eスポーツ部で忘れられない思い出をつくる。5つの高校が参加し、白熱したゲーミング合宿

2024年8月27日(火)9時40分 マイナビニュース

2024年8月、滋賀県立八幡工業高等学校(以下、八幡工業高校)にて、5校の高校eスポーツ部が参加する合宿が行われました。タイトルは、PCオンラインゲーム『League of Legends』(リーグ・オブ・レジェンド、以下、LoL)。昨年から始まったこの合宿は、eスポーツ部の実力向上や生徒たちのオフラインでの交流を目的に開催されています。
今年は昨年よりも規模を拡大し、生徒はおよそ40名、顧問やコーチを含めると総勢およそ60名が参加しました。現地で取材したeスポーツ合宿の模様をお届けします。
参加校や実施タイトルが増え、昨年よりも合宿規模を拡大
昨年から続くこの合宿は、八幡工業高校eスポーツ部で顧問を務める三浦先生の発案から実現しました。多くのeスポーツ部では、顧問の先生がゲームの技術的な面まで指導することが難しく、行き詰まりを感じやすいという課題を抱えています。そのため、合宿にコーチを呼んで指導を受け、一気にレベルアップをはかるという狙いから、この合宿が始まりました。
今年も1日目にメンタルコーチ、2日目に技術コーチを招き、本格的な指導が行われました。昨年に続き、技術コーチとして迎えたのは、『LoL』のコーチや解説者として活躍するリールベルトさん。今回の記事では、リールベルトさんによるコーチングが行われた2日目の模様をお伝えします。昨年の合宿を取材した記事では、3日間の内容を日ごとに紹介していますので、全体のスケジュールが気になる方はぜひそちらをご覧ください。
また、eスポーツ部では、他校との練習試合がオンラインで完結してしまうため、あまり交流を深める機会がないという課題もありました。そうした背景から、複数校のeスポーツ部が参加する合同合宿で、生徒同士がオフラインならではの深いコミュニケーションを経験することも、合宿の目的の1つになっています。
今年は、昨年参加した和歌山県立星林高等学校、飛龍高等学校(静岡県)、精華高等学校(大阪府)に、専修学校クラーク高等学院 札幌大通校(北海道)が新たに加わり、5校での合宿になりました。専修学校クラーク高等学院 札幌大通校は、北海道から飛行機に乗ってはるばる滋賀県まで来て参加しており、地域を超えた規模の大きさに驚かされます。
さらに、今年は8月中に別日程で、タクティカルFPSゲーム『VALORANT』での合宿も行われました。『LoL』の合宿とスケジュールや規模はほぼ同様で、八幡工業高校以外は『LoL』の合宿とは異なる高校が参加。技術コーチには、プロゲーミングチーム「SCARZ」のVALORANT部門でヘッドコーチを務めるnoppoさんを迎え、5校からおよそ40名の生徒が参加しました。
コロナ禍以降も、行事が縮小傾向にある学校が多いそうですが、そうしたなかでこの規模の合宿を同時期に2つも開催したことから、三浦先生の高い熱意が伺えます。
8チームが3部屋で活動、eスポーツならではのトラブルも
40名の生徒たちは、『LoL』の実力やロールなどを踏まえて8チームに振り分けられました。もちろん学校はシャッフルされており、初対面の生徒ともチームを組みます。8チームは、計40台のゲーミングPCがずらりと並んだ3つの部屋に分かれて活動します。
とはいえ、40台ものゲーミングPCを稼働させることを想定した学校はあまり多くないでしょう。2日目の朝には、ブレーカーが落ちてしまうトラブルが発生しました。しかし、さすが工業高校。こうしたトラブルにも先生が手早く対応し、あちこちから電源を引っ張ってきてすぐに解決します。
電源トラブルの原因は、借りた10台のゲーミングPCがハイスペックすぎたこと。合宿では、学校にあるPCだけでは台数が足りないため、昨年に続きASUSからゲーミングノートPCを無償で借りるサポートを受けています。ASUSの好意からよりハイスペックなものが貸し出されたわけですが、想定以上に電力を消費し、ブレーカーが落ちてしまいました。
もう1つ発生していたのは、ゲームへのログイントラブル。1つのネット回線で一斉に多くのアカウントで『LoL』にログインすると、ログインが停止されてしまう現象によるものです。八幡工業高校はネット回線を増やして2回線を設けているため、このトラブルには、それぞれの回線を使って時間の間隔を空けながらログインしていくことで対応していました。
電源やネット回線、PC、デバイス、ゲームクライアントなど、トラブルが起きうる要素が複数あるのは、eスポーツならではのハードルといえるでしょう。
トラブルへの対処が終わると、チーム同士を組み合わせた練習試合が始まり、白熱した雰囲気に包まれていきます。学校にいるのに、あちこちから大きな声でチャンピオン名やオブジェクト名が聞こえてくるという、なかなか経験することのない独特な空間になっていました。
活動において重要なことを示した「部活動心得」の掲示
生徒たちの練習試合が盛り上がるなか、部室を見渡してみると、壁に「部活動心得」が貼られていることに気づきました。eスポーツ部として活動するにあたって重要だと感じる内容が多く含まれていたので、下記に全文を紹介します。
・挨拶をする
・部活動に積極的に参加し、公式大会や各種イベントに参加し、勝利を目指す
・ゲームの時間は決めて行う
・学校生活を優先し、勉強を怠らない
・私生活を乱さない
・活動は部室で行い、部員とのコミュニケーションを楽しみながらゲームを楽しむ
・ネットマナーやルールを守り、他の生徒の模範となるネット活動にする。特にSNSでの発言や使用方法などに注意する
・ID/PASSの貸し借りを行わない
・パソコンの席での飲食は禁止、共有機器は大切に扱う
・許可なくソフトのインストールや、外部からのアクセス、私物のUSBを使用しない
・整理、整頓、清掃を行う
・夜中遅くまでゲームをしない
・Discordでの発言は11時までにする
・スマーフ、ブースティング、チート行為、コンバータなどゲームでの禁止行為、迷惑行為は禁止する
eスポーツ部の活動は、遊びと練習の境目があいまいになりがちですが、この部活動心得では、大会やイベントでの勝利を目指すことが明示されています。そして、学業との両立も欠かせません。先生たちの話によれば、まだeスポーツ部の立場が弱い学校が多いようですが、勉強とeスポーツ部の活動を両立する生徒の存在が、周囲から認めてもらうきっかけの1つになっているといいます。
また、ID/PASS(アカウント)の貸し借りやスマーフ、ブースティングなどといった行為は、知らなければ悪意がなくともルールを破ってしまう可能性があるものです。ネットリテラシーを含めて、守るべきルールを部活動の心得として周知するのは、とても大切なことだと感じました。
部活動心得の掲示は、他校のeスポーツ部での事例を参考にしたものだそうで、まだ前例が少ないeスポーツ部では、お互いの取り組みを参考にし合っていることがうかがえます。
「行き着くまで3〜4年かかった」練習方法の試行錯誤
2日目の午後からは、リールベルトさんによるコーチングがスタート。合宿では限られた時間でできるだけ成果を出すため、生徒たちには「提示された一覧のなかからチャンピオンを選んで練習しておく」という事前の課題が与えられていました。
提示されたチャンピオン一覧は、2種類。ゲーム序盤に強く、自ら戦闘を仕掛けて集団戦に持ち込むエンゲージを意識した“攻め手”と、ゲーム中盤以降に強く、相手の攻撃をいなしながらレイトゲームに持ち込む“受け手”を意図した構成です。生徒たちはこの2種類の一覧から、自分のロールでそれぞれ1体以上を選んで練習します。
この課題は、三浦先生やリールベルトさん、各校のeスポーツ部コーチが事前に打ち合わせを行い、指導したいポイントを踏まえて練られたもの。一定のセオリーをつくり、チームで考えをそろえて練習することで、自身やチームのプレイの何が良くなかったのかを振り返りやすくする狙いがあります。昨年は、集団戦の基礎を学ぶことがメインテーマだったため、今年は一歩進んだ内容になっている印象を受けました。
『LoL』には現在160体以上のチャンピオンが存在しており、非常に複雑なゲーム性を持ちます。一方、eスポーツ部では、入部をきっかけに『LoL』を始める生徒が大半。そうした状況で、どのようにチーム練習をしていくべきか、練習方法そのものが手探りで、三浦先生は「ここに行き着くまでに3〜4年かかった」と話します。
生徒たちは事前に練習してきたチャンピオンを使い、攻め手側と受け手側の両方を経験できるように、チームを入れ替えながら練習試合を実施。そして、リールベルトさんが練習試合の内容を踏まえ、Discordで画面共有をしながらフィードバックを行いました。
なお、リールベルトさん以外にも、各校のeスポーツ部コーチや近畿大学eスポーツサークルLoL部門の学生、eスポーツ部OB・OGなどが各チームのコーチにつき、随時サポートしていました。
まだまだ少ない女子生徒、チームは男女で分けるべき?
今回の合宿では試行錯誤の1つとして、8チームのうち1チームだけ女子チームがつくられていました。チーム分けの際、男女関係なくチームを組むか、女子だけのチームをつくるかを検討した結果、本人たちの希望を踏まえて女子チームを組むことになり、飛龍高等学校eスポーツ部OGの女子大学生コーチがつきました。
eスポーツでは、プロシーンでもeスポーツ部でも、女性が少ない現状があります。昨年の合宿では、そもそも女子チームをつくれるほど、女子生徒が参加していませんでした。そのため前例がなく、先生たちも男女を分けるべきか、判断に迷う部分だったようです。
女子チームの生徒とコーチに話を聞いてみると、女子だけのチームのほうが練習しやすいかどうかは「人による」という答えがほとんどでした。男女関係なくチームを組むと、人数比から女子が1人になる確率が高くなります。そうなると、コミュニケーションが取りづらくなると感じる女子生徒もいれば、むしろまわりが男子のほうがストレートに意見が言いやすくていいと話す女子生徒もいました。
今回、女子チームには『LoL』の経験が浅い初心者が多く、練習試合では負けが続いてしまいます。モチベーションに影響しないだろうかと、先生が後ろから心配そうに見守っていました。
もともと、人数が少ない女子を集めてチームにすると、実力に偏りが出やすくなるだけでなく、本人が希望するロールでプレイできない可能性が高まります。今回の合宿を見ていた限りでは、性別に関係なくプレイできるゲームの特長を活かして、男女を分けずにチームを組んだほうが、より良い練習につながりそうだと感じました。
ただ、こうした試行錯誤がありながらも、女子チームが組めるほどに人数が増えただけでも喜ばしいことです。今後さらに、eスポーツ部に女子生徒が増えていくことを期待しています。
生徒たちが目標に掲げるのは、高校生eスポーツ大会での勝利
練習試合の合間には、手が空いている先生や生徒に声をかけて話を聞いていましたが、間近でゲーム中の生徒たちの熱気ある声が飛び交い、ときにはこちらの会話している声がかき消されてしまうほどの盛り上がりを見せていました。
この盛り上がりは昨年以上だそうで、普段の生徒を知る先生たちは「こんなにしゃべるんだ」と驚いた様子。昨年から続けて参加している生徒も多いため、合宿ならではの一体感がより生まれやすくなったのかもしれません。特に専修学校クラーク高等学院 札幌大通校の生徒のなかには、過去に不登校を経験した生徒も複数いるそうですが、盛り上がりのなかにすっかり溶け込んでいました。
生徒たちに合宿の魅力を聞いてみると、たくさんの初対面の人と交流できることと、コーチのフィードバックを受けながら内容の濃い練習ができること、この2つが主に挙がりました。これは三浦先生が考える合宿の目的と一致していて、狙いがずれていないことがわかります。
今回の合宿参加校のうち、専修学校クラーク高等学院 札幌大通校はeスポーツコースを持つ高等専修学校ですが、それ以外の4校はすべて全日制高校です。そのため、話を聞いた生徒のほとんどが、eスポーツ部で活動するうえでの目標は「高校生大会」で良い成績を残すことだと話していました。
「STAGE:0」などの高校生大会を観ていると、通信制高校の活躍が目覚ましく、そのなかにはプロ選手を目指す生徒もいます。しかしながら、全日制高校のeスポーツ部では、プロを目指すよりも、あくまで部活動として高校生大会での勝利を目指して活動している生徒が大多数です。
こうした違いがあるなか、これまでeスポーツ部はひと括りにされがちで、全日制高校eスポーツ部は大会でのモチベーションを保ちにくい状況がありました。ですが、「NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権」では今年から、全日制高校と通信制高校を分けるブロック制(高等専修学校は通信制高校ブロックに含まれる)が導入され、現状に即した内容に改善されたといえます。
なお、生徒たちにプロシーンの話題を振ってみると、普段から国内外の公式大会を観戦している生徒が多いようでした。好きなチームや選手を聞くと、圧倒的に人気だったのは韓国チームの「T1」。それに続いて、国内の有名選手であるEvi選手やYutapon選手の名前が挙がりました。
女子チームには、初心者とは思えないほど積極的にコールしている生徒がいたので、どうやって学んだのか尋ねると、ストリーマーのk4senさんが開催する「The k4sen」を見て勉強したとのことでした。『LoL』での「The k4sen」は何度も開催されていますが、なかでも初心者のみを集めた回があります。eスポーツ部をきっかけに『LoL』を始めた生徒にとって、参考になる内容であることは間違いないでしょう。
「eスポーツ部の合宿が広まってほしい」という先生の思い
18時ごろには、リールベルトさんのコーチングが終了。夕食や入浴の時間のあとは、就寝まで自由にプレイできる時間になっていました。この時間には、ここまでの真面目な練習試合とは毛色を変え、学校対抗戦やコーチ陣との対戦などを楽しんだようです。
もともとバスケ部の顧問だった三浦先生は、卒業生たちから「合宿が忘れられない思い出」という声を聞くことがとても多く、eスポーツ部でも合宿をやろうと思い立ったといいます。仲間と寝食をともにする経験は、やはり特別なもの。このeスポーツ部の合宿も、全力で楽しんでいる生徒たちの姿を見ると、きっと彼ら彼女らにとって忘れられない思い出になるだろうと感じました。
ただ、eスポーツ部での合宿というのは、まだかなり珍しい取り組みです。三浦先生は、「フィジカルスポーツの部活動では、合宿があるのは普通のこと。校内合宿でもいいし、近くの高校が1〜2校集まるだけでもいい。ここまでの規模ではなくとも、できる範囲でeスポーツ部の合宿がもっと広まってほしい」と話します。
まだまだ手探りが続いているであろう全国のeスポーツ部で、この取り組みが活動のヒントになることを願っています。eスポーツ部を選んだ生徒たちが、高校時代の忘れられない思い出をつくることができますように。

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