“万博コスプレ”で炎上→「はよ死ね」「ゴミ」と誹謗中傷の嵐→殺害予告まで…「心身の限界です」女性コスプレイヤーが語る、“ネットリンチ”の恐怖

2025年5月18日(日)12時0分 文春オンライン

〈 「コスプレで万博に行くなんてモラルがない」と批判殺到…“万博コスプレ”で炎上した女性が明かす、コスプレ姿で万博を訪れた“本当の理由” 〉から続く


 開催中の大阪・関西万博にコスプレで来場したことが、ネット上で賛否両論を呼んでいるコスプレイヤーの鹿乃つのさん。


 当初は万博でのコスプレの是非を議論する流れもあったが、時間がたつにつれて万博の話題は薄れ、今は鹿乃さん自身への誹謗中傷へと変わっている。Xで「私じゃなきゃ自死を選んでてもおかしくないレベル」と訴える彼女に、誹謗中傷の内容や身体の変調についても聞いた。(全2回の2回目/ 1回目から続く )



コスプレイヤーの鹿乃つのさん(写真=本人提供)


◆◆◆


「ゴミ」「はよ死ね」誹謗中傷が集まり、人格否定・殺害予告まで…


——鹿乃さんへの批判ですが、万博という部分がなくなり、途中から鹿乃さんご本人に対する誹謗中傷へと移っていきました。どのあたりから変わっていったのでしょうか。


鹿乃つのさん(以下、鹿乃) 万博で開催された「Japan Expo」で改めて万博でのコスプレがOKと発信されたあたりだと思います。その部分で私を叩くのは分が悪いと感じたのか、私の過去のSNSの投稿を引っ張り出したりして、叩くようになりました。


「私はルール違反をしていなかった」と安心する一方、人格攻撃や個人情報の特定なども増えたので、そこからの方が精神的にきつかったです。


——誹謗中傷については、Xで「私じゃなきゃ自死を選んでてもおかしくないレベルまできてる」とも投稿されていました。どんな言葉が届いたんでしょうか。


鹿乃 「あなたのせいでマルシルが汚れた」「頭わいてる」「ゴミ」「はよ死ね」「お前が死んだ世界とか平和すぎるな」とか。「謝罪しろ謝罪しろ謝罪しろ」というDMがきたり。私じゃなきゃ死んでいたという投稿をしたときには「ちっ、死ななかったか、つまんねえな」っていう投稿もあって。


 万博でお会いしたご家族が喜びのコメントと写真をあげてくれていたのですが、そこにも誹謗中傷が集まって、結局その方は投稿を削除し、非公開アカウントになさったりということもありました。


「汗がふき出たり、あまり寝られていない」


——身体にも変調が出ているようですね。


鹿乃 自律神経がおかしくなっていて、汗がふき出たり、あまり寝られていないです。睡眠補助サプリを今は試している状況です。


——身の危険などは感じていますか。


鹿乃 ネット上で私の個人情報や最寄り駅が割り出されたり、真偽不明の情報が事実かのように拡散されていて。警察に相談しています。


 ネットの掲示板では「5月22日 鹿乃つのを銃殺する」と殺害予告までされていて、精神的にも物理的にも普通の暮らしができない状態です。警察にも報告済みで、現在は自宅付近のパトロールを強化してもらっています。


 何があるかわからないから、今日の取材にも一応サングラスをかけてきました。家族もすごく心配しています。


 誹謗中傷もそうなんですが、鹿乃つのはやばい思想の人だという雰囲気がSNS上で漂っています。その原因のひとつがヤフートピックスにも取り上げられたメディアの記事です。


記事を事前に確認したときは仮定の話だったが…


——当該記事では鹿乃さんの「実際のところ、著作者の中にも二次創作を愛している人はたくさんいる。白黒はっきりさせるべきで、それによって二次創作が全面禁止になるのであれば、その時はまた必ず議論が起こります」との言葉が批判を呼びました。しかしその後、記事の内容が修正されました。何があったのですか。


鹿乃 私が記事を確認して「これでお願いします」といった最終稿から変えられて、載せられてしまったんです。


 私が確認した時点では「もし白黒はっきりさせた場合は」という仮定の話だったのですが、公開された記事では「白黒はっきりさせるべきで」と白黒はっきりさせた方がいいと私が主張している形になっていたんです。


 その記事を見て怒った人が、私の過去のXから類する投稿を取り上げ、それが批判を浴びています。2月6日のサブアカウントの投稿です。


「『キャラをお借りする』という言葉が、生理的に嫌い」への誤解


——「『キャラをお借りする』という言葉が、生理的に嫌い」という投稿ですね。その一部だけを見ると、原作者の立場を考えていないように思われてしまいます。


鹿乃 あの「キャラをお借りする」という言葉そのものが文字通り嫌いであって、二次創作者は原作者をリスペクトしなければいけないという関係が生理的に嫌いということではないんですよ。そこの誤解がまず解けたらいいなと思っています。


 もともとキャラや作品への敬意って見たらわかるし、あえて口にしなくてもいいと個人的には考えているんです。ですが、先ほどお話しした、私のデマを流したようなコスプレイヤーほど「キャラをお借りする」という言葉をあえて多用する印象があります。


 そういうところから「キャラをお借りする」という言葉自体に悪い印象がこびりついてしまった結果、ああいう言い方になってしまいました。


 ただその当該投稿にも「原作者の気持ちを侵害しちゃいけないのは前提」と記載があり、侵害の意図は全くありません。「どちらも尊い」「対等にコラボできたら」という補足投稿もしましたが、これにも「一次創作と二次創作が対等だ」という意図はないんです。


 一方で、私はコミケやコスプレ文化そのものは大好きで、二次創作が一次創作の人気を支える存在としてもっと認められたらなと考えていますし、新規参入者も安心して活動できる環境も作れたらいいのに、と思っています。そういう人が癪に障るというのもわかるんですけど。


 今回改めて思ったのが、日本人は自分のことを好きとか、素敵って褒めることをすごく悪いことだと思うんだなと。私の自己肯定感や自尊心が垣間見える投稿には、特に酷い誹謗中傷コメントがついた印象があります。


万博開催国の日本人が、1人の女性を叩きのめしにくる怖さ


——コスプレやコミケといった文化は著作権的にかなりデリケートなところもあります。当然、そこにはいろいろな考えがあると思いますが、鹿乃さん個人がその点について、どう考えているかはあくまで個人の自由です。


鹿乃 例えば私がアメリカ大統領で、二次創作について言及したら明日そうした世界になる、という状況なら今回のような叩き方もわかるんです。


 でも、私ひとりにそのような力はありません。悪質なルール違反をすれば規約改訂で界隈全体に迷惑をかける可能性はありますが、万博でのルール、マナー違反に気を使っていることは、noteを読んでもらえればわかると思います。その中で一個人の考えに対して、ここまでいろいろな人が叩きにくるというのは怖さを感じました。


 そもそも万博って国同士で絶対に相容れない宗教観、諍いとかを一回脇に置いておこうというものじゃないですか。その横で開催国の日本人が1人の女を叩きのめしにくるという構図はクールじゃないとも思います。


コスプレ会場では「応援してるよ」「頑張ってね」という言葉も


——誹謗中傷を受けた後に、4月26、27日に開催された「ニコニコ超会議」にもマルシルのコスプレで参加する様子をSNSで上げていました。会場の反応はどうでしたか。


鹿乃 すれ違う人、写真を撮ってくれる人から「応援してるよ」「頑張ってね」という言葉をたくさん言ってもらいました。ただ、やっぱり怖さはありました。嫌がらせを受けるかもしれないと気にしていたのを見て、私のフォロワーさんが会場で一緒に歩いてくれたりもしました。


 SNSを見た人からは、私は原作をリスペクトしない人と思われているんだろうなと不安でした。だから普段なら素敵だなって思ったコスプレイヤーさんには私から写真をお願いするのですが、今回はほとんどしなかったです。


 ただ最後に1人だけ、私が初期からお手本にしていた有名コスプレイヤーさんに声をかけたんです。その方はすごく戸惑いながら「お話ししますか」って言ってくれて。それで少しお話をして、写真を撮って帰りました。


 その後に、その方がDMで「さっきはぎごちない態度をとってごめんなさい。あなたの一次創作と二次創作の考え方には賛成はできないけれど、あなたのコスプレは素敵だったし、あなた自身も素敵だと思ったから、またよかったら写真を撮ってください」と連絡をくださって。その方に「キャラをお借りする」という言葉がなぜ嫌いになったのか説明したら全部分かってくれました。


「心身ともに限界でベッドから出るのも辛い状態で…」実感した開示請求のハードルの高さ


——今回の件について今、思うところはありますか。


鹿乃 万博へ行って、noteで記事を書くまでは良かったんですけど、私には言葉足らずになりやすい点、そもそも人と違う価値観を持っている部分は多いと思うので、それを考慮したら、果敢に批判をする人と対話をするべきではなかったのかもしれないとは思います。


 対話そのものは悪くないし、私は人を傷つける言葉を向けたわけじゃないんですが、やった結果、自分に悪い評価がついてしまったので。


 私に対して「死ね」というような直接的な誹謗中傷は全体の中では少ない方なんです。開示請求が一般化したからか、侮辱罪などへの抵触回避を意識して直接的な言葉を使わずに人の心を削ろうとする手口が多いです。


 SNSでこれだけ言葉があふれる世の中になった中で、必ずしも「死ね」であったりという直接的な暴言だけが人を傷つけたり、死に追いやる訳ではないから。人の心を蝕む方に対しては、警察や医療機関がスムーズに介入できるよう、法律が変わってほしいと思います。


 また、多くの方が「弁護士や警察に相談しろ」とアドバイスしてくださいましたが、ただでさえ心身ともに限界でベッドから出るのも辛い状態で、仕事もしながら自分への誹謗中傷を見返し、開示請求できる可能性のあるものをピックアップする作業には耐え難い苦痛があります。自らの手で、再度自分の心をえぐるのですから。


 法改正で以前よりは多少開示請求が楽になったと聞きますが、やはり数か月はかかってしまう。まだまだハードルが高いように感じます。


作品や文化を守るために自分の寿命を使いたい


——それでもSNSで発信を続ける理由というのは。


鹿乃 そもそもコスプレにかかわらず、作品や文化を守るために自分の寿命を使いたいという思いが数年前からあって、そのためのフィールドであったり人であったりを探していたんです。


 特にここ半年は二次創作のホワイトな部分を広げたり、コスプレ界隈の暗黙のルールを明文化するなど、新規参入者も安心して活動できる環境を作る方法があるんじゃないかなといろんな人に話を聞いていました。


 だから、今回の万博の件で心の半分はすごく死んでいるんですけど、一方で目標のためにすごく前進する機会にもなっています。


——コスプレ自体はまだ続けていきますか。


鹿乃 酷いDMも届くんですけど、応援のDMも山ほど届くんです。どうしても100の応援よりも1の批判の方が心に焼きついてしまうところはあるんですけど、わざわざ私にDMをくれた人の気持ちをないがしろにすることにもなっちゃうので。


 今回のこの最中でもニコニコ超会議で列に並んで撮ってくれたカメラマンさんや、遠くから手を振ってくれるレイヤーさんもいて、やっぱりすごく嬉しかったんです。だから、ここから1か月くらいの動きを見て前向きに、慎重に考えたいと思います。表現したいマルシルも、まだまだたくさんいますからね。


写真提供=鹿乃つのさん


(徳重 龍徳)

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