『光る君へ』を彩る平安装束を今に伝える匠の技。十二単もすべて手縫いで!中宮彰子の“お産装束”やまひろの衣装を再現した婚礼衣装も登場

2024年5月26日(日)12時30分 婦人公論.jp


カップルで記念撮影。男性は束帯を着用 (提供・雪月花苑)

NHK大河ドラマ『光る君へ』の舞台である平安時代の京都。そのゆかりの地をめぐるガイド本、『THE TALE OF GENJI AND KYOTO  日本語と英語で知る、めぐる紫式部の京都ガイド』(SUMIKO KAJIYAMA著、プレジデント社)の著者が、本には書ききれなかったエピソードや知られざる京都の魅力、『源氏物語』にまつわるあれこれを綴ります。

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前回「『光る君へ』疫病のまひろを看病する道長に胸キュンシーン、狩衣の紐が役に立つ!女房装束姿のまひろ、貧乏だけど持ってたの?」はこちら

手縫いで仕立てる十二単


大河ドラマ『光る君へ』をきっかけに、平安装束に興味を持った人もいると思います。

ただ眺めるだけではなく、実物を手に取って、その感触を知りたい。できるなら自分も平安装束を身につけてみたい。そう思った人にご紹介したいのが「十二単記念撮影館 雪月花苑(平安装束体験所)」(京都市伏見区)です。着付けとメイク、カメラマンによる写真撮影がパッケージになったプランがあり、本格的な平安装束を着用することができます。

この施設を運営するのは、福呂一榮さん。装束の研究と制作に長年携わり、平安時代の文化や装束のすばらしさを現代に伝えることをライフワークにしておられます。

老舗装束店・平安装苑に嫁いだ福呂さんは、義母である先代から、装束の仕立てと着付けを徹底的に仕込まれたそうです。平安装束の継承に人生を注いだ先代の想いと技術を受け継ぎ、今では十二単の第一人者を自負するほどに。

主に婚礼用貸衣装の制作を手がける一方で、平安装束の魅力を気軽に体験してもらう場として「雪月花苑」を開設。家族やカップル、外国人観光客にも装束体験を提供しています。

「雪月花苑」に用意されているのは、伝統を守りつつ現代的な改良を加えたオリジナルの「一榮十二単」です。格式ある正絹の装束のほか、軽さと着やすさを重視したテトロンのシリーズも開発。「十二単は重くて、たいへん」という声に応える一方で、肝心の仕立てでは伝統を重視。山科流の装束仕立て技法で、福呂さんが、ひと針、ひと針、心を込めて手縫いで仕立てています。

「長い針と太めの絹糸を用いて、一寸(約3.8センチ)を三針で仕立てます。十二単一式を仕立てるのに2ヵ月ほどかかるでしょうか。お蚕さんに感謝しながら、また、おめしになる方が幸せになるようにと願いながら制作しております」(福呂さん)

安産祈願のため女房装束も白一色に


山科流では、布地の色にかかわらず、白糸で縫うのが決まり。一寸三針なので、通常の和装の仕立てと比べると縫い目がかなり大きいのですが、このほうが装束の風合いが出るのだそうです。

婚礼用に使われることも多いため、向蝶丸紋(二匹の蝶が向かい合った姿を表す吉祥文様)や雲鶴丸紋(たなびく雲の中、つがいの鶴が向かい合って飛ぶさまを表す)など、文様や配色にもおめでたいものを選んでいるとのこと。

また、白の女房装束を現代的にアレンジした「平安調白無垢」も考案。格調高い婚礼衣装として提供しています。


婚礼衣装として人気の「平安調白無垢」と冠直衣 (提供・雪月花苑)

というのも、平安時代の宮中では、出産が近づくと、吉日を選び、産室の室礼も女房たちの装束もすべて白一色に変えて安産を祈願したというのです。『紫式部日記』に、中宮・彰子のこうした出産準備が記されているほか、『源氏物語』の巻34「若菜・上」にも、明石の女御が東宮の皇子を出産する場面で、同じような描写が出てきます。

このことに着想を得て、真っ白な唐衣や裳に、金銀の鳳凰や大粒の真珠などをあしらった、きらびやかで品格のある十二単が生まれたのです。

まひろの袿姿を模した貸衣装も


『光る君へ』人気は、婚礼衣装の世界にも影響を与えているらしく、福岡のブライダル業者からは、『光る君へ』のポスターなどで吉高由里子さんが着用している袿をつくってほしいとの依頼が。そこで、写真などを参考に、同じような袿姿一式を制作。柄本佑さんが着た赤の武官束帯を模した男性用の装束もあわせて作成し、喜ばれたそうです。

金の鳳凰が華やかな袿と赤の束帯は、昨年5月に京都・平安神宮で行われた『光る君へ』の取材会で二人が着用していたもの。そのときの写真と福呂さんが制作したものを見比べても、素人目には違いがわからないほどそっくりに仕上がっています。(ドラマの衣装では淡いクリーム色だった地色は、依頼主の希望で薄紫にかえたそうです)

赤の束帯は、若き日の道長がドラマのなかで何度も着用していましたし、鳳凰柄の袿は、まひろが定子や一条天皇と対面したときに、女房装束の表着(うわぎ)としても着ていたように思います。

というわけで、これを着たカップルは、『光る君へ』の世界に飛び込んだような気持ちになるはず。結婚式のお色直しで平安装束を選ぶというのも、なかなか個性的で素敵だと思います。

もちろん、「雪月花苑」にも、正装の束帯、准正装の衣冠(いかん)、そして冠直衣など、本格派の男性用装束が揃っています。好みの色を選べる冠直衣が、とりわけ人気が高いとのこと。こうした装束に袖を通せば、光源氏、あるいは藤原道長になった気分が味わえるのではないでしょうか。

「ひねり仕立て」という匠の技も


また、忘れてはいけないのが、平安装束には、日本が1000年以上にわたって受け継いできた技術が詰まっていること。その一例が、狩衣の縁などの「ひねり仕立て」。(袷ではなく)ひとえ仕立ての装束に用いられる伝統技法です。


ひねり仕立ての例(提供・雪月花苑)

糸を使わず、布の端に薄く糊をつけ、こよりを巻くように、くるくると丸めるのですが、ひねり方がゆるいと、ふわっとした仕上がりになってしまいます。針金が入ったように細くハリのある縁になるようひねり込むのが熟練の技。角の処理は特に難しいそうですが、夫である、装束司の福呂淳(きよし)さんは「名人級の技を持っている」と、福呂一榮さんは胸を張ります。

「糊は、ゆがいたお餅を板の上に広げ、すりこぎで力を込めて練ってつくります。糊の練り方が悪かったり、布のひねり方が弱いと、縁がほつれてしまうんですよ。なので最近では、糊にボンドを混ぜて制作される方もおられるようですが、主人は昔ながらの手法を守っています」

糊から手づくりとは、途方もなく手間暇のかかる仕事です。それゆえ、こうした技法で仕立てられた装束は、現在では希少なものになっているとか。平安装束は、日本の美と匠の技が凝縮された文化遺産といえるかもしれません。

婦人公論.jp

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