にしおかすみこ50歳、SMの女王様はポンコツだけどもうムチを打たない!

2024年11月22日(金)17時15分 大手小町(読売新聞)

「にしおか〜、すみこだよっ」。ムチを手にした「SM女王様キャラ」でブレークしたタレントのにしおかすみこさんが、家族の現状をリアルにつづったエッセーのシリーズ2冊目となる「ポンコツ一家2年目」(講談社)を出版しました。2007年に「エンタの神様」などのお笑い番組で注目を集めてから17年が過ぎ、今年50歳になったにしおかさんに自身のキャリアや認知症の母親との暮らしについて聞きました。

母…81歳、認知症と糖尿病。元看護師。姉…48歳、ダウン症。平日は作業所に通う。父…82歳、酔っ払い。耳が遠い。元サラリーマン。家ではパパクソ or パクソ呼ばわり。私…47歳、元SM女王様キャラの一発屋の女芸人。独身。行き遅れ。

——2021年秋から雑誌で連載しているエッセーをまとめた「ポンコツ一家」は、このような家族の紹介から始まります(年齢は執筆当時)。コロナ禍の2020年6月、実家に帰ったときに違和感を覚えたそうですね。

「元SM女王様キャラの一発屋の女芸人」と自身をつづる、にしおかすみこさん

ちょっと、立ち寄っただけだったんです。そうしたら、ちょっとしたごみ屋敷みたいになっていて、散らかった部屋の中でぽつんと座っている母の姿がありました。文句を言いながら、私が掃除をしようとすると、母が激高しました。「頭をかち割って死んでやる」って。

母のそんな姿を、これまでに見たことがありませんでした。ネガティブな言葉を口にすることなどなかったし、まして「死んでやる」なんて。

しかも、そんな言葉を吐き捨てて、姉と2階に上がって行ってしまうんです。まさか、と思いながらも、心配になって様子を見に行くと横になって寝ていました。それから、時間を空けると、また母が怒り出すので、「さっき言ったじゃん」と怒鳴り合いになります。

冷静ではいられませんでしたが、それを何回も何回も繰り返すうちに感じたんです。「母の中で何かが起きている」と。

——それから、一人暮らしをしていた都内の部屋を引き払って、両親と姉が暮らす千葉の実家で暮らすことに。

コロナ禍でリポーターなどの仕事が激減し、貯金も底を突いて、家賃が払えないという状態でした。もうどうしようもなくなって、ちょうど引っ越しを考えていたときに、実家がそんな状態だったと分かって。「自分がいたほうがいいでしょう」くらいの気持ちでした。

それまで、認知症の人と接する機会がなく、まったくと言っていいほど予備知識はありませんでした。腹をくくっていたわけでもなく、一緒に住んでいれば、否応(いやおう)なく、新しい理不尽や不満が勝手に押し寄せてきます。

最初は戸惑いや不安ばかりで、気が休まることがありませんでした。でも、1年、2年と一緒に過ごすうちに、家族全員が年老いていき、母、姉、父の抑えてほしい個性ばかりが強くなり、私はだんだんふてぶてしくなります。日々、だれかが何かをしでかすんですが、「これは一度経験したことだから、放っておいても大丈夫」と受け流すこともできるようになりました。

——2007年にSMの女王様キャラでブレークし、その後もリポーターなどタレントとして芸能活動を続けています。

SMの女王様をやる前から、いろいろなキャラをやっていたんです。その頃、テレビに毎日出ているレイザーラモンHGさんを見て、その女性版だったらいけるんじゃないかと思って、原宿のコスプレ屋さんでボンデージの衣装をすぐに買いました。

「エンタの神様」に出演した当時は、自分の能力以上の仕事をいただいて、毎日忙しく過ごしていました。でも、仕事は失敗ばかりで、そのたびに落ち込んで、気持ちがいっぱいいっぱいでした。

——子どもの頃から人気者になりたかったということですが、当時はおニャン子クラブなどの女性アイドルもテレビをにぎわせていた時期かと思います。

幼い頃から、母に言われていたんです。「あなたは不細工ではないけれど、特別美人じゃないよ。お父さんとお母さんの子なんだから、大きくなって、やたらとちやほやされたら、なにか裏があると思いなさい」って。ああ、あたしって普通なんだなって、早いうちから自分をそう認識していました。

たまたま受かったオーディションがお笑いでした。だから、お笑いのことも、ちゃんと分かっていませんでした。女王様キャラで売れても、どこかで一発屋だと気づきます。生き残りたいので焦ります。ネタ番組以外はなるべく早くボンデージを脱いで、しゃべり方を戻して、カジュアルな格好にしたいと思いました。

でも、トーク番組やロケでも「SMの女王様」を求められます。それはそうです。これで世に出ましたから。私自身も「もう、やりません」とは言いづらいです。「じゃあ、ほかに何ができるの?」と自問自答し、何もできない自分に打ちのめされます。だから、気づかれないようにムチを小さくしていって、出さなくていいときは出さないようにしたんです。ボンデージの黒い生地を少しずつ増やして、肌の露出をなくしていくとか、そんなことをやっていました。

——にしおかさんと同世代は、高齢の親の生活や健康に不安を抱えている人が少なくありません。

私も戸惑ったり、悩んだりしながら、なんとかやっています。私自身の人生に迷いもあります。でも、自分が元気じゃなければ、うちの家族も幸せにはできません。だから、自分のやりたいこと、好きなことを最優先にします。自分ファースト。そこだけは譲らないようにしています。

どうにもしんどくなって、家族をおいて、1泊2日の“家出”をしたこともありました。しんどさが積もり積もって、家族に向き合えなくなるほど疲弊してしまうのは避けたい。「私、元気かな」「つらくなってないかな」って自分チェックを心がけてやっています。一人暮らしの時よりも意識して、自分の心の状態をウォッチするようにしています。

意味もなく、都内に出かけて豪華なランチをしたり、友達に愚痴をいっぱい聞いてもらったりします。愚痴ったことに、笑って聞いてもらえることで救われた気分になります。しんどいことでも、笑ってもらえると、大したことじゃないように気持ちが軽くなるんです。

(聞き手:読売新聞メディア局 鈴木幸大)

大手小町(読売新聞)

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