引き取り手のない「無縁遺骨」約6万柱。自治体負担の葬祭扶助が増加して財政を圧迫…総務省「厚労省は保管のあり方について方針を示すべき」

2024年2月12日(月)6時30分 婦人公論.jp


法令上、引き取り手のない遺骨の保管に関する規定はなくーー(写真提供:Photo AC)

総務省の人口推計によると、日本の死亡者数はここ数年で増加傾向にあり、2022年には150万人以上の方が亡くなったそう。そのようななか、「高齢化と孤立化で無縁遺骨になる可能性は誰にでもある」と話すのは、朝日新聞記者の森下香枝さん。森下さんは、「引き取り手のない『無縁遺骨』は、2021年10月時点で少なくとも6万柱にのぼる」と言っていて——。

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無縁遺骨6万柱という現実


全国の市区町村で管理・保管している引き取り手のない「無縁遺骨」は、2021年10月時点で少なくとも6万柱にのぼることが、総務省の初調査で明らかになった。

報告書によると、5万4千柱は身元が判明しているものの引き取り手がない遺骨、身元がわからない遺骨はわずか6千柱だった。

報告書によると、無縁遺骨は市区町村の一室のキャビネットや倉庫、葬儀社の保管室、仏教寺院などの宗教施設、神社仏閣の納骨堂、遺品整理業者の倉庫、老人ホームの無縁墓などに保管されている。

「自治体によって納骨堂に移った遺骨はカウントしていないケースもあり、実際はもっと多いとみられる」(同省)という。

取り扱いに苦慮しているようで、「親族への遺骨引き取りの意思確認の統一基準が決まっていないため、判断に困る」「無縁遺骨はどの程度の期間保管しておくべきか」「相続人になり得るのが3親等内なので意思確認しているが、回答をもらえないなど事務的負担が重い」「遺骨をいとこが引き取ることになった際に、本人が提出した戸籍謄本には親同士が兄弟であることまでは記載されていなかったため、市区町村で請求して確認したが、このような場合の戸籍入手は適切か疑問がある」という疑問や声などが寄せられていた。

保管から一定期間が経過したり、保管場所が満杯になったりした場合、骨つぼから骨を取り出して合葬したり、海洋散骨するという市区町村もあった。

さらにこんな要望もあった。葬祭扶助の金額(約20万円)の範囲で納骨(永代供養)まで行うことは難しく、金額内で納骨までしてくれる業者もあるが、合祀が多いという。

「合祀だと遺族が万一、後で引き取りにきても渡せないので、骨つぼに入った状態で保管することになる。こちらの費用も対象にしてほしい」という要望が市区町村から寄せられていた。

法令上、引き取り手のない遺骨の保管に関する規定はない。

「今後も無縁遺骨は増加することが想定されることから、厚労省は遺骨の保管のあり方について市区町村に方針を示すべき」と総務省は指摘する。

葬祭扶助の支出総額110億円突破


経済的に困窮したり、身寄りがないまま亡くなったりした人などの葬祭費を自治体が負担する葬祭扶助(生活保護費)は年々、増加し、過去最多を更新し続けている。

葬祭扶助とは、遺族が困窮して葬祭費を支出できないケースのほか、自宅や病院などで亡くなった身寄りがない人に対し、家主や病院長など第三者が葬祭を執り行うと申請すれば、行政が費用を負担するというもの。


『ルポ 無縁遺骨 誰があなたを引き取るか』(著:森下香枝/朝日新聞出版)

厚生労働省によると、2022年度は全国で5万2561件(速報値)となり、初めて5万件を突破。最多だった2021年度の4万8789件より約3800件も増加し、支出額も約110億円となっている。

都道府県別でみると、最多は東京都で9313件(速報値)。21年度より約900件増加し、こちらも過去最多となった。政令指定都市の最多は大阪市の5252件。こちらも21年度より312件増え、過去最多となった。

大阪市は無縁遺骨の数も過去最多となっている。

葬祭扶助費は都市部で1件約21万円と規定されているが、東京都で約20億円、大阪市で約11億円にのぼると見られ、財政を圧迫している。「困窮したり、身寄りのない高齢者が増加していることも影響している」(厚生労働省社会・援護局保護課)という。

葬祭扶助だけが増えるカラクリ


総務省の報告書によると、引き取り手のない死者の埋火葬のために適用した法律は葬祭扶助(生活保護法)が約9万3千件と圧倒的に多く、墓地埋葬法は約1万人に過ぎなかった。なぜ、葬祭扶助が突出しているのか。

報告書によると、市区町村が本来、身寄りのない人を葬る時、墓埋法を適用し、行政が火葬するのが妥当と考えても、あえて大家や友人に葬儀実施者になってもらい、葬祭扶助を申請してもらい、公費で葬るという不適切な事例が多数、掲載されていた。

これはどういうことなのか?

ある政令指定都市のベテラン担当者がカラクリを明かす。

「葬祭扶助を申請すると、その費用は国が4分の3を負担してくれるので市区町村と都道府県の負担は4分の1で済む。しかし、墓埋法を適用すると市区町村が全額、火葬費などを立て替え払いし、遺族にその費用の弁済請求をするのだが、多くの場合、支払ってもらえない。すると、市区町村は都道府県にその費用を弁済請求できることになっているのだが、これはあくまで建前であまり支払ってもらえない。都道府県は『遺族がいるならそちらに払ってもらえるまで請求すべき』『うちの県は弁済予算を確保していない』などと渋り、市区町村が費用をかぶるケースが多い。墓埋法の予算を市区町村はあまり確保していないので予備費を流用することも多い。すると、手続きが煩雑になるので、不適切でも葬祭扶助にして国に出してもらった方が楽となる」

都道府県の中には遺族、相続人がいる場合、特例をのぞき、市区町村が墓埋法を適用して全額立て替えた埋火葬の費用を弁済請求できないと明記しているところもある。

特例というのは亡くなった人から遺族がDVを受けたり、相続人が未成年であったり、遺族が亡くなった人の起こした犯罪被害者というかなりレアなケースだ。

「これでは都道府県に弁済請求するなと言われているようなもの。遺族、相続人が遺骨の引き取りや埋火葬の支払いを拒否する場合、圧倒的に多い理由は『絶縁状態だから』というものです。そういう遺族に支払いを求めても難しい」と市区町村担当は話す。

時代のニーズ


報告書の中には市区町村が遺族から回収できなかった葬祭費を都道府県へ弁済請求したものの突っぱねられ、泣く泣くあきらめた事例が相次いでいた。

葬祭扶助の増加に頭を悩ませる厚労省や総務省は相続人と連絡がつかない、疎遠を理由に弁済が見込めないケースでも都道府県の弁済の対象になりうるとしているが、「国は及び腰で法改正などできちんと決めてくれない限り、問題は解決しない」と市区町村のベテラン担当者はため息をつく。

そもそも墓埋法は1948年(昭和23年)制定の法律だ。

「法ができた時、引き取り手のない遺体というのは、身元不明者しかあり得ない時代で、身元がわかっていながら家族など引き取り手が誰もいないということは想定されていなかった。だが、高齢化と核家族化が進む今は引き取り手のない死者は増える一方で、現実的に対応できなくなっている。法改正をするべき」と先のベテラン担当者は指摘する。

内閣府「高齢社会白書」によると、日本の総人口(2021年10月現在)1億2550万人のうち、65歳以上は3621万人。

高齢化率は2023年、世界で最も高い29.1%となった。高齢単身者が増加し、男性で15%、女性では22%を占める。手遅れにならぬうちに、時代のニーズにあうようにすべきだろう。

※本稿は、『ルポ 無縁遺骨 誰があなたを引き取るか』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

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