【美しい空は科学的な謎に満ちている】「空が高く見える」とは何か? なぜそのように見えるのか?

2024年2月3日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

【美しい空は科学的な謎に満ちている】「空が高く見える」とは何か? なぜそのように見えるのか?

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空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「あらゆる人におすすめしたい。壮大なスケールで「知的好奇心」を満たしてくれる素敵な本だ」、鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されている。今回は、気象予報士の佐々木恭子氏の原稿を特別に掲載します。

秋の空で見つけた羽根のように軽やかな「羽根雲(巻雲)」(写真:佐々木恭子)

秋の空は、実際に最も高いのか?

 秋は「空が高く見える」とよくいわれますが、一体なぜそのように見えるのでしょうか。実際に季節によって空の高さが変わっているのでしょうか。

 雲が発生し、発達する空である「対流圏」の高さは、空気が温まると膨張して高くなり、逆に冷えると収縮して低くなるという特徴があります。そのため、緯度や季節によって対流圏の高さは異なります。

 中緯度帯に位置する日本付近では、夏の対流圏が最も高く16km前後まで上がります。一方で、冬は10kmよりも低くなることがあります。このように、対流圏の高さの違いでは秋の空が最も高いとはいえません。

ポイントは空の見通しの良さと現れる雲の違い

 空が高く見える理由の1つは、「見通しの良さ」にあります。

 夏の日本付近では、太平洋高気圧の影響で特に高度の低い大気中に多くの水蒸気が含まれています。水蒸気の多い大気は、太陽光の散乱の影響で白っぽくかすみ、見通しが少し悪くなるのです。

 秋になると、日本付近の上空では「偏西風」という地球1周をぐるりと回る西風が強まってきます。その風に伴って、乾燥した空気を持つ高気圧が大陸から移動してくると(移動性高気圧)、大気中の水蒸気が減ります。空気が乾燥した分、太陽光の散乱も減って遠くまで見渡せるようになるため、空も高く見えるのです。

 春も、秋と同じくらいの対流圏の高さで、時々移動性高気圧に覆われますが、「空が高い」とはいわれません。春は黄砂や花粉が飛びやすく、秋のように見通しの良い空にはならないためです。

 しかし、大気中の水蒸気量は秋よりも冬のほうが少なく、空気は乾燥しています。それならば、見通しが最も良いのは冬であるはずです。それでも、「秋の空が高く見える」といわれる一番の理由は、実は雲にあります。雲は、現れる高度や姿によって大きく10種類に分けられます(十種雲形)。

十種雲形。雲は、現れる空の高さや姿によって大きく10種類に分けられる。『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(荒木健太郎/ダイヤモンド社)P79より

 夏は低い空が湿っているため、地表面に近い空にできる「綿雲(積雲)」などがよく見られますが、秋になって低い空が乾燥してくると、これらの雲は現れにくくなります。そして、入れ代わるように「鰯雲(巻積雲)」や「羊雲(高積雲)」など秋の風物詩としても有名な雲が、高い空に現れるようになります。つまり、秋になると低い空の雲が現れにくく、高い空の雲がよく見られるようになるため、空が一層高く感じられるのです。 

秋の空の代表的な雲「鰯雲(巻積雲)」は高い空に現れる(写真:佐々木恭子)

「西から天気が下り坂」で感じる秋の空

 秋や春は、偏西風に乗って低気圧と高気圧が交互に日本付近を通過するため、天気は2〜3日の周期で変化します。その過程で、十種雲形の様々な雲にも出会えます。

 例えば、低気圧が近づき「西から天気が下り坂」といわれるようなときは、まず高い空から湿ってきます。すると、薄雲(巻層雲)や鰯雲などの高い空の雲が現れはじめ、秋の空の高さを感じられます。その後、低気圧の接近とともに、羊雲や朧雲(高層雲)などに変化して次第に雲が厚くなり、やがて雨が降り出します。低気圧が過ぎ去り、高気圧に覆われてくれば青空が広がって、次の低気圧の接近とともに再び秋らしい空が巡ってくるのです。

 季節ごとの天気の変わりやすさや、空の高さの見た目の違いにも注目してみてください。

(本原稿は、荒木健太郎著『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容と関連した、ダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)

佐々木恭子(ささき・きょうこ)
気象予報士。防災士。合同会社『てんコロ.』代表
早稲田大学第一文学部卒業後、テレビ番組制作会社入社。バラエティー番組のディレクターを経て、2007年に気象予報士の資格を取得し、民間気象会社で自治体防災向けや高速道路・国道向け、企業向けの予報などを担当。現在は予報業務に加えて、気象予報士資格取得スクールなどを主催・講師を務める。監修に『奇跡の瞬間!空の絶景100選』(宝島社)など。編集協力に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、荒木健太郎著/KADOKAWA)、『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(荒木健太郎著/ダイヤモンド社)などがある。
X(Twitter):@tencorocoro
YouTube:@tencorochannel

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