「年を取るって、なんて素晴らしいことなのかしら」。シスター・鈴木秀子が92歳になって感じる「老い」の喜びとは
2024年5月14日(火)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
内閣府が公表した「令和5年版高齢社会白書」によると、令和元年時点の健康寿命は、男性が72.68年、女性が75.38年と年々延びているそう。「超高齢化社会」の現代、年を取ることに落ち込んでしまう人もいるのではないでしょうか。しかし、50万人の悩みと向き合ってきた92歳の聖心会シスター・鈴木秀子さんは「年を取るって、素晴らしいこと」と話します。今回は、その鈴木さんの自著『あなたは、そのままでいればいい』より、人生100年時代を軽やかに生き抜くヒントを一部ご紹介します。
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立ち上がって、前を向いて歩くしかないのです
年を取ることは、生きることそのものではないでしょうか。私たちは、自分自身の人生を、日々、懸命に生きています。本当に、いつでも一生懸命です。
だれのための人生でもありません。
あなたのために与えられた、あなたが主人公の人生です。
そのステージに立っているあなたを演出するのもあなたです。
人生はドラマそのものですから、起承転結があります。
主人公は、ときには行きづまって苦しんだり、悲しい出来事に絶望したり、どうしようもなく落ち込んだりします。舞台では、さまざまなシーンが繰り広げられます。
だけど、主人公はいつも、必ずだれかのひと言に勇気づけられたりしながら、顔を上げて前を向いて歩きはじめます。
うずくまったままでは、体が縮こまって、ひざが痛くなってしまいます。あとずさりして、不意に自転車にぶつかったりなどしたら、危ないですもの。立ち上がって、前を向いて歩くしかないのです。
人生という舞台ではどんな人も、必ずハッピーエンドで終わりますよ。安心して
舞台に立っている主人公は、おなじ場所にとどまっていて、いつもおなじ姿に見えるかもしれません。でも、決しておなじではありません。
なぜなら主人公は、悲しみや苦しみを経験したことで、大きく成長してゆくからです。
生きるとは前に向かって進むこと。
生きるとは年を重ねること。
年を重ねるとは経験を重ねること。
経験を重ねるとは成長すること。
成長するとは、老いること。
昨日と今日の主人公、つまりあなたは決しておなじではありません。
「どうしたらこの出来事を乗り越えられるだろうか?」
「どうしたら毎日笑顔で生きられるだろうか?」
「この大根をどう料理したら美味しいだろうか?」
こんなふうにいろんなことを模索し、答えを見つけようと試みることが生きることそのものです。
正しい答えを出すことが人生の目的ではなく、一生懸命に考えて選んで決めたこと、そのすべてが正解なのです。
前を向いて一生懸命に笑顔で生き続ける主人公って魅力的ですね。私はそんな主人公が愛おしくてなりません。きっとまわりにいる人たちも応援してくれるでしょう。
その主人公こそが、あなたなのです。自分に与えられた限りある人生という大舞台を、存分に楽しんでくださいね。
つらいときは、必ずだれかが手を差し伸べてくれます。どんな人でも、必ずハッピーエンドで終わります。
物語の結末はいつでも、「いろいろ大変なこともあったけれど、素晴らしい人生だった!」なのですから。
年を取ると、好きなことだけを好きなだけやれるようになりますよ。それって、素敵でしょ?
年を取ることに、ネガティブになっていませんか?
年を取ると、できないことが増えると落ち込んでいませんか?
(写真提供:Photo AC)
私が92歳になって感じるのは、「年を取ることって、なんて素晴らしいことなのかしら」という喜びです。
92年間生きてきた私が言うのですから、間違いありません。
年を取ると、見栄とかプライドなんてものが、どんどんなくなっていきます。生き方がとてもシンプルになっていくのです。
「いいえ、鈴木先生。私にはまだまだたくさんの執着があります」
「私は足が悪くて、もう歩けません。人生がつらいです」
そんなふうにおっしゃる方もいるでしょう。
年を取ると不要なものが自然に自分のまわりからなくなっていきます。不思議ですね。わざわざ時間と手間をかけて断捨離をしなくても、自分に必要なものだけが、ちゃんと残っていきます。
年を取ったら、好きなことだけを、好きなだけできる毎日ですから、こんなに楽しいことはありません。
どちらにしても、できることしかできませんから、できない自分をさっさと受け入れてしまえば、ニコニコ笑って上機嫌でいまを生きていけるのです。
すると、自然にまわりにニコニコ笑顔があふれてきます。
年を取ったら、いろんなことに時間がかかるのなんて、あたりまえ
いま急いでやらなければならないことが、なにかありますか?
若いときみたいに、たくさんのことを急いでやる必要がなくなりますから、たいそうラクなものです。
年を取れば、多くの場合子どもは自立して家を出ていますし、自分の親も旅立っています。だれかに急かされることは、なにもありません。
レジでお金を支払うときだって、アタフタしてしまっても気にすることなどありません。年を取ったら、いろんなことに時間がかかるのなんて、あたりまえなのですから。
「えっ? いま、なんとおっしゃいましたか?」
こんなふうに、相手に何度も聞き返してもいいのです。年を取ったら、耳が遠くなるのは普通のことです。
できない自分を恥じることなど、いっさいないのです。
これって、年を取ったからそう言えるのではなく、じつは若いときだってまったくおなじことです。
できない自分を責めるから苦しいのです。
若いころは許せなかった自分をどんどん許せるようになります。それが、年を取るということです。
「老いるというのは、どういうことですか?」という質問をよく受けます。そのとき私は次のように答えています。
「老いとは、人生でこれまでため込んできたことをひとつひとつ、手放していくプロセスなのですよ」と。
亡くなった後に、あちらの世界に持っていけるものなど、なにひとつありません。
持っていけるとしたら……なんでしょうね? 私にもよくわかりません(笑)。
年を取ったら、身軽になって、あなたが好きなことを、好きなだけやってまわりがニコニコしていることが大切です。
※本稿は、『あなたは、そのままでいればいい』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
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