南海トラフ被害想定「高齢化で避難難しい人が増えている」…岩田孝仁氏、自助共助の役割強調
2025年4月1日(火)0時39分 読売新聞
岩田孝仁氏
政府の作業部会が3月31日に公表した南海トラフ地震の新たな被害想定は、ひとたび発生すれば国難級の被害となることを改めて突きつけた。各自治体は未曽有の大災害にどう備えるべきか。岩田孝仁・静岡大防災総合センター客員教授に聞いた。
南海トラフ地震の新たな被害想定では、死者が29万8000人に上るなど、約10年前の前回想定と同程度の被害が示された。ただ、前回とは地形データが変わっているなど前提条件が違ううえ、高齢化や人口減の進展など社会情勢も大きく変化しており、数値そのものを単純比較しても意味がない。
今回の想定は、あくまで南海トラフ地震全体の被害を想定したものだが、対象の都府県や市町村、住民は今回の想定を参考に、それぞれの立場で防災対策を考え直すことが重要だ。
前回の想定が示された2012〜13年当時は、静岡県庁で防災分野を担当しており、静岡の防災対策を改める大きなきっかけになった。
それまで静岡では、南海トラフの東端で起こると考えられていた「東海地震」を前提に、主に地震対策を進めていた。しかし、最大30メートル超の津波が押し寄せることが示され、防潮堤整備や避難訓練の実施などハード・ソフト両面で津波対策を強化する動きにつながった。
また、最大級の南海トラフ地震が起きると西日本を含めた広範囲が甚大な被害を受け、他県からの支援も分散してしまうことが示された。県外から十分な支援を受けられない事態も想定し、県は受援計画を見直した。
他の都府県でも対策が進んだ。高さ34メートルの津波が想定される高知県黒潮町は、津波避難タワーを充実させた。和歌山県串本町は、役場を新たに建てるなどして町ごと高台に移転した。
一方、10年余りたち津波対策の意欲が薄れてしまった地域や、財源などの問題でハード対策が限界に達している自治体も少なくない。高齢化により、津波の第1波が来るまでに高台への避難が難しい人も増えている。
高齢化や人口減で地方の活力が落ちる中、地域の防災上の課題がどこにあるのか、見つめ直す機会としたい。
作業部会の報告書では、自助や共助の役割が強調された。住宅耐震化や家具の固定、物資の備蓄など、個人でできることを着実に進めるべきだ。高齢化などにより防災訓練もままならないような集落では、NPOなどの民間組織の手助けも必要となる。企業も防災面で地域と関わりを深めることが求められる。
一方、報告書からは、行政による公助の役割が十分強調されていない印象を受けた。地域の防災力向上には、公助は極めて重要だ。どのように安全な街に作り直していくかは、行政の大きな仕事となる。住民側も行政の動きを待つだけでなく、地域の要望を伝え、連携して取り組めるように働き掛ける必要がある。(聞き手・社会部 大原圭二)
いわた・たかよし 専門は防災学。1979年に静岡県庁に入庁し、防災・危機管理部門を主に担当。定年退職後に静岡大に移り、防災政策を研究。日本災害情報学会会長。70歳。