フランス人が「日本の冬」を愛する意外な理由。寒い季節でも観光客に大人気な“東京以外”の街とは
2025年4月12日(土)21時25分 All About
外国を訪れる前と訪れた後で、その国のイメージが変わったことはありませんか? 日本を訪れた外国人観光客も同じ経験をしていると思いますが、フランス人が感動するポイントは、日本人にとっては少し意外なものばかりでした。在住者がフランス人の声を代弁します!
フランス人が「日本の冬」が大好き
そんな桜の風景が見られる春と、紅葉の季節である秋は、筆者が暮らすフランスでも「日本のベストシーズン」として大変に有名です。しかし実際に日本を訪れたフランス人からは、「日本の冬が最高だった」という声を幾度となく聞きました。寒くてアクティビティも制限される冬が、なぜここまで人気? と思いましたが、実際にフランスで冬を経験してみると、その理由に深く納得してしまいます。まずは季節の話からご紹介しましょう。
日本の「冬晴れ」がフランス人に人気の理由
日本には「冬晴れ」という言葉があります。気温は低くても、スカッと青空が広がる光景は見ていて気持ちの良いもの。ところが、フランスは「冬晴れ」どころか、冬の間は太陽を見る機会さえほとんどありません。降水量も多く、セーヌ川をはじめとした河川が氾濫する季節でもあります。特にパリを含む北フランスでは、どんよりとした天気が毎年10月の終わりごろから3月の初めごろまで、およそ5カ月も続きます。筆者はこの長く暗い冬を今までに6回経験してきました。つまりフランス滞在も今年で7年目を迎えるわけですが、周囲のフランス人と同じく、冬のフランスが大の苦手になりつつあります。偶然にも冬季に日本を訪れたフランス人は、その天気の良さに感激するのだそう。通常、フランス人のバカンスシーズンは6月から9月が定番ですが、たまたま冬季に訪れた友人らは「日本の冬が素晴らしかった!」と口々に言っていました。
特に1月から2月にかけての日本は晴天の日も多く、澄み切った空気に満ちた美しい季節。太陽に飢えた彼らにとって、日本の冬は「光にあふれた避寒地」のように映るのでしょう。日本の冬がどれほど魅力的であるかを、まだ訪れたことのない友人たちに熱心に語る知り合いもいるほどです。
一方、寒さはそれほど気にならないとのこと。何よりも太陽が拝めることがうれしく、温泉もあって、関東からでも富士山を見渡せる冬に大きな魅力を感じるということです。
冬のフランス人は冷たい
太陽を浴びないと、骨がもろくなったり、寝つきが悪くなったり、季節性感情障害の原因になったりすることも。冬の間、フランスではそうした症状を訴える人が本当に多く、「ルミノテラピー(Luminothérapie)」と呼ばれる光療法を受けようと、病院に通う人も珍しくありません。曇天が続く冬のパリでは、やはり日照不足の影響なのか、人々の性格も悪くなる気がします。ちょっとしたことで舌打ちが飛んできたり、店員さんの態度も一段と塩気を帯びてきたり。フランス名物であるドライバー同士の怒鳴り合いも、冬になると妙に頻度が増しているような……。
フランス人も慣れているとはいえ、そうした悪態には悪態で返してしまいがちです。そんな張りつめた日常から抜け出し、日本を初めて訪れた筆者の友人は、日本人から受けた「小さな親切」にすっかり心を打たれたと語ってくれました。
寒い時期に染みた、日本人の優しさ
日本を訪れた友人の男性が神奈川県のとある駅で、バスに乗ろうとしていた時のこと。友人はパスポートやカード類をホテルの貴重品BOXに預け、現金を入れた財布のみを持って観光していました。駅前の自動販売機でお茶を買い、目的地の場所まで行こうとバスに乗り込もうとしたところ……「あれ? 財布に入れていた1万円札がない!」──どうやら友人は、お茶を買った際に1万円札を自動販売機の前で落としてしまったようです。
慌てて自動販売機近くのコンビニに寄るも、スタッフからは「届いていない」という返答が。しかしその様子を見ていた別の日本人客が、「一緒に探しましょうか?」と慣れない英語で話しかけてくれたのだそうです。
その人の助けもあって、1万円札は近くのお弁当屋さんが預かってくれていたことが判明しました。こうしてフランス人の友人は、助けてくれた日本人と、現金を拾って保管してくれたお弁当屋さん、そして1万円札が盗まれなかったという“奇跡の三重奏”に深く感動したのです。
フランスでは、現金を落とせばまず戻ってこないのが普通。それだけに、見返りも求めず親切に助けてくれた日本人のことを友人はいつまでも忘れず、ことあるごとに周囲の人たちに話しています。「日本に行くなら冬がいいよ」と切り出し、寒い時期に起きたこの出来事を今も伝道師のように語っています。
日本人の親切心に季節は関係ないと思いますが、人々の気性が荒れがちなフランスの冬と比べると、日本で出会った優しさはなおさら心に染みたのかもしれません。
フランス人に人気の湘南エリア
さて、フランス人観光客に人気の高いスポットといえば、「湘南エリア」が挙げられます。パリは海から遠く、行くとしたら泊まりがけが一般的。日本のように日帰りで訪れることはほとんどありません。そんな中、東京からも近い湘南の海沿いでは、真冬でもサーフィンやジョギングを楽しんでいる人々が数多く存在します。その明るく健やかな雰囲気に、フランス人観光客も自然と感化されるのでしょう。周囲には江の島や鎌倉といった歴史的スポットもあり、見どころには事欠きません。「湘南エリアは本当に気持ちがいい」と感じたフランス人の中には、日本を再訪するたびに湘南に宿を取り、ここを拠点に滞在する人もいるほどです。
日本を訪れる前は、東京の渋谷や秋葉原、京都や大阪といった大都市に興味を持つフランス人が多いですが、実際に来てみると、情緒ある日本の下町、そして“日本人そのもの”に惹かれる人が多いという印象を受けました。
訪問の季節は、やはり「冬」。湿度の高い夏はフランス人もちょっと苦手のようですね。しかし、桜が咲く春をしのぐほど「冬の日本」が人気だとは、少し意外な発見でした。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
(文:大内 聖子)