なぜヒグチさんは大病してもフェニックスのように回復するのか。「手術後、ベッドでもう助からないと泣いていたら猫が…」樋口恵子×坂東眞理子

2024年5月22日(水)6時30分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

総務省が公表した資料「統計からみた我が国の高齢者」によると、総人口に占める65歳以上の割合が過去最高の29.1%と推計されるそう。そこで今回は、「人生100年時代」を楽しく生き抜くための知恵が詰まった書籍『人生100年時代を豊かに生きる ヨタヘロしても七転び八起き』より、評論家の樋口恵子さんと昭和女子大学総長の坂東眞理子さんの対談をお送りします。

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大きな病気


坂東 89歳での乳がん。驚きましたが、今はすっかりお元気になられたようで安心しました。

樋口 お医者さんがお上手だったのでしょう。手術そのものは2時間半程度で終わり、麻酔から覚めたときもちっとも痛くなかったんです。メスを入れたのですから、1晩か2晩はうなる覚悟をしていたんですけれどね。その後の回復も順調で、先日も半年に一度の検診を受けたばかりですが、まったく問題はありませんでした。

坂東 長くお付き合いさせていただくなかで、健康に関してもこれまでいろいろなお話をうかがいました。確か子どもの頃には肺結核と腎盂炎。それから70代でも大きなご病気をされたそうですね。

樋口 はい。77歳のとき、感染性胸腹部大動脈瘤(かんせんせいきょうふくぶだいどうみゃくりゅう)というひどい病気をいたしました。お腹のあたりの大動脈にできた瘤(こぶ)を3つも切除してまた塞ぐという大手術でした。医学ってすごいものです。ただ、乳がんのときとは違って、あれは本当に痛かった。痛くて、痛くて泣きました。

病気をして猫に慰められる


樋口 ですが、おかげで思いもよらぬ体験をいたしました。猫が素晴らしいケアラーだという事実に立ち会ったのです。

坂東 まあ、そうなんですか。樋口さん、猫がお好きでずっと飼っていらっしゃいますものね。


『人生100年時代を豊かに生きる ヨタヘロしても七転び八起き』(著:樋口恵子・坂東眞理子/ビジネス社)

樋口 ペット自慢なら3時間でも4時間でもおまかせください(笑)。ともかく、術後の私は家のベッドに横たわり、猫をかき抱いてさめざめと泣いておりました。「おかあたんは、死にそうだよぉ、もう助からないよぉ」と。

すると、猫が私の右腕を自分の前足で挟み込み固定すると、いたわるようにペロペロと舐めはじめるではありませんか。そのうち皮膚が真っ赤に腫れ上がって、「もういいんだよ」とやめてもらいましたが、猫のなんと利口なこと!

坂東 言葉は通じなくても、飼い主の痛みがわかるんですね。

樋口 猫にさえ哀れまれ、「これで治らずにおられるか!」と立ち上がることができました。ペットを飼っている方がいらしたら、体がおつらいとき、どうぞこの話を思い出してください。「猫に舐められてヒグチは元気になったらしい。うちは犬だからもう少し長生きできるかも」などと。そんなふうに考えるだけでも、気持ちがラクになるのではないでしょうか。

坂東 樋口さんの場合、大病されても、いつもフェニックスのように回復される。なぜなんでしょう?

樋口 病気に慣れているんでしょうね。転びやすいけれど、立ち上がりやすい。これも一つの生き方です。

坂東 確かに、人生つねに順風満帆というわけにはいきません。でも、たとえ転んでもまた立ち上がればいい。まさに七転び八起きの精神ですね。

語り合える友をつくろう


樋口 坂東さんもおっしゃっていましたが、このコロナ禍で、長く外出が制限されたでしょう。ちょっと人に飢えませんでしたか?

坂東 その感覚わかります。オンラインで仕事や情報交換はできるのですが、面と向かわないと心が通い合った気がしない。人生でリアルな人との出会いがいかに大切か、あらためて実感させられました。

樋口 本当にそう。私が今あるのも、多くの友人や仲間、これまで出会ってきた人たちのおかげです。こんな殊勝なことを言うなんて、やはり年を取るのも悪くないですね。私、良い人になりました。

小学校からずっと一緒で、高校も大学も手を取り合い一緒に受験して、一緒に合格した女友だちがいたんです。あちらはNHKに就職して、私は途中からフリーのもの書きと働く場は違ったけれど、ずっと同志のようなものでした。

そういえば、彼女とは、女学校1年生のとき結核で休学したのも同じでした。お互い安静にしていなければならなかったのですが、初期の結核は少し咳が出るくらいで、そんなにつらくはないんです。2人でひたすら手紙のやりとりをしました。そんな親友だった彼女も昨年亡くなってしまいました。寂しいものです。

かけがえのない友人


樋口 人生の価値とは何だったかと振り返ると、やはり女友だちの存在が大きかったと思います。でも、考えてみたら休学中に友人のお見舞いを一度も受けていません。風邪で2〜3日休んでも、必ず誰かがお見舞いに来てくれたのに。音信したその友人から毎日のように届く手紙だけでした。理由は、肺結核という私たちの病名です。患者がいる家の門の前は走って過ぎ去る。今のコロナより恐れられたのです。

みなさん、どうかお友だちを大切にしてください。

坂東 高齢者の単身世帯や夫婦2人暮らしが増えています。なかでも女性は平均寿命が男性より約6年長く、夫が年長のカップルが多いので、おひとりさまの期間が長くなる可能性が高いです。

固い絆に結ばれた大親友とか、お互いのすべてを知り尽くしたような深い関係でなくていいと思うんです。気軽におしゃべりできる人、一緒にごはんを食べて楽しい人、何かあったら助け合える人。そんな“ゆる友”が何人かいると、心強いですね。

樋口 そう。私も深いとか浅いとかの友情のグレードは関係ないと思います。コロナで人恋しかったあの感覚を忘れずに、どうぞ出会ってください。

※本稿は、『人生100年時代を豊かに生きる ヨタヘロしても七転び八起き』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

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