錦糸町の注目ラーメン店『錦糸町中華そばさん式』の究極の1杯をラーメン官僚が実食! そのウマさの秘密とは?

2022年7月30日(土)10時48分 食楽web


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 今回は、2022年6月11日にオープンした『錦糸町中華そばさん式』をご紹介します。同店を切り盛りするのは、谷地文明店主。文京区を代表する実力店のひとつ『麺屋 ねむ瑠(ねむる)』でじっくりと腕を磨き、今般、満を持して独立した人物です。

 ちなみに店主の修業先である『麺屋 ねむ瑠』は、2015年に文京区本郷で産声を上げ、これまでラーメンスープに用いられる機会がほぼなかったレア素材「烏賊(イカ)」を駆使した1杯を提供することで、オープン後、それほどの歳月を待たずしてブレイク。2022年現在、東京都内を主戦場とするラーメン好きであれば、知らない者はいないほどの人気ぶりを誇るビッグネームです。

 谷地氏は、そんな『ねむ瑠』で、店長を任されていた方。改めて申し上げるまでもなく、その事実のみをもってしても、氏のラーメン職人としての腕の確かさは折り紙付き。私が把握する限りにおいても、谷地氏が独立店舗を構えるという情報に接し、店への訪問を躊躇することなく決意したラーメン好きは周囲にも多数います。そんな状況で、私も虎視眈々と機会を見計らっていたのですが、今回、お店に足を運んできました。


京メトロ半蔵門線・錦糸町駅から徒歩5分程度。JR総武線・錦糸町駅からでも、10分足らずでアクセス可能な好立地。錦糸町のランドマークである複合商業施設『オリナス(OLINAS)』のすぐ近くです

 店舗の場所は、最寄りである東京メトロ半蔵門線・錦糸町駅から徒歩5分程度。屋号が明記された巨大な看板が、店舗の存在を高らかにアピールする外観。のれんの一部を除き、外観を構成する色彩を白と黒の2色へと絞り込んだスッキリとシンプルなファザードから、作り手のセンスの高さが垣間見えますね。

 店名である『さん式』の由来は、「朝昼晩の三食、うちのラーメンを食べても飽きられない1杯を提供したい」という想いを込めたもの。

 ちなみに当初は『さんしょく』とする予定だったそうですが、修業元(『ねむ瑠』」、『まほろ芭』)の、平仮名プラス漢字1文字というパターンを踏襲し、『さん式』としたと谷地氏は言います。

「このお店では、昔ながらの中華そばを提供することを、ブレない自分の中のルールにしようと思ったんです。『式』は、ルール、決まり事といった意味合いを持つ漢字。それを屋号の一部とすることで、決意を揺るぎのないものにしたいなと」(谷地氏・以下同)。“式”の字を採用したことにも、明確な理由があるわけですね。


木の温もりを感じる店内。女性一人でも入りやすい空間に仕上げられている。入店すると、すぐ左手に券売機が鎮座

 現在、『さん式』が提供するのは、「中華そば」、「烏賊背脂煮干中華そば」の2種類の麺メニューと、そのバリエーション(味玉入り、ばら海苔のせ、チャーシューのせ、全部のせ等)。上から一列目が「烏賊背脂煮干中華そば」系、二列目が「中華そば」系という布陣。三列目に「こく塩中華そば」というメニュー名が書かれたボタンがありますが、まだ開発中の段階なのか、未実装。

 券売機の下段には、「牛丼」、「玉子ホットサンド」など、サイドメニュー系のボタンがあります。とりわけ「玉子ホットサンド」は、ラーメン店のサイドメニューとしては、かなりレア。全国単位で見ても、サンドイッチが食べられるラーメン専門店は数えるほどしか存在しません。どんなものが提供されるのか、激しく興味をソソられますね。

 今回も、いつものごとく券売機の前に立った瞬間に、「中華そば」と「烏賊背脂煮干中華そば」の連食を決意。「烏賊背脂〜」は、私が食券を購入した直後に、完売御礼となってしまいました。

伝統と革新の双方からアプローチした珠玉のラーメンに感動


「中華そば」850円

 まずは「中華そば」から実食。谷地店主のラーメン作りの挙動は、一切の無駄がなく鮮やか。待ち時間5分足らずで、注文の品が提供されました。

「基本軸は、懐かしさが感じられるオーソドックスな中華そば。その基本軸を守りながら、自分なりの発想も随所に散りばめて出来上がったのが、この『中華そば』です」

 ラーメンは、シンプルな形を目指せば目指すほど、小手先のごまかしが利かなくなっていく食べ物。たとえ、1杯1杯を10年にわたって地道に紡ぎ続けたとしても、“答え”にたどり着けるかどうか分からない、そんな奥深さがあります。「作り手の立場からすれば、底なし沼のようにディープな中華そばの世界だからこそ、たまらなく面白いんです」と谷地氏は笑います。

「季節や時期によって、魅力を放つ素材は変わります。その時々の素材と真摯に向き合い、最善の味わいを生み出す。『中華そば』は、そんな心構えで創っていきたいと考えています」

 そんな、谷地店主の心意気が本物であることは、『中華そば』が眼前に差し出された瞬間からひしひしと伝わってきました。一糸の乱れもなく丁寧に畳まれた麺、吸い込まれそうになるほど美しいスープの色合い、丼から立ち上る麗しい香り。どの点をとっても、作り手の魂(ソウル)が感じられるもので、箸を付けるのが惜しまれるほどです。


スッキリとしながらも力強さも併せ持つスープ

「中華そば」のスープは、動物系(鶏・豚)、魚介(2種類の煮干し・3種類の節)、香味野菜等の素材を使用。「とにかく、それぞれの素材から抽出されるうま味のバランスを、できる限り均等にすることを心掛けました」との谷地氏の言葉どおり、確かにスープを吟味すれば、どれかひとつの素材の存在感だけが突出することなく、複数のうま味成分が、仲睦まじく手を取り合っています。

 ひとしきりスープの味わいを確認した後、麺を勢いよくすすり上げれば、天空に向かってそそり立つ大樹のように雄々しく立ち上がるうま味の塊に、意識が持っていかれそうになります。香味野菜から沁み出すナチュラルな甘みも過不足なく、実に好印象。

 とりわけ感銘を受けたのは、魚介の落ち着いた風味を支える動物系素材の土台の確かさ。鶏と豚の重厚なコクが、スープ嚥下後に生まれる心地良い余韻として機能。次のひと口へとつなげるトリガーとしての役割を全うしています。


スープとの相性の良さに啜る速度が増していく

 このスープに合わせる麺は、切り刃20番の名門『菅野製麺所』の中細ストレート。サクリと歯切れのよい食感が、絶え間なく快楽中枢を優しく刺激。あまりにも快適な食べ心地に、気付くと丼が空っぽになってしまっていました。

続いて烏賊を知り尽くした店主が作る「烏賊背脂煮干中華そば」もスゴい


「烏賊背脂煮干中華そば」880円

 続いて、「烏賊背脂煮干中華そば」を実食。「ご承知のとおり、烏賊煮干しを用いた中華そばは、修業先(『ねむ瑠』)の代表的な麺メニューです。『さん式』の『烏賊背脂煮干中華そば』は、ラーメン職人として私を育て上げてくれた『ねむ瑠』へのリスペクトを込めながらも、修業先とは表現の仕方を少し変えています」と谷地氏。


烏賊の旨みをギュッと濃縮したスープ。一口で口内に烏賊の旨みが駆け巡る

 スープをすすれば、烏賊の香ばしい風味がビッグバンのように激しく炸裂! 出汁には烏賊の煮干しと炙りスルメを大量に投入。それにとどまらず、カエシにも烏賊の「いしる(魚醤)」を採用。「これでもか!」と言わんばかりに烏賊を使い倒すことで、他の幾種もの素材を圧倒するほど強靭かつ骨太な烏賊風味を演出することに成功しています。


スープの肝となる烏賊煮干し

 烏賊煮干しは高価な食材を惜しまずに使用。丁寧に水出しした後に火を入れることで、風味を際立たせているそうです。また、香ばしい香りは、スルメをじっくりと炙ることによる産物。「こうして極限まで膨らませた烏賊の風味を、烏賊のいしるで、ギュッと引き締めるんです」。

 烏賊という素材に長年携わり、その特性を知り尽くしているからこそ可能な匠の技。舌上で渦を巻く烏賊のうま味の奔流に、ラーメンでありながら、まるで獲れたばかりの丸ごとの烏賊にかぶりついているような感覚に陥ってしまいました。一度口にすれば最後、脳裏に鮮烈に刻み込まれる——まさに谷地店主にしか作ることができない革新的な味わいです。


「中華そば」とは異なる中太縮れ麺を使用。程よい縮れ具合がスープとベストマッチ

 このスープに合わせる麺は、切り刃16番の中太縮れ麺。麺肌はモッチリ。食感はみずみずしく、すすり心地は極上。同じ『菅野製麺所』謹製の特注麺でありながら、スープの個性をじっくり見極めたうえで、「中華そば」の麺とは全く異なる形状、食感のものを用いています。

 例えるなら、“静”の「中華そば」と“動”の「烏賊背脂煮干中華そば」。まったくもって対照的なテイストの2品ですが、いずれも、食べ手の胃袋を強く引き付ける訴求力を持ち合わせた逸品。

「大切にしているのは、お客さまに、食を通じ、食を超えた快適な空間と時間を提供すること。これからも、この気持ちを忘れずに頑張っていきたいと思います」と、決意を述べる店主。

 谷地店主であれば、『さん式』を地元に根付かせることができるに違いない。そんなことを考えながら、店を後にしました。

谷地 文明店主のプロフィール

・文京区本郷を代表する名店のひとつである『ねむ瑠』で店長を務め、今般、満を持して、墨田区に独立店舗『さん式』を開業。
・墨田区は、店主が20年以上住み続けている、思い入れのある場所。
・今の店主の目標は、そんな大好きな墨田区に少しでも貢献できるような「地元密着型」のお店にしていくこと。
・6月30日現在、提供する麺メニューは2種類のみだが、今後、オペレーションや人材育成が落ち着いたら、レギュラー麺メニューの品数を増やし、限定メニューにも挑戦したいとのこと。

●SHOP INFO

店名:錦糸町中華そばさん式(さんしょく)

住:東京都墨田区太平4-2-1 都営太平南アパート 1F
TEL:非公開
営:11:00〜22:00(21:40LO)、日曜11:00〜21:00(20:40LO)
休:月曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。

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