退屈は脳やメンタルに良い。科学者が明かした意外な事実

2025年5月29日(木)8時0分 カラパイア


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 特にやりたいこともなく、精神的な刺激が減り、集中力を失ってしまうあの「退屈」な感覚は、誰にでも訪れる普遍的な体験である。 


 一般的に退屈は、できるだけ避けるべきもの、あるいは防ぐべきものと思われがちだが、オーストラリアの研究者によれば、退屈は必ずしも悪いことではないという。


 退屈を受け入れることで、脳や心に良い影響を与えるのだ。刺激で疲れた脳にちょっとホッとする時間を与えてやれば、創造性がアップするという。


 以下では、そんな退屈と上手に付き合うヒントを紹介しよう。


退屈している時、脳で何が起きているのか?


 たとえば、映画を観ていてだんだん退屈してきたとしよう。そんな時、脳では色々なことが起きていると、サンシャイン・コースト大学のメンタルヘルス研究者ミシェル・ケネディ氏は語る。


 映画の冒頭はきっとあなたは集中しているはずだ。脳の「注意ネットワーク」が活発になり、映画の刺激を優先し、映画に関係のない情報を排除して集中を助けようとする。


 だが思ったよりも話が面白くないと、だんだんと注意ネットワークの活動が弱まり、映画に集中できなくなってくる。
 それと同様、面白くない映画に無理に集中しようと頑張ることで、集中・判断・計画といった機能を担う前頭頭頂部の「実行機能ネットワーク」の活動も低下する。


 その一方で、活発になるのが「デフォルト・モード・ネットワーク」だ。これはぼうっとしているときや、注意が内面へと向かっている時に活発になるネットワークで、私たちの意識の鍵[https://karapaia.com/archives/52288906.html]を握ってもいる。
 また、感覚や感情処理を担う「島皮質」という領域では、退屈を察知して活動が高まる。


 さらに”内なる警報システム”とも言える「扁桃体」では、退屈にともなうネガティブな感情を処理し、「腹内側前頭前野[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%85%B9%E5%86%85%E5%81%B4%E5%89%8D%E9%A0%AD%E5%89%8D%E9%87%8E]」がより刺激的な活動を探すよう私たちを促す。


 そんなわけで、映画で退屈していたら、あなたはもはや映画に集中しておらず、ほかに何か面白いとこはないかと探していたりする。



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退屈する暇のない刺激にあふれた現代社会


 現代人は忙しい。大人なら仕事と家庭の両立を求められるし、子どもだって学校のほか、塾や習い事に勤しまねばならない。まるで予定がないのが悪いことかのように、スケジュールがぎっしりと埋められる。


 多少の空き時間があったとしても、スマホで予定を確認したり、SNSを見たりと、忙しく作業をしている。


 ケネディ氏らによると、こうした絶えず刺激を受け続ける状態は自律神経系、特に「交感神経」にとって大きな負担であるという。


 交感神経は「闘争・逃走反応」を担っており、本来はストレスのある状況に対処するために作られたものだ。だが過密スケジュールをこなして常に刺激にさらされ続けると、このシステムもまた常に作動し続けることになる。
 こうした状態を「アロスタティック・オーバーロード(allostatic overload)」という。


 脳の神経系が圧倒され、常に覚醒した状態になってしまう。こうなると、交感神経がリセットされなくなり、不安を感じやすいといった問題が生じるようになる。



脳の「デフォルト・モード・ネットワーク」を示したもの。退屈を感じているとき、注意力を内面の思考に向けるよううながす/ image credit:John Graner/WIKI commons[https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Default_mode_network-WRNMMC.jpg]


退屈が創造性や感情調整能力を高める


 そんな時代だからこそ、多少の退屈は刺激に満ちあふれた現代社会において、私たちが心と体のバランスをとる上で必要不可欠なものだとケネディ氏は述べている。
 それは脳や心に以下のような効果をもたらすことが期待できるという。


1. 創造性が高まることで、考えが自然にまとまりやすくなり、集中の流れが生まれる。


2. 思考の自立性が育まれることで、外部からの刺激に頼らず、自分が本当に興味のあるものを見つけられるようになる。


3. 自分の気持ちと向き合う時間を持つことで、自己肯定感が育まれ、感情も安定しやすくなる。これは不安のコントロールにもつながる。


4. スマホなどのデバイスから離れる時間をつくるきっかけになり、お手軽な満足を得るクセから抜け出せる。


5. 過剰な刺激を減らして神経を落ち着かせることで、不安な気持ちをやわらげる。


 現代社会では不安を抱えて生きる人が増えている。


 その背景には色々な要因があるだろうが、ケネディ氏らは、現代人が退屈を嫌い、常に何かをやっていようとすることも一因だろうと述べている。


 そのせいで、脳や身体に必要な「リセット」と「再充電」の時間が奪われてしまっているのだという。


 だからたまには退屈するのもいい。そうして脳や心が休んでいる間に、また頑張るためのエネルギーが回復しているのだから。


References: Boredom gets a bad rap. But science says it can actually be good for us[https://theconversation.com/boredom-gets-a-bad-rap-but-science-says-it-can-actually-be-good-for-us-255767]

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