樋口恵子 段差を飛び越えられる「はず」。体が覚えている「はず」…<体が変わっても頭と気持ちは若いときのまま>のギャップが悲劇を生む
2024年5月24日(金)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
総務省が公表した資料「統計からみた我が国の高齢者」によると、総人口に占める65歳以上の割合が過去最高の29.1%と推計されるそう。「超高齢化社会」の真っ只中、今年92歳を迎えた評論家・樋口恵子さんは「長生きするなら、幸せの時間も2倍にしましょう!」と明るく語ります。「人生100年時代」を楽しく生き抜くための知恵が詰まった書籍『人生100年時代を豊かに生きる ヨタヘロしても七転び八起き』から、樋口さんの体験談をお届けします。
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「決して転びません」と心に誓う
私の勝手な決め方では、ヨタヘロ期とは平均寿命から健康寿命を引いた年月のことをいいます。健康未満・要介護以前といったらいいでしょうか。
ヘルパーさんに来てもらう必要はないけれど、日常生活はちょっとたいへん。そんな期間のことで、計算すると、男性が約8年間、女性が約12年間になります。
せっかく女性のほうが長生きなのに、なぜ男性より4年も長くヨタヘロしなきゃいけないのか? なんだか釈然としませんが、介護保険の利用理由を見ると納得です。
男性の場合、要介護になる人の過半数が、脳出血や心臓病などの後遺症。女性は、転倒、骨折、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)です。
つまり、男性のほうが死につながる病にかかりやすく、ヨタヘロする前にあの世へいってしまわれる方が多いということです。
一方、女性は、骨折くらいじゃ死なないものの、寝たきりや、不自由な時期が長引いてしまいます。健康寿命の期間を少しでも延ばすためには、私たち女性は、まずは骨折しないように気をつけなきゃなりません。
実は私、よく転びます
骨折防止のための必要かつ最大の策は、とにかく転ばないことです。
と、えらそうに言っておりますが、実は私、よく転びます。
『人生100年時代を豊かに生きる ヨタヘロしても七転び八起き』(著:樋口恵子・坂東眞理子/ビジネス社)
記憶に残る転倒事件はいろいろあります。
還暦の年に、知人宅の外階段でそれは起きました。暗い階段を楽しくおしゃべりしながらタッタッタッと下りてきたのはいいのですが、途中で1段踏み外してドテーン。石段に膝をしたたかに打ち付けました。幸い皮下脂肪がたっぷりついていたためか、骨折はまぬがれました。
その少し前には、雨で濡れたタイルの床ですべって転んだこともありました。ヒールのついた靴を履き威勢よく歩いていたので、転び方も宙に舞うほどに派手でした。
「はず」には十分気をつけて
50代〜60代といえば、まだ若い。でも、その頃から油断は禁物です。
知人のなかに、駐車場を出るとき「昨日までなかったはず」の、ポールとポールの間の鎖に足をとられて転んだ人がいますが、この「はず」が、クセモノなのです。
私の体験では、講演会の壇上で、動かない「はず」の机が実は可動式だったことがあります。手をついたとたん動きだし、とっさにつかまった椅子がこれまた可動式で、そのままスッテンコロリン。大勢の人が見守るなか赤っ恥をかきました。
両手いっぱいの買い物袋を抱えて、急いで玄関で靴を脱いだ「はず」……だったのに、片方がまだ脱ぎきれてなくて上がりかまちにひっかかり、そのままつんのめって転んだこともあります。
このくらいの段差は飛び越えられる「はず」。
いつもの階段だから、暗くても体が覚えている「はず」。
この手の「はず」には、十分気をつけなければなりません。
老いのとば口では、「こんなはずでは!」の出来事がよく起こるもの。体は変わりつつあるのに、頭と気持ちは若いときのまま。そのギャップが悲劇を生むのです。
何ごとも急がず慎重に、が大事です。出かけるときは、時間に余裕をもちましょう。駅の階段を歩くときは、できるだけ手すりのそばを。バッグのなかの財布を探しながら、携帯電話でおしゃべりしながらなどの「ながら歩き」はやめましょう。ドアが閉まりかけた電車に走って飛び乗ろうなど、もってのほかです。
理由なき転倒
よく転んだ私ですが、60代、70代の頃の転倒には「急いでいた」とか「床がツルツルだった」「出っ張りがあった」など、ちゃんと理由がありました。
ところが、さらに年を重ねると、やってくるのが理由なき転倒です。
「90歳くらいになると、ただ立っているだけで、ふわーっと転ぶことがあるんですよ」とおっしゃったのは、女性政治家の草分け加藤シヅエ先生です。
そのお話を聞いたとき、私は70代。正直、そういう場面を想像できませんでした。
しかしながら、ついに私もそれがわかる年頃になってしまいました。
あるとき、玄関に立っていたら、本当にふわーっと倒れたのです。
べつに段差につまずいたわけでも、スリッパを踏んづけてすべったわけでもありません。偶然目撃した助手によりますと、突然全身の力が抜けたようにグシュグシュグシュとくずおれたそうです。
いくらふわーっとでもグシュグシュでも、体重の重みで勢いがついて床に叩きつけられれば、大ケガにつながることもあります。
私の場合、幸い骨が丈夫なのか、若いときの転倒も含めて骨折したことはありません。ただ、打ち身、擦り傷、青あざとはすっかりおなじみです。
理由がないので、注意したくてもしようがありません。でも、ヨタヘロ期にはこのような未体験の出来事も起こるのだと心におとめおきください。
※本稿は、『人生100年時代を豊かに生きる ヨタヘロしても七転び八起き』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。
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