試合に興味があった」わけではない層も取り込んでいたからです。
逆に、集客に最も苦戦していたのは「VALORANT CAMPUS SUMMIT」でしょう。ただし、本イベントは大学生たちによる有志団体で運営されていることと、今年の開催自体が危ぶまれていた中での開催だったことから、今後に期待といったところでしょう。
「マイナビeカレ」については、参加校の多さに対して、オフラインでの集客が芳しくなかったように見受けました。いくつか特筆する気づきがありましたので、後述します。
マイナビeカレの長期的な生存戦略──。「オフラインの放棄」と「オンラインへの傾倒」
冒頭部分で(リアルスポーツの)「観戦がオンラインにシフトしている」という記述をしましたが、「マイナビeカレ」はこの傾向に、順応しているように思えました。
個人的な見解ですが、第1回と第2回大会ともに、「オフライン観戦」よりも「オンライン観戦」に注力しているように見受けられました。
具体的には、ゲーム配信者を巻き込んだオンライン施策の注力度合いの高さです。
eスポーツの大会配信は、公式チャンネルでの再生数よりも、ゲーム配信者の個人チャンネルが実施するミラー配信のほうが再生数が伸びることがあります。
「マイナビeカレ」も例外ではありませんでした。「マイナビeカレ 2025」には、24名のゲーム配信者がアンバサダーとして就任しており、それぞれの個人チャンネルでのミラー配信が許可されています(※動画の概要欄には「#PR」の記載あり)。
アンバサダーの知名度によって、視聴数に大きな影響があり、例えば「マイナビeカレ」公式チャンネルの、本大会の配信の再生数が2万回であることに対して、同大会のアンバサダーの1人である「1tappy / わんたっぴー」氏の個人チャンネルでは、3万回の再生数です。
『Apex Legends』部門の公式放送と(公式再生リストに登録されている)アンバサダー×10名の動画の合計再生数は約10万回。全体の約8割の再生数を、アンバサダーの個人チャンネルの再生数が占めています。
『ストリートファイター6』部門についても、有名ゲーム配信者にPR案件として、ミラー配信を依頼しており、オンライン視聴者数の獲得には力を入れているといえます。
“継続”という長期的な目標──。「イベントの質」はどこまで必要なのか
オンライン施策が手厚いなか、オフライン施策については、軽視されていたと言わざるを得ません。
「マイナビeカレ」の現地を取材したライターの多くが、(主にゲーム画面の)「視認性」や(イベント全体の)「演出面」の至らなさを指摘しており、それらの指摘については、筆者も同意見ではあります。
ただ、筆者はオフラインへの指摘は、そこまで本質的ではないと考えています。
というのも「マイナビeカレ」の運営は「オフライン会場のクオリティ」については最初から重きをおいておらず、どちらかというと、限られたリソースの下における、文化の醸成や長期的な運営を見据えた、持続可能性のある勝ちパターン作りに注力しているように思えるからです。
言うまでもありませんが、文化の定着には、途方もない年数を要します。
東京六大学野球を例に挙げても、その起源ともいえる「第1回 早慶戦」(1903年)から22年を経て、東京大学の連盟加盟(1925年)により、ようやく東京六大学野球と成ったことを踏まえると、産声を上げたばかりの大学生eスポーツが、正式なスタートラインに立つだけでも、あと数十年の時間を要すると想定すべきです。
予算をかけて、イベントのクオリティを高めたとしても、それが集客と評価につながらなければ、継続が困難になります。
来場者を30名獲得することにリソースを割くよりも、アンバサダーを1人増やして、総再生数を5000回でも増やすほうが、コストパフォーマンスもよく、対外的な数字の見え方もよいでしょう。
限られた予算の範囲内で「継続する」を主目的として、リソースを配分した結果、「オフライン会場のクオリティ」が犠牲になるのは仕方がありません。その点においては、前述した平日開催であることも致し方ないでしょう。
もちろん、冒頭で指摘した「大学生のスポーツ大会があるのだから、大学生のeスポーツ大会があって然るべきだ」という「べき論」で企画が動いており、肝心な「視聴に値するコンテンツを作る」という施策が不十分なのは、誰の目にも明白なので、「継続」の土台のうえに「品質」が乗ってくることを長期目線で願うばかりです。
大学生のeスポーツ大会は定着するのか──。「事業」としての持続可能性を考える
前述した「継続」というキーワードは、表題の「定着するのか」の問いにもつながります。
「定着」にもいくつかの定義がありますが、ここでは「事業として定着するのか」と「文化として定着するのか」の2点で考えます。
「事業として定着するのか」については、一般的には「市場規模があるか」「収益性があるか」を考えることになりますが、今回は、持続可能性に着目して、PER(株価収益率)をはじめとした、企業価値の見極めに重要とされている「価格変動性が高くない収益モデル」の実現可能性を中心に考えます。
価格変動性が高い収益モデル(eスポーツイベントにおいては、会場チケット費、スポンサー費など)だけでは、企業価値として高い評価額を得ることは難しいとされています。「普遍性」「定着性」という観点でも、サブスクリプションモデルなどの価格変動制が低く、持続可能性のある収益モデルの実装が必要でしょう。
例えば「大学生eスポーツ関連の映像(試合、ドキュメンタリーなど)をコンテンツとして配信して、視聴者に定額課金で登録させる」が現実的であるか、などが論点になります。
現状、大学生のeスポーツ大会は、年度末限定の大会になっていて、コンテンツを逓増しづらい点から、課金してまで視聴したいコンテンツ群として育てるのは苦労しそうです。
東京六大学野球における、春季リーグ、秋季リーグのように、実施頻度を増やすこと。運営公式のYouTubeチャンネルにて、オフシーズンの間でも、継続してコンテンツを発信すること、ゲーム配信者やインフルエンサーに頼らず、大学生ならではの要素で集客することが「事業としての定着」には必要でしょう。
大学生のeスポーツ大会は定着するのか──。「文化」としての持続可能性を考える
「文化として定着するのか」は「特定の期間にイベントが集中している」という性質が、功を奏する可能性があります。
正月の箱根駅伝は、四半世紀以上に渡り、高視聴率を維持して文化として定着しています。箱根駅伝が魅力的なコンテンツであるのは勿論ですが、正月の恒例イベントとして認識されていることも大きいでしょう。
その点において、「年度末=大学生eスポーツ大会」というイメージが醸成されることは、文化の定着においては重要です。
ただ、「正月」という多くの人が「長期休暇」になるタイミングとは違い、年度末は公私ともに忙しなくなる時期なので、「大学生eスポーツ大会」に関心が向きづらくなる可能性は考慮しなければなりません。
加えて(eスポーツに限らず)年度末は、予算消化の関係で、催事系のイベントが潤沢になりやすく、話題が埋もれやすいのも、懸念の1つです。
現状、大学生eスポーツ大会が年度末に多く開催されているのは、運営側の都合(参加する大学生への配慮)であることがほとんどなので、開催時期の変更は検討の余地がありそうです。
例えば、ミスコンや学園祭の多い時期(10月〜11月)に開催時期を合わせると、学園祭との連携が狙えるだけでなく、大学ミスコンなどの話題性のあるニュースと抱き合わせで報道される機会も得られるかもしれません。
また、大学の入学願書の受付期間中に実施するなど、大学側から広報活動の一環としても認知されれば、各大学からの協力も得られるかもしれません。
いずれにしても、大学生に関する、伝統的な「文化」「行事」に便乗することや、屋内で実施できる特性を活かして、天候が荒れやすい時期(リアルスポーツが実施されづらい時期)に実施するなど、開催タイミングを打算的に調整することは「文化としての定着」という点において重要になってくるでしょう。
著者 : 小川翔太 おがわしょうた 1987年生まれ。会社経営者。大学時代はFPSにハマって留年。「キャリアコンサルタント」から「飲食メディア編集長」を経て、eスポーツ業界へ。7年間のeスポーツ取材の経験をもとに、eスポーツ専門の編集プロダクション兼、取材代行会社を設立。SNS(X)アカウント この著者の記事一覧はこちら