田嶋陽子「82歳でシニアハウスに入居。終の棲家を選んだ理由は、バランスの良い食事と、元気な先輩たちとの心地よい距離感」

2024年5月17日(金)12時30分 婦人公論.jp


「これで私も、いわゆる《老後》は安泰。言ってみれば、やっと死に場所を決められてひと安心、というところでしょうか」(撮影:大河内禎)

フェミニズム(女性学)研究の第一人者として、メディアで活躍してきた田嶋陽子さん。35歳から何度も引っ越しを繰り返した末、ついに終の棲家を見つけました(構成=篠藤ゆり 撮影=大河内禎)

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これで私も老後は安泰?


2023年4月、都内にある介護付有料老人ホーム併設のシニアハウスに入居しました。現在は、軽井沢の家と行き来して生活しています。それまでも週の前半は軽井沢、後半は東京というような二拠点生活だったのですが、東京の事務所を手放して移りました。

シニアハウスへの引っ越しは、ちょうど82歳の誕生日を迎えた頃。きっかけは、ちょっとした偶然からでした。私は60代半ばからシャンソンを歌いはじめ、今も月に1度のペースで東京・四谷の「蟻ん子」で歌っています。

22年10月、千葉県市川市の「沙羅」でコンサートがあり、秘書と駅で待ち合わせたのに、場所を間違えたのか会えない。困って主催者に電話をしたら、共演するピアニストのさんが迎えに来てくれたのです。

コンサート終了後、お礼にお誘いした食事の席で、大美賀さんのお弟子さんの話になりました。お弟子さんは90歳。住まいのシニアハウスからシャンソンのレッスンに通っているとか。

「シニアハウスってどちらの?」と聞いたら、偶然にも、お世話になった津田塾大学の元学長が、99歳で亡くなるまで暮らしていたところで、私も何度かお見舞いに訪ねた施設でした。

その瞬間、「そこを事務所代わりにしたらどうだろう?」とひらめいたんです。私には、パートナーも子どももいないので、自分の始末は自分でつけなければなりません。

このシニアハウスなら、ケアが必要になったときは介護病棟に移ることができ、最期を看取ってもらえます。以前、女優の有馬稲子さんが、老人ホームから仕事に通っていると小耳にはさんだこともあって。

1週間後に見学に行き、パパッと決断しました。こうなると私は早いんです。事務所をすぐに売却。思ったより高く売れて、シニアハウスの入居金をまかなうことができ、トントン拍子で話が進んでいきました。

これで私も、いわゆる《老後》は安泰。言ってみれば、やっと死に場所を決められてひと安心、というところでしょうか。

入居を決めたもう一つの理由は、食事のことです。

軽井沢にいる時は、ほぼ自炊をしています。私は小皿にちょこちょこおかずを盛りつけて並べるのが好きです。

朝は、豆皿に盛った8、9品のおかずと、ご飯と味噌汁。豆皿にはひじきや切り干し大根、海藻の和えものなどの常備菜や、野菜の煮ものなどを少しずつ入れます。昼は主に麺類。夜は酒肴を何品か用意して、軽く晩酌。1日3回料理して、食べて、後片付けするのって、けっこう忙しいものです。

最近、それが面倒になりはじめました。自分の味にも飽きてしまって。食器を洗うのも、どうしようもなく嫌になったりします。そんなことは今までなかった……。年齢のせいかもしれませんね。

一方、東京の事務所にいる間はというと、部屋にキッチンはあるものの、小さくて食事を作る気にならない。すると、どうしても外食や出来合いのものが多くなって、栄養が偏ってしまいます。

その点、シニアハウスでは、施設内のレストランに行けば、リーズナブルなお値段で高齢者の健康に配慮した、バランスのいい食事ができます。ここで食べれば健康にもよさそうです。

シニアハウスにはご夫婦で入居なさっている方もいます。妻は入居に積極的でしたが、夫のほうは渋々、というケースも少なくないようです。でも妻にしてみれば、80代半ばにもなって夫のために1日3回料理をするのはしんどいですよね(笑)。

ここならば、部屋にもキッチンが付いているので自分で作ることもできるし、レストランでも食べられる。選択肢があるだけでも気持ちが全然違います。

私はシニアハウスでは自炊はせず、もっぱらレストランを利用しています。とはいえ、ずっとレストランの味だと飽きてしまうのも事実です。だから、週の半分は東京、もう半分は軽井沢。目下、いいペースで生活できています。

前向きな《先輩》に触発されて


シニアハウスの間取りは2LDKです。以前のマンションは3LDKだったので狭くはなったけれど、引っ越しするにあたってとくにモノは処分しませんでした。原稿など仕事の準備は軽井沢でするので資料類はすべてそちらに置いてあります。

一方で、テレビや講演、インタビューの衣装、シャンソンのコンサート用のドレスなど、仕事で使う衣装の類いは東京に置いていて、一室はいっぱいです。

居室はコンパクトですが、レストランや図書室、サロンなどの共用部分が広々していて、天井が高いのが気に入っています。イギリスに留学して以来、天井が高く、柱の太い建物に魅せられていたので、私の好みにぴったり。

大浴場やフィットネス・ルーム、プールなども完備されています。さまざまな趣味の会、運動の会などもたくさんあり、毎週のように昔の映画の鑑賞会も。美容院やクリニックが併設されているので、いざという時も安心です。

何より驚いたのが、入居している大先輩たちのパワフルさ。皆さん、いつも華やかなお洋服を着ていらして、聡明な方ばかり。エレベーターの中やレストランでちょっとおしゃべりをするのも楽しいひとときです。

90代の方も結構いるので、私は「まだまだお若いわね〜」と言われる立場。83歳で若いと言われるなんてねえ。(笑)

先日お食事をご一緒した90代の女性は、トランプを使った対戦ゲーム「ブリッジ」を始めたとのこと。ルールはシンプルなのですが、駆け引きが重要なようです。ご本人は難しいと嘆いていましたが、その年齢で新しいことにチャレンジするなんて素敵です。このように歳の重ね方のお手本が間近で見られるのも、励みになります。

ここでお友達になった方が、私のシャンソンのコンサートにも来てくださるんです。先日は軽井沢で開いたバースデーコンサートに足を運んでくれて。かといって、ベタベタしてないのがいい。高校の同窓会のような感じです。

昔から一人でいるのが好きで、誰かと一緒に暮らすのは絶対無理だと思っていました。けれど、隣近所に誰が住んでいるのかわからないのも味気ない。

そんな私にとって、自分のテリトリーは居住空間で確保しながら、交流は食事の時や廊下で会った時ぐらい、そんなほどほどの距離感はとても快適なんです。

<後編につづく>

婦人公論.jp

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