ダホメ王国のアマゾネス部隊「アゴジ」とは? 実在した女戦士たちの過酷な訓練と驚愕の戦闘能力

2022年10月23日(日)17時0分 tocana

 2022年9月に映画『THE WOMAN KING』が公開された。本作はアフリカに実在した女性のみで構成された軍隊についての映画である。女戦士という点では、映画『ブラックパンサー』(2018)の世界的ヒットを思い出す人もあるだろう。


 2022年7月には、続編『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の公開が発表されたが、何を隠そう、この作品に登場する女部隊ドーラ・ミラージュこそ『THE WOMAN KING』にて描かれる実在のアマゾネス「アゴジ:Agojie」である。17世紀から20世紀の幕開けに実在した西アフリカの専制軍事国家ダホメに仕えたアゴジとは何者だったのか。


ダホメ王国

 まず「ダホメ王国」について語らなくてはならない。ダホメは現在のアフリカでいえば、ナイジェリアとトーゴに挟まれたベナンに位置する王国だった。17世紀に創建され19世紀のセネガルからのフランス侵入により滅亡した王国である。奴隷貿易を行う専制君主による軍事国家として周辺国からは恐れられた国だった。そのダホメの女戦士部隊こそ「アゴジ」である。


アマゾネス部隊アゴジの始まり

 アゴジ最古の記録は1729年に遡るが、さらに遡って国王が招集した女性だけのゾウ狩り部隊が起源だという説がある。または18世紀初頭、先王の戦死により王妹ハンベが一時的に摂政として王国を統治した際に女戦士部隊を組織し宮廷警護を任せたという口伝も確認されている。アゴジの起源は歴史の闇の中であるが、いずれにせよ、第9代ゲゾ国王(在位1818-1858)の統治下でアゴジは数千人規模の大部隊となったといわれる。


 ゲゾ王は、奴隷貿易のみならずアブラヤシの大量生産し、パームオイルの原料として欧米諸国に輸出し隆盛を極めた。欧米では奴隷貿易への反対が始まり、また欧米列強国によるアフリカの植民地化が日毎に進む時代に、アゴジはダホメ軍の正式部隊となった。背景には、貿易のための奴隷狩りによる度重なる戦争のため男性人口の減少があり、女性の社会進出の拡大があった。


ダホメ常備軍ア当時のゴジの日常

 そもそも当時、多くのアフリカ国家に常備軍はなかったといわれる。戦争が終われば軍隊を解散することは通常だった。それゆえダホメ常備軍の存在は、歴史的にも周辺諸国にとっても異常なものとして映る。ダホメ常備軍が男女問わず制服を着用していたことも、その特異性の証左とされている。



  ダホメ王国を描く、クラウス・キンスキー監督「Cobra Verde」1987年



 まずアゴジになる方法は志願兵と徴兵があった。奴隷からの応募も可能であり、8才や10才の少女さえ志願し徴兵されたといわれる。アゴジであることは、王国において最も勇猛果敢な者だけが、その一員とみなされる名誉ある地位だった。事実、彼女らは、王の妻(アホシ)と見なされた。それゆえ彼女らは王の正妻や側室と共に王宮で寝起きした。いわば王の第三妻階級ともいうべき彼女らの住居には、日没後、国王と宦官を除いては誰も入ることができなかった。アゴジは王の妻であるがゆえに恋もセックスも禁じられた独身制の中に生きたと言われる。アゴジの戦士たちは、まさしく特権的立場にあるがゆえに食糧のみならず、酒やタバコなどの嗜好品も入手でき、かつ使用人や奴隷を使うことができた。


アゴジ新兵の訓練

 アゴジになるためには流血と痛みに耐える訓練が必須である。1889年の記録によれば、ある少女が「死刑判決を受けた囚人に剣で振りかかり首を落とし」、最初の殺しの訓練を終えたとある。さらに「剣から血を拭い、それを飲んだ」とも。また、あらゆる痛みに耐えて前進するために新兵はアカシアの刺で覆われた壁を乗り越えて攻撃する模擬訓練が課された。痛みに耐えた勇敢な者には褒美として刺のベルトが贈られたとまでいわれる。


アゴジ部隊の構成

 アマゾネス部隊は5部隊によって構成された。砲兵、象の狩人、銃士、剣士、射手である。とくに奇襲攻撃を得意としており、夜明け前に敵の村に忍び寄り、捕虜を確保し、抵抗する者を容赦なく斬首した。アゴジの戦闘能力は一貫して男性兵士よりも優秀だったと伝えられている。


ダホメ王国アゴジの最期

 実在した最恐アマゾネス部隊アゴジも当時の最新鋭兵器を持つフランスには勝てなかった。二度の戦争の後、1892 年、フランスはダオメ王国を征服。生き残ったアゴジは約 50人だったといわれる。しかし誇り高き最強のアゴジの姿は対峙したフランス人たちに女性の獰猛さ、身体能力、大胆不敵さを誇示するには十分だった。多くの兵士が、自らのジェンダーバイアスを知ることになったという。同時に、歴史的にみれば、アゴジもまた奴隷制に加担した加害者であったことも明らかである。生き残ったアゴジのその後はさまざまだった。ある者はダホメの舞踏や戦闘を再現することで、昨日の敵を喜ばせる側にもなった。


 1893年、シカゴで開催されたコロンビア万国博覧会には「ダホメ村」が設置され、敵の生首を持つアゴジと白人入植者の絵が展示された。ダホメ王国アゴジは、文明社会が野蛮人を教育した証として消費されてしまったが、植民地主義に抵抗した勇敢な女たちの記憶は、現代にもスーパーヒーローのキャラクター等に影響を与えて継承されている。なお、映画『THE WOMAN KING』の日本公開は未定。国連ユネスコ公式ページにはダホメ王国の女性たちについての漫画が公開されている(英文PDF)


参考:「UNESCO」「Smithsonian」など


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