明日は我が身?「無縁遺骨」10万人社会の恐怖

2024年3月23日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

明日は我が身?「無縁遺骨」10万人社会の恐怖

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未婚化や核家族化で、単身世帯が増えている。2022年の国民生活基礎調査によれば、今や日本では、3世帯に1世帯が「ひとり暮らし」だ。家族がいても「最期はひとり」は珍しくない。それにともない、引き取り手のない「無縁遺骨」が増えているというのは「ルポ 無縁遺骨 誰があなたを引き取るか」(朝日新聞出版刊)を著した朝日新聞ネットワーク報道本部記者の森下香枝さん。無縁遺骨の現状、無縁遺骨にならないための対策などを「ひとりで楽しく生きるためのお金大全」(ダイヤモンド社刊)の著者でマネージャーナリストの板倉京さんと語り合った。(構成 白鳥美子)

写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「無縁」の死者数は全国で10万人を超えている

板倉京(以下、板倉):今回、森下さんの「ルポ 無縁遺骨」を読んで、一番に感じたのは、「無縁遺骨」になってしまうことは、誰にとっても決して、他人事ではないということでした。

森下香枝(以下、森下):実は、これまであまり調査されてこなかったのですが、昨年総務省が発表したところによると、死亡時に引き取り手のない死者の数は、2018年4月から21年10月まで3年半で約10万5千人に上っています。しかも、そのうちの10万3千人は、身元が分かっていながら引き取り手がなかった人なんです。この数字は調査に応じた自治体だけのもので、実際にはもっと多いと考えられます。

「ルポ 無縁遺骨」著者で朝日新聞ネットワーク報道本部記者の森下香枝さん。「週刊文春」記者を経て2004年朝日新聞入社。東京社会部、AERAdot.創刊編集長、「週刊朝日」編集長などを経て現職。

板倉:本書に出てくる、昭和を代表する大女優の島田陽子さんが、死後遺体の引き取り手がなく自治体によって荼毘に付されたお話や、皇室ジャーナリストの渡邉みどりさんの突然の「ひとり死」のお話も身につまされました。お金もあり、交友関係の広い方でも最後は「無縁」になる可能性があるんだと…。

森下:そうですね。身元が分かっていても、ご家族などの縁者がいらしても、引き取り手がないと「無縁遺骨」になりますからね。

板倉:引き取り手がいない遺骨はどうなるんですか?

森下:住んでいる自治体がとりあえずは保管してくれます。市区町村の一室のキャビネットや倉庫、仏教寺院など宗教施設、葬儀社の保管室などに保管されるケースが多いようです。実は、引き取り手のいない遺骨の保管に関する規定は、今のところ法令上はありません。各市区町村がそれぞれのマンパワーの中でどうにかこうにか対処しているという状況です。

ほとんどの人は、自分の死後を想像しない

板倉:実際、自分が死んだ後のことまで、リアルに想像している人はほとんどいませんよね。私は税理士なので相続の相談を受けることが多いのですが、たいていの場合、皆さん、ギリギリ、切羽詰まってから相談にみえます。ましてや相続する家族もいないとなると、さらに想像できないでしょうね…。一人で亡くなって、遺体の引き取り手がいない場合、どうなるのですか?

「ひとりで楽しく生きるためのお金大全」著者でマネージャーナリストの板倉京さん。税理士資格を取得後、大手会計事務所、財産コンサルティング会社勤務などを経て独立。相続や資産運用に詳しい税理士としてシニアのクライアントを多く抱える。

森下:亡くなり方によって、死後の取り扱いが変わります。明らかな病死以外を「異状死」と呼びますが、そうなるとすぐに火葬ができないなど、やっかいな問題になることもあります。

板倉:お金の問題もありますよね。

森下:私が取材した中に、ひとり住まいの男性が亡くなったケースがありました。約700万円を超える預金があり、自宅も持ち家だったのですが、発見時、部屋にあった現金は財布の8万円のみ。荼毘に付すためには、約25万円ほどかかるのでそれでは足りませんし、いくら預貯金があっても勝手には引き出せません。仕方なく行政が立て替えるのですが、それを回収するためには裁判所に申したてるなど、大変な手間と時間、お金がかかります。それで回収できればまだしも、できない場合も多い。そういうことが、全国あちこちで起こっています。

板倉:お金があればどうにかなるという問題でもないのですね。ひとり暮らしの高齢者がこれからも増え続けると、家でひとりで死を迎える人は今よりもっと多くなりますよね。どう考えても、国によるしっかりとした法整備などの対策が必要ですね。

森下:そうなんです。2040年に、死者の数がピークを迎えるそうです。今、50代の人たちが70代になる頃ですから、私たちはまさに当事者。日本の社会保障は、死ぬまでは結構手厚いのですが、死んでからのことまでは考えていません。今は家族がいても、最後に亡くなる人は無縁遺骨になる可能性もありますから、死後、どこかのキャビネットに入れられてしまうかもしれない……。

板倉:そうならないために、制度設計に向けて政治が動いてくれるように求めると同時に、私たち自身がこの問題を自分事として自覚して、個人でできることをきちんと考えることも大切ですね。「知らない」ことが、リスクになる。

森下:ギリギリになってからでは間に合わない。「まだまだ先だ」と思わずに、元気なうちに積極的に情報を取りに行く必要を、取材を通じてひしひしと感じました。

(後篇「ひとりでも「孤独死」しないために大事な3つのこと」に続く)

 *本記事は、独身者向けのお金&老後対策を書いた、「ひとりで楽しく生きるためのお金大全」著者・板倉京さんと、「無縁遺骨」の現状や対策を著した「ルポ 無縁遺骨」の著者・森下香枝さんの対談です。

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