異色の経歴をもつフィギュアスケート衣装デザイナー・原孟俊、その始まりとは

2023年8月17日(木)12時0分 JBpress

文=松原孝臣 写真=積紫乃


ギタリストとして活躍

 いまや、フィギュアスケートの衣装の世界で、たしかな存在感を示している。

 原孟俊は数々のスケーターの衣装を、あるいはアイスショーの衣装を手掛ける。

 昨シーズンはリズムダンス『コンガ』、フリーダンス『オペラ座の怪人』、エキシビション『Love Goes』と、村元哉中高橋大輔のプログラムすべてのデザインを手掛けた。坂本花織のショートプログラム『Rock whith U/Feedback』、渡辺倫果のフリー『JIN−仁−』、三浦佳生のショートプログラム『ミケランジェロ70』、フリー『美女と野獣』なども原の作品だ。

 アイスショーでは「ファンタジー・オン・アイス」で出演スケーター全員のオープニングやフィナーレの衣装などを担い、「「notte stellata」でもグループナンバーなどを担ったほか、羽生結弦と内村航平がコラボレーションした『Conquest of Paradise』を手掛けている。 

 当の原は、こう語る。

「衣装製作にはいろいろなアプローチがあると思うんですが、僕のようなタイプは日本では珍しいかもしれません」

 その言葉の通り、フィギュアスケートのデザインを手掛ける原は、意外性のある経歴を持つ。日本では服飾関係の専門学校などで学び、その分野の会社に勤め、そこでデザインにあたる、あるいは独立してデザインや製作にあたる人がほとんどだ。

 しかし原は、そうした分野を学校などで学んだことはない。

もともとはギタリストとして音楽の世界に生きてきて、現在も音楽に片方の足を置く。

「本格的に音楽をやりだしたのは16、17歳くらいですね。10代の頃は自分のバンドをやっていたりしたんですが、20代の前半くらいからどちらかというとセッションミュージシャンというかレコーディングをしたり、生徒さんに教えたり、いわゆるバックミュージシャンでツアーをまわったり、そういう感じで仕事をしていました」

 原がフィギュアスケートに接点を持つようになったのは、フィギュアスケートの衣装のデザインや製作でも長く活躍してきた折原美奈子の存在が大きい。

「折原さんが『ファンタジー・オン・アイス』や高橋大輔さんの衣装を手掛けていたのは存じ上げていました」

 彼女との交流からフィギュアスケートにも触れていった原は、時折、スケーターの選曲や編集の依頼などを受けることがあった。

 そうしているうちに、衣装デザインについて、折原に本格的なアドバイスをするようになる。


音楽的視点から考えるデザイン

「フィギュアスケートは必ず音楽があって滑ります。スケーター本人のスキルもそうですけれども、個性も含めたパフォーマンス、振付の人の個性やクリエイティビティ、それと曲、この3つの軸が全てなんです。ただ、クリエイティブディレクション的な領域で音楽をどう捉えるかが難しい、という話がよく出ていて。要するに音楽的な視点からどういうデザインにしていくべきか、コンセプトにしていくか、というところを手伝うようになったのが、衣装に携わるスタートとなりました」

 アドバイスする、という形でかかわるようになった根底には、原が抱いていた違和感があった。

「ロックだったり、いわゆるフィジカルなバンドなど、人間が生演奏をする音楽が主流であった時代から、2000年代後半以降、いわゆるクラブミュージックとかヒップホップみたいなものが音楽のカルチャーとして主流になっていきました。すると、その世代の若いスケーターも当然そういうものを日頃から聴いて、自らのプログラムに採用していきます。そういった場合に、いわゆるロシアバレエに端を発するトラディショナルなフィギュア衣装というものがマッチしないケースもあるな、という感覚がありました。この音楽でこの振り付けでこのプレゼンテーションだったらその衣装じゃないんじゃないか、みたいな思いがあって、そういうミスマッチとかズレみたいなものをどうやったら調整できるんだろう、みたいなことは考えていました」

 テレビでの大会の放送を目にしたり、あるいはアイスショーにも観に行くなどする機会が増える中で覚えた感覚を抱えながら 音楽の世界にも生き、そこで培った知識や感性、経験をもとにコンサルティングをしていた原は、やがて、自らデザインそのものを行うようになっていった。

 一方で、服飾などについて学校で学んだりしてきた経験はない。その中でどのようにデザインを創り上げていったのか。

「僕の場合、衣装をイメージしてデザイン画を描くという作業から始めることはあまりありません。たしかにデザイン画を何パターンか描いて、その中から選んで進めていく、という方法が一般的には多いかもしれません。でも僕の場合、最終的にはデザイン画も作成するんですが、その前にやるべき作業があります」

 では原は、どのようにイメージし、そこから進めていくのか。(続く)

原孟俊(はらたけとし)衣装デザイナー。10代の頃からギタリストとして活動を開始、レコーディングやツアーに参加するなど活躍。一方で衣装へのアドバイザーとしての活動も始め、さらにデザイナーとして数々のスケーターの衣装デザインを手掛ける。また「ファンタジー・オン・アイス」「notte stellata」などアイスショーも担当する。Instagram:@taketoshihara

筆者:松原 孝臣

JBpress

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