歴史的建造物の歴史を継承し、人々を繋ぎ、場の新たな価値を創出する―「コミュニティ・ディベロップメント」に取組む東邦レオ

2022年11月14日(月)17時0分 ソトコト

◆神社の鳥居の向こう側のような、喧騒から切り離された空間で


ソトコト kudan houseにおうかがいして、まず正門を抜けた先の建物のたたずまいに驚かされました。東京・九段下という都心にこういった場所があるのかと。
髙山尋未さん(以下、髙山) kudan houseをご利用されるお客様からも、よくおっしゃっていただきます。「時間の流れ方が違うように感じる」といったお声をいただくこともありますね。





ソトコト 「時間の流れ方が違う」、よくわかります。神社の鳥居をくぐった先のような、一種の異世界のような雰囲気がありますよね。NI-WAさんはここを会員制の“イノベーション拠点”として運営されているとうかがっています。
髙山 はい。2018年より、オフィスではできないコミュニケーションをはかれる共創の場として、国の登録有形文化財「旧山口萬吉邸」をリノベーションした会員制ビジネスサロンとして運営しています。


山口萬吉(やまぐち まんきち)…古くから刈羽郡小国(現在の新潟県長岡市小国町)で豪農・庄屋として地域を取り仕切っていた山口家の分家として、江戸末期に山万商店を立ち上げた財界人。





髙山 ホテルやギャラリーとはまた違った、邸宅ならではのアットホームなコミュニケーションでおもてなしをするという気持ちで使っていただきたくて、旧山口邸の表札をそのまま残してあったり、館内では靴を脱いでいただいたりと、懐かしさを感じてもらいつつ、新しいことを体験できる場を提供するようにしています。とてもうれしいことに、多くのお客様に賛同・共感していただいています。





◆ビジネスエコシステムを生み出すコミュニティ・ディベロップメント


ソトコト 会員制オフィス、イノベーション拠点として、kudan houseにはどういう方が集まり、何をされているのでしょうか。
髙山 法人会員企業にオフサイトミーティングや研修会、新商品発表会などの会場としてご利用いただいています。またメイン事業としてはビジネスサロン(研修事業)を開催しています。3か月の期間内に1週間に1回、法人会員企業から選抜された少人数のビジネスリーダーの方々を対象に、各界で活躍されている経営者やアーティスト、活動家などさまざまな方をお招きして、対話を通じて業界の垣根を超え共感や共創を促し、ビジネスエコシステムとして構築していく仕組みです。
ソトコト 確かに素晴らしい取り組みだと思うのですが、なぜ“ここ”でそれをやられているのでしょうか。
髙山 ビジネスエコシステムの構築によりコラボレーションを生み出す場として、フラットにコミュニケーションできること、その人がその人らしく過ごせる場づくりをしていくことがコミュニティを育てるポイントだと考えているからです。
東急・竹中工務店・東邦レオが共同事業主となり20年間という期限付きでオーナーからお借りして運営しているなかで、より良いかたちでお返ししたいと思っています。“より良い”というのはただ敷地や建物を保全するのではなく、たとえばここで生まれた人の交流が何かを生み出したり、九段下という街の持つイメージが向上したり、といった効果を含めたものです。





ソトコト kudan house以外でも、こういった取り組みをされているのでしょうか。
髙山 他地域の事例としては福岡県宗像市での取り組みが挙げられます。ここでは団地の1棟を使って生活利便施設「ひのさと48」を運営しています。ひのさと48ではクラフトビールを醸造したりカフェを開いたり、工房やシェアキッチンを設置して、コミュニケーションの場を設けています。日の里団地は1970年代にできた団地なのですが、建築から約50年が経過し、住民の減少や建物の老朽化にあわせて10棟を閉鎖、民間に譲渡して住宅地として分譲することになったんです。その際に“団地再生プロジェクト”として1棟をひのさと48として改修し、団地の住民と、新しくやってくる人たちの交流の場となるよう展開を続けています。
ソトコト 団地を解体した跡地に施設を作るのではなく、団地を1棟残して、そこをさまざまなコミュニティを育てる場として使っているのですね。
髙山 ここkudan houseもそうですが、私たちは土地や建物だけでなく、そこに集う人たちの生き方で未来の風景を作るのが目標であり、私たちが去ったあともその場所が愛され、誇りに思ってもらえるように、変えるものは変え、残すものは残すようにしています。





ソトコト 次に、ここkudan houseのほかの活用事例などを挙げていただけますか。
髙山 “金継ぎ”という、陶器や磁器の割れや欠け、ひびなどを活かし新しい美しさを見出す伝統技法をご存じでしょうか。古くは縄文時代から行なわれていたもので、室町時代以降は茶道精神の影響もあって芸術に昇華したものなのですが、これを体験するサロンを先日開催しました。割れてしまった器を捨てずに新たな美しさと命を吹き込むことは、現代においてはアップサイクルにも通じるサスティナブルな取り組みです。また、この金継ぎは伝統技術や文化の後継者問題を抱えている側面もあり、その解決の一助になればという想いもありました。金継ぎの心を感じる体験を通じて、物事や組織に完璧や正解なんて何もないということを教わったような気がします。
ソトコト それを会員企業の社員の方などがいわばサロンとして受講されたわけですね。なかなかないマス(企業)とニッチ(伝統技法)の融合だと感じます。
髙山 kudan houseに集まってくださる方には、年齢や肩書などは関係なくフラットに参加していただける場を設けられたらと思っています。会員企業にはさまざまな異業種の方々がいらっしゃいますが、普段あまり横断するようなつながりが少なかったり、それぞれに課題を抱えていたりします。 kudan houseはその昔、さまざまな方が集い、時に交流や情報発信の場であったと聞いています。もし今、この邸宅を建てられた5代目山口萬吉氏だったらここをどう活用しただろうか、その思いをしっかりと受け継ぎ、現代において再編集し展開することが役割だと思っています。





◆緑は増やして愛でるだけでなく、積極的に活用する時代へ。緑化を通じて見えた新しい意識


髙山 東邦レオは40年以上にわたり都市緑化に携わってきましたが、緑そのものに価値があるのではなく、その空間が利用されて初めて価値が生まれると考えています。国の政策においても以前と比べて「緑のあり方」とでもいうべき意識が変わってきていると感じます。これまではとにかく緑の量を増やすことが目的になっていたように思えます。
ソトコト 質より量の考え方だったと。
髙山 そうですね。たとえば、いま世界中で脱炭素が叫ばれています。その取り組みの一環として“緑を増やす”ことが掲げられることがよくありますが、目の前の樹木がどれくらいCO2を減らしてくれるのかが数値でわかれば、取り組みがより具体性を持ったものになります。
ソトコト いわゆる「見える化」ですね。
髙山 「見える化」したことを何に活用するかが大事だと思っています。たとえば、ある自治体とはみどりを含めた地域の自然環境とその価値の見える化を活用した教育プログラムをつくる取り組みも始まっています。緑は目的ではなく様々な課題解決に対するきっかけの一つと捉え、これからもテーマを定めて、コミュニティ・ディベロップメントに携わっていければと思います。
ソトコト 本日は、ありがとうございました。





kudan house https://kudan.house/
東邦レオ株式会社 https://www.toho-leo.co.jp/
■ソトコト×GOMITAIJI
SDGs の目標12「つくる責任 つかう責任」のターゲットである「廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。」への啓蒙活動として、企業のアップサイクルや、GOMITAIJIの取り組みを紹介するコンテンツを「ソトコト×GOMITAIJI」としてソトコトオンラインにて掲載していきます。
一般社団法人GOMITAIJI:https://www.gomitaiji.or.jp/


◆kudan house写真館



















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