統合作戦司令部、複合事態に迅速対応…軍事挑発や大規模災害の常態化で

2025年3月25日(火)16時30分 読売新聞

統合作戦司令部が入る防衛省のA棟(20日、東京都新宿区で)=杉本昌大撮影

[スキャナー]

 防衛省が「統合作戦司令部」を創設するのは、周辺国の軍事的挑発や大規模災害が同時に起きる「複合事態」が常態化しているためだ。抑止力を高めるには、新司令部の下で部隊を効果的に動かし、米軍との連携強化を図ることが重要となる。(社会部 溝田拓士)

役割分担

 「統合幕僚長の役割を統合作戦司令官と分担できれば、様々な面でより迅速に対応できる」。自衛隊幹部は新司令部を設置する狙いをこう説明する。

 自衛官トップの統幕長は、自衛隊の運用について防衛相を補佐する立場で、吉田圭秀よしひで・統幕長も陸海空の主要部隊だけではなく、緊急事態が起きたときに臨時に編成する「統合任務部隊(JTF)」の活動についても報告を受けてきた。必要に応じて防衛相の判断を仰ぎ、指示を出すためだ。

 だが、緊急事態が重なると統幕長の負担は一気に増す。昨年の元日に起きた能登半島地震への対応はその最たる例だ。

 地震発生の翌日、自衛隊は1万人規模のJTFを編成した。このとき北朝鮮の弾道ミサイル防衛と、中東・ガザ情勢の緊迫化に伴う邦人輸送を行うJTFも動いていた。日本周辺で活動する中露の艦艇や航空機への対応も怠るわけにはいかない。吉田氏にはこれらの情勢報告が集中していた。

 一方で地震発生の初期には、吉田氏が首相官邸や大臣室への説明で1日に何度も自席を離れ、2時間近く戻れない時もあり、報告をうけにくくなった。同時期に日米共同演習も重なり、吉田氏は昨年2月、過労で約2週間入院した。

 自衛隊幹部は「複合事態はもはや常態化している。今後、統幕長は大臣の補佐に集中できる」と話す。

文民統制変わらず

 統合作戦司令部の設置により、事態の変化に応じて部隊の規模や配置場所を変えていくスピードは速くなる。現場レベルで判断できることは、新司令官の裁量に任されているからだ。

 ただし、新司令部が発足してもシビリアンコントロール(文民統制)のあり方は変わらない。新司令官は重要な局面では必ず統幕長に相談し防衛相の判断を仰ぐ。

 新司令部は、敵のミサイル基地などを攻撃する長射程ミサイルの運用も担う。目標を探し出し、ミサイルを誘導するには、陸海空部隊の統合運用が不可欠だからだ。こうした「反撃能力」を持つことで抑止力を強化したい考えだ。

 中国は台湾を武力で統一する選択肢を排除していないとされる。日本政府関係者は「司令部の新設は『台湾有事』への備えも念頭に置いている」と明かす。

「腹合わせ」必要

 統合作戦司令部の必要性が議論され始めたのは、陸海空合わせて10万人の隊員が動いた2011年の東日本大震災の後だ。昨年、新司令部の創設を柱とする改正自衛隊法が成立し、防衛省は準備を加速してきた。

 懸念は統幕長と統合作戦司令官の「腹合わせ」がうまくいくかだ。様々な事態が刻々と変化していく中で、状況の推移や分析結果を同じタイミングで把握できなければ意思決定の足並みが乱れかねない。2人が同じ資料を同時に閲覧できる通信システムを整備する。

 サイバー攻撃により、平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」が起きる可能性もある。切れ目なく対応する体制作りは急務だ。自衛隊は今後、演習などを通じ、新司令部の運用能力を高めていく方針だ。

在日米軍 強化目指す…トランプ政権 対応焦点

 日米両政府は、自衛隊の統合作戦司令部の発足にあわせ、指揮・統制能力を向上させるため、在日米軍の司令部機能を強化する組織再編を目指している。

 統合幕僚長は現状、米軍の統合参謀本部議長とインド太平洋軍司令官がカウンターパートとなっている。今後は、統合作戦司令官が運用面でインド太平洋軍司令官のカウンターパートとなり、調整役を統幕長から引き継ぐ。

 一方で、インド太平洋軍司令部はハワイにあり、日本と時差が生じるため、より緊密な連携に向けた体制作りの必要性が指摘されてきた。横田基地(東京)にある在日米軍司令部の権限は基地の管理などに限られ、米海軍第7艦隊などの在日米軍部隊の指揮権は、インド太平洋軍司令官が握る。

 日米両政府は昨年7月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、在日米軍司令部を「統合軍司令部」として再編することを目指すことで合意した。一定の指揮権が付与された「統合軍司令部」が発足すれば、平時から日本国内で自衛隊と緊密な意思疎通ができ、緊急時でも時差なくスムーズな調整が可能になる。台湾有事への備えにもなる。

 再編案はバイデン政権下で進められ、トランプ政権が実行に移すかどうかは不透明さも残る。米メディアは19日、国防総省が在日米軍強化計画の中止を検討していると伝えた。中谷防衛相は21日の記者会見で、「(米側の)方針の変更はない」との認識を示した。

 折木良一・元統幕長は「日米が連携して対応する姿勢を示すことが中国に対する抑止力になる。米軍の体制整備に向け、速やかに日米で調整するべきだ」と指摘する。中谷氏は今月末に東京都内でヘグセス国防長官と会談する予定で、再編案への対応も議題となる。(政治部 中田隆徳)

ヨミドクター 中学受験サポート 読売新聞購読ボタン 読売新聞

「統合作戦司令部」をもっと詳しく

「統合作戦司令部」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ