夫婦で“うつし合う”ケースも…不妊リスクを引き起こす「感染症」とは

2025年5月30日(金)11時20分 マイナビニュース


不妊症は多くの夫婦にとって深刻な問題であり、その原因はさまざまです。中でも、知らぬ間に感染している性感染症が不妊のリスクを高めることがあることは、ご存じでしょうか。
今回は、不妊症の定義や原因、そして不妊につながる感染症について詳しく解説します。
■不妊症とは
不妊症とは、「妊娠を望んでいる健康な男女が、避妊をしないで性交しても1年間妊娠しない場合」のことを指します。
○<不妊の夫婦の数>
なお日本では、不妊の心配をしたことがある夫婦は約2.6組に1組、不妊検査や不妊治療を受けたことがある夫婦は4.4組に1組というデータがあります(2021年 第16回出生動向基本調査)。また、この割合は年々増えています。
不妊は誰にでも起こりうることであり、多くの人が悩んでいることなのです。
なお、同じ期間妊娠しなかったとしても、若い夫婦の場合はその後自然妊娠できるケースが多いものの、年齢の高い夫婦はその後自然妊娠できる可能性は低くなります。
そのため最近では、夫婦の年齢が高い場合は「妊娠しなかった期間が1年未満」でも早めに不妊の検査や不妊治療を始めた方がいいと考えられています。
■不妊の原因
妊娠するには、卵子と精子が出会い、受精し、着床する必要があります。つまり、年齢、病気、子宮や卵巣・精子の状態など、不妊の原因は男女ともに可能性があります。また、男女の両方に不妊の原因が見つからず、医療機関でも不妊の原因がわからないケースもあります。
○<女性に不妊症の原因がある場合>
女性側の不妊の主な原因は下記のようなものです。
・卵巣(排卵)のトラブル
卵巣は卵子を育て、排卵が行われる場所。肥満や極端な痩せ、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺機能異常、乳汁分泌ホルモンの分泌異常、心身のトラブルなどによって排卵しないことがあります。
・卵管のトラブル
子宮の左右両側にある卵管は卵巣から排出された卵子が運ばれる通り道であり、卵子と精子の出会いの場所でもあります。ここが詰まっていると、卵子と精子が出会って受精できなくなります。
・子宮頸管のトラブル
子宮の入り口にある子宮頸管は、精子が通りやすいようにきれいな粘液で満たされています。この粘液が十分に分泌されていないために精子が子宮や卵管まで到達できないことがあります。
・子宮のトラブル
子宮内膜ポリープや子宮筋腫、子宮腺筋症などによって子宮内の状態が悪化すると、受精卵が細胞分裂をしてできた胚が着床しにくくなったり、精子が卵子へ到達しにくくなったります。
・免疫のトラブル
免疫の異常で、精子を障害したり運動を止めたりする抗体が産生され、受精の妨げになってしまうことがあります。
○<男性に不妊症の原因がある場合>
男性側の不妊症の主な原因は下記のとおりです。
・精巣機能のトラブル
精巣で精子を作る機能が低くなることで、精子数の減少や運動性の低下などが引き起こされ、受精しにくくなることがあります。
・精管のトラブル
精子の通り道である精管が詰まってしまうと、精巣でできた精子がペニスの先まで到達しにくくなります。
・性交の際のトラブル
勃起障害や射精障害などでうまく性交ができない(性交障害)と妊娠は難しくなります。性交障害は精神的なプレッシャーやストレス、糖尿病などの病気などによって起こります。
■不妊につながる感染症とは
性器クラミジア感染症や淋菌感染症などのような、性的に接触することで感染することがある「性感染症」にかかると、男女ともに不妊になることがあります。
○<感染経路>
性交することで、性器などの粘膜や皮膚から細菌感染をします。性器クラミジア感染症の場合はクラミジア・トラコマチスに、淋菌感染症の場合は淋菌に感染します。
○<症状>女性の場合
性器クラミジア感染症では、おりものの増加や不正性器出血、下腹部痛などが現れますが、女性は自覚症状がないことも多く、感染が長期化することもあります。
淋菌感染症では、悪臭を伴う膿のようなおりもの、外陰部のかゆみ、不正出血、排尿痛、尿道からの膿の排出などが見られますが、症状が軽いことが多く、未治療のまま放置されることも少なくありません。
両方とも、感染して適切な治療を受けずにいると、炎症によって癒着が起こり、卵管の閉塞や狭窄などのトラブルを引き起こし、不妊症になりやすくなります。
○<症状>男性の場合
性器クラミジア感染症や淋菌感染症で、排尿痛や尿道からの膿の排出などの症状が現れます。この2つの感染症が合併していることも少なくありません。
両方とも感染すると尿道炎が起こり、適切な治療を受けずにいると精巣上体炎を引き起こし、精子の通り道がふさがって閉塞性無精子症となることがあります。
○<予防法>
性行為をする際にはコンドームを使うこと、そして不特定多数との性的接触を避けることが予防につながります。
そして、悪化させず感染を広げないためにも、自覚症状があった時点で早めに医療機関を受診し、早期治療に取り組むことも大切です。
○<治療法>
尿やおりもの、尿道・子宮頸部などの分泌物を調べ、感染がわかったら抗菌薬を投与して治療します。
なお、性交した相手も感染している可能性があるので、パートナー同士の片方だけが治療をしてももう片方が治っていなければ再感染する可能性があります。「ピンポン感染」と呼ばれ、卓球の球を交互に繰り返し打つように、一方の治療を完了しても性交の相手が未治療であれば再度感染してしまいます。特に自覚症状に乏しいとされる性器クラミジア感染症や淋菌感染症ではパートナーとともに受診して治療を受けましょう。
最後に不妊症と性感染症の関係性について、産婦人科の専門医に聞いてみました。
不妊症の原因となる性感染症の代表的なものとして、クラミジア感染症と淋菌感染症があります。いずれの感染症の場合も、女性に生じる症状は、帯下(おりもの)異常、出血、下腹部痛などですが、症状が出ない場合もあります。感染を契機として卵管や骨盤内で炎症反応が起こった結果、その周囲に癒着が生じることが知られています。感染した場合に必ず不妊症になるわけではないですが、早期の治療によって、炎症反応による癒着の形成を防ぐことで不妊リスクを軽減できると考えられます。
他の性感染症と同様、コンドームの使用、不特定多数との性交渉を避けるなど、感染機会を減らすことが予防法となります。検査の方法は、細い綿棒のような検査キットで子宮頸管を軽く擦り、PCR法などで調べます。治療法は、内服薬または注射薬の抗菌薬を使用します。
性感染症は誰でも感染しうるものです。帯下異常、出血、下腹部痛などの症状がある場合やパートナーの感染が判明したならば、女性の場合では産婦人科を受診ください。
○手石方 康宏(ていしかた やすひろ)先生
一宮西病院 産婦人科/医長
資格:日本専門医機構認定 産婦人科専門医

マイナビニュース

「不妊」をもっと詳しく

「不妊」のニュース

「不妊」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ