山崎敦子さんが選ぶ「サンゴ×海と食とSDGsに触れる本5冊」

2022年9月18日(日)11時0分 ソトコト







サンゴは、海水中のカルシウムイオンなどを取り込んで石灰質の骨格をつくり、その骨格に木の年輪のような層を刻みながら成長します。1年で約1センチメートル成長するサンゴの年輪を約50分割して分析すると、週単位レベルでの日射量や雨量・塩分など、さまざまなことが分かります。例えば水温は、プラス・マイナス0・5度の誤差で明らかにできるくらい精密に、海洋環境を記録している生物なのです。
書籍『A Reef in Time』は、地球史の中における生物の大量絶滅、サンゴとサンゴ礁の繁栄・衰退が1本のタイムライン上に示されているなど、見せ方がユニークなだけでなく、分かりやすい一冊です。私もこの本からヒントを得て、取り組んでいる研究テーマの一つに「サンゴ礁の形成速度」があります。
サンゴ礁とは、造礁サンゴと呼ばれる、サンゴの中でも成長が早く、ある程度の以上の大きさに成長するものが積み重なり、海面近くまでの高さになった地形のことをいいます。このサンゴ礁が、地球環境の変化にどう応答するのかを、解明したいと考えています。
サンゴ礁は、ダイバーにとっては、海中でよく目にする存在です。オーストラリアのグレートバリアリーフに代表されるように、魚たちの美しい棲処として知られていますが、海に潜ってもサンゴ礁が見られなかった時代もあると、この本では記されています。海に潜ればサンゴ礁が見られる今の状況はサンゴ礁の繁栄の時期と重なっているというだけのことなのです。
またサンゴ礁は、日本では沖縄県や鹿児島県などの沿岸部に暮らす漁師さんたちにとって、なくてはならない存在です。漁師さんとサンゴ礁の関係について詳しく書かれているのが、『沖縄・素潜り漁師の社会誌』です。文化人類学者の高橋そよさんが、沖縄県・伊良部島の漁師さんの生活に入り込んだ20年間の記録で、サンゴ礁を利用した漁の実情と、その背景にある民俗・社会の変化などがていねいに書かれています。
私自身、島の大半がサンゴ礁でできている鹿児島県・喜界島に研究拠点『喜界島サンゴ礁科学研究所』を得たことで、サンゴ礁の地形の中で魚を呼び込めるようなポイントと網を利用して、島の人たちが70キロ近くあるイソマグロを獲る現場を目にしました。私たちの食卓に魚が並ぶためには、漁師さんの”相棒“としてサンゴ礁の存在が重要だということがよく分かる一冊です。


『喜界島サンゴ礁科学研究所』所長/九州大学大学院理学研究院助教・山崎敦子さんの選書



photographs by Yuichi Maruya text by Maho Ise
記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

ソトコト

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