強烈な悪臭を放つことで生きのびてきた南米の鳥「ツメバケイ」とは?
2025年5月15日(木)17時1分 カラパイア
Photo by:iStock ツメバケイ
生き物が捕食者から身を守る方法はさまざまだ。トゲや針で武装したり、毒を身にまとったり、あるいは悪臭で敵を撃退したり。
南米に生息している「ツメバケイ」という鳥は、耐えがたいほどの悪臭を放つことで知られている。
始祖鳥の生き残りとも言われたこの鳥は、そのユニークな特徴や習性から、世に存在する他の鳥たちとは進化の道筋のどこかで一線を画してしまっているようなのだ。
食べたものを発酵させて悪臭を放つツメバケイ
今回紹介する「ツメバケイ」(学名:Opisthocomus hoazin)」は、南アメリカ大陸のアマゾン川・オリノコ川の流域に生息する鳥で、ガイアナの国鳥に指定されている。
身体の大きさは60〜65cmほど。赤い瞳とその周囲の青い皮膚、黄褐色の冠羽が特徴的で、翼を広げると赤褐色の風切羽が目を引く。だがこの鳥を決定づけている特徴は、何よりもそのニオイなのだ。
AISSE GAERTNER[https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cigana_(Opisthocomus_hoazin).jpg], CC BY-SA 4.0[https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0], via Wikimedia Commons
どんな悪臭を放つの?
いったいどんなニオイなのかというと、いろんな人が言及しているのが「堆肥の山」「腐った植物」「牛小屋」「ホヤホヤの馬糞」、酸っぱいアンモニア臭を含んだ湿ったニオイと表現される、かなり独特で強烈なニオイだという。
このニオイのおかげで「毒を持っている?」「腐ってる?」と勘違いされ、捕食者が食べるのをためらってくれる、一種の防御機能として機能しているんだそうだ。
悪臭を放って敵を撃退する生き物というと、まずスカンクを思い浮かべると思う。スカンクの場合は肛門のそばにある肛門傍洞腺という器官から、臭いニオイのする分泌液を出すわけだが、ツメバケイの場合はニオイの原因はかなり違う。
Murray Foubister[https://commons.wikimedia.org/wiki/File:4_day_trip_to_La_Selva_Lodge_on_the_Napo_River_in_the_Amazon_jungle_of_E._Ecuador_-_Hoatzin_(Opisthocomus_hoazin)_-_(26592958760).jpg], CC BY-SA 2.0[https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0], via Wikimedia Commons
もともとこの鳥は、葉っぱ類を常食としているため、一時的に食べ物を蓄える素嚢(そのう)が非常に発達していて、内臓全体の3分の1を占めるのだそうだ。
そして素嚢に溜めた食べ物を、微生物の助けを借りることで発酵させ、消化しているわけなんだが、この発酵の際にひどい悪臭が生じるのだ。
しかもこの鳥、食べたものを消化するのに40時間もかかるのだそう。そのため、食事の後は動かずに身体を休める必要があるんだとか。
それもあって動くのが苦手。飛ぶのはもっと苦手。「臭いから襲われない→飛ばないでも生き延びられる」なのか、「飛ぶのが苦手→ニオイという撃退手段をゲット」なのかは、その進化の過程は定かではない。
Photo by:iStock
ヒナは翼に大きな爪を持つ
ツメバケイは川面に張り出した木の枝の上に巣を作り、一度に2〜3個の卵を産む。ヒナは親が半分消化した餌をもらって育つのだが、その際に微生物もいっしょに取り込むらしい。
つまりヒナの間はまだ素嚢に微生物がいないため、食べたものを発酵させる機能が不十分で、悪臭で敵を撃退するスキルを使うことができない。
そのため捕食者に襲われた際は、川に飛び込んで敵をやり過ごし、安全になってから巣に戻るのだとか。
その際に木の幹をよじ登るために、ヒナには左右の翼に爪がついていて、それがツメバケイ(爪羽鶏)という名前の由来になっているんだそうだ。
爪は生後2〜3週間でなくなってしまうが、成鳥になってからも彼らは羽を使って飛び回ることはせず、樹上を歩き回って過ごすのだ。
他の鳥類との関連が不明の「孤立した鳥」
いったいどのような進化の道筋をたどれば、このような鳥が生まれるのだろうか。
2015年にNature誌に掲載された研究[https://www.nature.com/articles/nature15697.epdf]によると、ツメバケイは6,400万年前の恐竜絶滅イベントの直後に、進化の系統樹から分岐した鳥類の最後の生き残りである可能性が示唆された。
だが別の研究ではそこまで古くはないともされ、2024年に行われた360種以上の鳥類のゲノム解析では、ツメバケイが系統樹のどこに属するかが明確にされなかった。
コロンビアで化石として発見された中新世のHoazinoidesという鳥類が、ツメバケイと関連があるのではないかと言われているが、確かなことはわかっていない。
そのため今のところは「孤児(orphan)」と呼ばれるカテゴリーに分類され、鳥類の進化史における特異な存在であると考えられている。
ヒナの間だけとはいえ、翼に爪があることから「始祖鳥の生き残り」だと考えられていた時代もあり、いまだに謎に包まれた鳥なのである。
ちなみにこの鳥、現地では食用にされることもあるらしい。肉自体は七面鳥のようで美味だというが、ニオイのほうは大丈夫なのだろうか。
References: Hoatzin: The strange 'stinkbird' born with clawed wings that appears to be an evolutionary 'orphan'[https://www.livescience.com/animals/birds/hoatzin-the-strange-stinkbird-born-with-clawed-wings-that-appears-to-be-an-evolutionary-orphan]