「滑走屋」振付担当の鈴木ゆま、高橋大輔との出会いから経緯、スケーターたちとの試行錯誤から生まれた珠玉の演技

2024年5月17日(金)8時0分 JBpress

文=松原孝臣 撮影=積紫乃

 今年2月に福岡で上演され、大きな反響を呼んだアイスショー「滑走屋」。1回は1時間15分、1日に3回公演という形態もさることながら、プログラムごとに途切れることのない構成、スピード感にあふれる滑りや振り付けとともに大きな反響を呼んだ。

 その立役者となったのがダンサー、振り付け、演出家として活動する鈴木ゆまである。フィギュアスケートで振り付け等をするのは初めてだという鈴木に、「滑走屋」に携わる経緯、完成までどう進めたのか、鈴木の足取りも交えつつ、たどっていく。


高橋大輔との出会いは2019年の『氷艶』から

「劇団四季」「音楽座」で活動、そのほかさまざまな舞台に出演。2010年には「東京パノラマシアター」を立ち上げた鈴木ゆま。「滑走屋」をプロデュースした高橋大輔とのかかわりから話は始まる。

「2019年の『氷艶—月光の如くー』に出演したときからご縁があって、その後もずっと仲良くさせていただいていました。去年の5月に、私が脚本・演出をする東京パノラマシアターの新作『青い鳥〜7つの大罪〜』を東京芸術劇場で上演するのでよかったら見に来てください、と声がけをして、高橋さんが来てくださいました。『すごいよかった』『作品の世界観がすごい好きだ』と言ってくださって、けっこうダークで残酷なシーンもある作品で、高橋さんってさわやかなイメージだったので、意外にこういうのが好きなんだって驚いた記憶があります」

 それから半年ほどが経った10月頃に「ちょっと話があるんだけど」と連絡があった。

「氷艶のメンバー何人かで集まってご飯を食べたりとかはあったんですけれど、2人でというのは初めてだったのでなんだろうと思ってお会いしたら、自分がプロデュースするアイスショーで振り付けをやってくれないかと依頼をいただきました。すごく驚いたんですけれど、そのときに私に依頼する理由を話してくださったり、『このナンバーがよかった』と具体的に言ってくださったんですね。そのナンバーは10人くらいいたんですけれど、同じ振りを踊るというよりも10人が有機的に個々の動きをしつつも決してぶつからないで踊りを展開していくシーンがすごく印象的だったらしくて。その空気感とスピード感、疾走感を群舞として求めているんだとうかがったときになるほどと思いました」

 フィギュアスケート自体はテレビでよく観ていたという。

「それこそ大輔さんが(2010年の)バンクーバーオリンピックで銅メダルを獲られたときや荒川静香さん、浅田真央ちゃんだったり、ショーや大会のときはテレビにかじりついて観ていました。まさか振り付けを、クリエイションを一緒にやるなんて思ってもいませんでした」

 加えて、「滑走屋」への思いも伝えられた。

「将来的に若いスケーターのためになるショーというイメージを持っていて、スケーターを育成したいということ、皆さんに低価格で見やすくしたいという全体的なこともお話いただきました」

 依頼を承諾したあと、具体化する作業が始まった。


なぜスケーターがそこに出てくるのか

「曲は全部大輔さんが決めてくださって、それぞれのナンバーで何人、この人を出したいというキャスティングや流れはうかがいました。具体的にディテールがあるところもあったんですけれど、おおよそディテールは私に任せてくださいました。ソロナンバー以外に15曲あったのですが、その作る過程は私たちの中でも15の試行錯誤のドラマがありました。どうつくりあげたかというと、私が曲を聴いてぱっとインスピレーションが出て世界観をつくったナンバーが多かったのですが、大輔さんに構成を考えてもらって私が振り付けをはめていくもの、村元哉中ちゃんが構成を作って一緒に振り付けを考えたものもありました」

 一つずつストーリーを描きながら、一貫した姿勢があったという。

「共通のポイントとしてあったのは、『動機』です。もともと役者をやっているので、なぜスケーターがそこに出てくるのか、どういう空間でなぜ滑り始めるのかが見えてこないと私は振り付けられないんです。なので、1曲1曲、どうしてこの人がこのタイミングで出てくるのか、どうしてこの2人なのか、4、5人で次に滑り始めるのか、そういう動機をはっきりさせることから振り付けをしました。なんにしても根拠はあったということです」

 一例をあげる。

「中盤に『CRY ME A RIVER』という群舞があります。それは私がすごく難航したナンバーです。(青木)祐奈ちゃんの1人の動きはできるんですけど、そこにメインスケーターも含め10人くらい出てくるんですね。彼らの祐奈ちゃんと空間を共有する理由、どういう存在としてそこにいられるのかが見出しづらかったからです」

 やがて手がかりをみつけ、作業は進んでいった。

「あのナンバーは水がテーマなんですね。祐奈ちゃんの流した涙がこぼれて池になって、その池が湖のようになって、彼女の心が凍りつくのと同時に湖が凍ってその上で滑る。さらにエモーショナルなものが流れ込んできて、ちょうど角の一つのところから濁流のようにうねって皆さんが出てきて、その濁流が押し寄せてくる。それがはね返って海原のようになり、渦を巻いて雷が落ちてきたりして騒然とした状態になるというストーリーを考えました。

 その水をみんなの動きで作り出したらそこに存在できると思って、『こういう存在感でスケーティングを作ったら』と提案したら、『それ面白いね』となりました。例えば濁流の動きってなんだろうということで、スケーティングでうねっていくものを混ぜて滑走してもらったり、私がそれを見てうねりを深くしたり、ミクロなやりとりをして調整して1パート1パート作って、全部のピースを皆さんに渡しました」


青木は「身体のボキャブラリーがすごく多い人」

 スケーターたちがどう動くのか、構図を考え、1人1人の動作を振り付けていく中で内面も掘り下げていった。

「最初、皆さんに何も言わないで振り付けは渡すんですけれど、ある程度体に振り付けが入ってきた段階で曲の中のそれぞれのセクションのイメージの共有をしていきました。例えば、最初は大輔さんと(島田)高志郎くんと(山本)草太くんと、松岡(隼矢)くんの4人が出てくるんですけれど、その存在は、祐奈ちゃんが自分の湖の中をのぞいたときにいる自分じゃない存在とか感情の中で出てくるよくないもの=悪魔とか抽象的な存在だよと話したり、濁流のうねりや竜巻であることを伝えたり。

 一方で祐奈ちゃんはその環境とか空間に飲み込まれていく役なので、彼女とセッションを続けました。手を出すにも何かを求めて出す手と、誰かを拒絶して払う手って違うじゃないですか。振り付けの一つ一つのイメージを日常生活に置き換えて『こういうときこうするよね』『こういうときこういう気持ちになるよね』ってお互いに共感を探りながらつくっていました」

 青木との作業の中で発見もあったという。

「皆さんの中でも祐奈ちゃんはずば抜けて感覚が研ぎ澄まされていて、言ったことをすぐ身体で表現するのがとても上手で、身体のボキャブラリーがすごく多い人だなとびっくりしました。例えば『どうして振り返るの?』と疑問を投げかけると、自分の中でちゃんと処理して体で表現することができていて、身体の表現力がすごく高かったですね」

 振り付けで印象的だったのは、群舞であっても振り付けはスケーターごとに異なり、それでも統一感が保たれていたことだ。

「動きはばらばらでも全体の絵がちゃんとあるので統一感が生まれると思うんですね。例えばオープニングの『Vecna's Grandfather Clock Theme』というナンバーだと、最初に時計のネジのような動きをバラバラでしているんですけれど、そのシーンは空間と時空の誕生で、その中で皆さんは時間というものを体現しています。みんな違う動きをしていても、自分は時間そのものなんだとか、時計の針なんだとか、振り子時計なんだとか、時間というテーマで共有したイメージを持っているので、ちぐはぐしたものにならないのだと思います」

「滑走屋」では、従来のアイスショーにはなかった、集団が氷上に描きだすフォーメーションとも言うべき動きもまた斬新さを生み出していた。それはどう形作られたのか。(続く)

筆者:松原 孝臣

JBpress

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