ハクチョウがシベリアを目指す「北帰行」 道に迷わない渡り鳥たちの凄さ
2023年2月19日(日)9時12分 ウェザーニュース
2023/02/19 05:00 ウェザーニュース
「北帰行」という言葉を見聞きしたことがあるでしょうか。
辞書にはあまり載っていませんが、「ほっきこう」と読んで、温暖な地域で越冬した渡り鳥が北の繁殖地(子育てをする場所)に移動することです。
「鳥帰る」や「白鳥帰る」は北帰行に似た意味の言葉で、こちらは春の季語にもなっています。
しかし「白鳥」は冬の季語です。後述するように、ハクチョウ(白鳥)は冬に日本に飛来する鳥だからでしょう。
その年によりますが、2月下旬は、コハクチョウ(小白鳥)やオオハクチョウ(大白鳥)などのハクチョウがシベリアへ帰り始める時季でもあります。
北帰行の始まるこの時季、ハクチョウなどの渡り鳥について詳しく見ていきましょう。
意外? ハクチョウはカモの仲間!
意外に思うかもしれませんが、ハクチョウはカモ科の水鳥で、カモの仲間です。
日本でよく見られるコハクチョウとオオハクチョウは、「コ(小)」と「オオ(大)」の名のとおり、大きさが異なります。それぞれオスの場合で、コハクチョウは全長120〜150㎝ほど、オオハクチョウは全長140〜165cmほどです。
ほかにも、くちばしの模様や鳴き声などに違いがあります。
ハクチョウの仲間には黒い鳥もいて、コクチョウ(黒鳥)と呼ばれます。翼の先は白いのですが、ほかの毛は真っ黒。クロハクチョウやブラックスワンともいわれます。
「黒い白鳥」とは、ちょっと矛盾した感じもしますね。
秋から冬に日本に来る「冬鳥」のハクチョウ
ハクチョウは渡り鳥の一種です。では、そもそも「渡り」とは何でしょうか。
鳥に関していう渡りは、鳥が季節によって生息地を変えることです。生息地を変えるとき、海を渡るため「渡り」といい、渡りを行う鳥は「渡り鳥」といわれます。
渡り鳥には、春から夏に日本に飛来して繁殖する「夏鳥(なつどり)」、秋から冬にかけて日本に飛来する「冬鳥(ふゆどり)」、繁殖地と越冬地を行き来する途中に日本に飛来する「旅鳥(たびどり)」などがあります。
ハクチョウはそのうち冬鳥で、日本には11月下旬ごろを中心に10〜3月ごろまで日本にとどまることが多いようです。
北海道の風蓮湖(ふうれんこ)や新潟県の瓢湖(ひょうこ)、宮城県の伊豆沼(いずぬま)などは、ハクチョウの飛来地として知られています。
そして2月下旬〜3月に、ハクチョウたちはシベリアへと向かいます。これが北帰行で、シベリアで繁殖するのです。
1万2000km以上もノンストップで飛び続ける鳥がいる!
渡り鳥はどれくらいの距離を飛ぶことができるのでしょうか。
一般的には、体の大きな鳥より小さな鳥のほうが長く遠くまで飛べるようです。
近年の研究では、体が大きくて重いハクチョウやツルは2000〜3000km飛ぶことができ、体の小さなアジサシの仲間は1万㎞を飛ぶことがわかったといいます。
さらに、オオソリハシシギという渡り鳥は、アラスカからニュージーランドまで、1万2000km以上を11日間かけてノンストップで飛行したことがわかりました。これが現在のところ、確認できている鳥の飛行距離の最長記録です。
地球1周の距離は約4万km。1万2000km以上だと、地球1周の3分の1に近い距離です。
1万2000kmは、旅客機の直行便でもかなり長いほうでしょう。オオソリハシシギの体力と気力(?)と根性(??)は脱帽レベルですね。
太陽や星座の位置を確認しつつ飛んでいる!?
渡り鳥は「太陽の位置」「星座の位置」「地球の磁場」などを頼りに飛行していると考えられています。
日中に渡る鳥は、太陽の位置を見て方角を判断しているようです。ハクチョウも日中に渡るので、太陽の位置を見つつ飛んでいるのでしょう。
夜に渡る鳥は、星座の位置を見て方角を判断しているようです。
地球の磁場も判断材料として利用していると考えられています。
地球は大きな磁石でもあり、周囲に磁界を作っています。鳥は体内に方位磁針(磁石を用いて方位を知るための道具)のようなものを持っていて、南北などがわかるといわれます。
人間の視点からすると、鳥は科学的な思考ができているようにも思えますね。
渡り鳥、侮れません!
すでに書いたように「鳥帰る」や「白鳥帰る」は春の季語です。
寒い日がまだ続いていますが、春はすぐそこまで来ています。北帰行は春が近いことも教えてくれているのです。
参考資料など
『講談社の動く図鑑MOVE mini 鳥』(監修/川上和人、発行所/講談社)、『生き物たちの冬ごし図鑑 鳥』(著者/佐藤裕樹、監修/今泉忠明、発行所/汐文社)、『鳥のしぐさ・行動よみとき図鑑 』(監修/小宮輝之、発行所/カンゼン)、『鳥の生態図鑑 大自然のふしぎ 増補改訂』(発行所/学研教育出版)、『新・水辺の鳥』(解説/安西英明、絵/谷口高司、編集・発行/日本野鳥の会)、『俳句の鳥・虫図鑑』(監修/復本一郎、発行所/成美堂出版)、『いちばんわかりやすい俳句歳時記 増補版』(著者/辻 桃子・安部元気、発行所/主婦の友社)、『日本の365日に会いに行く』(編著/永岡書店編集部、発行所/永岡書店)