消えゆく「屋根より高い」大型こいのぼり…コンパクトな室内用は人気上昇、伝統継承への取り組みも

2025年4月18日(金)14時12分 読売新聞

室内に飾る用の小型こいのぼりが並ぶ「人形の久月 浅草橋総本店」

 初夏の風物詩である「こいのぼり」が街中から消えつつある。少子化を背景に販売数が減少する中、飾る場所が取れない住宅事情も重なり、都市部を中心に大型の製品は「絶滅危惧種」とも言える状況だ。一方で、家族だけでコンパクトに楽しめる室内用の人気は急上昇。伝統文化の衰退に危機感を持った職人らによる新たな動きにも注目が集まっている。(柳沼晃太朗、中村桐佳)

売上高30%以上減った業者も

 「うわぁ、きれい」。東京都港区の東京タワーを訪れた観光客や家族連れが笑顔で見上げるのは、悠々と空を泳ぐ色とりどりのこいのぼり。端午の節句(5月5日)に向け、タワーの高さにちなんだ333匹が入り口付近に掲げられている。

 もの珍しそうに眺める人も多く、息子2人と訪れた千葉県の主婦(30)は「自宅の近くにこいのぼりを飾っている家は全くない。今日は元気に泳ぐ姿を見られて、子どもたちもうれしそう」と喜んだ。

 全国のメーカー11社でつくる「日本こいのぼり協会」(東京)によると、こいのぼりの売上高がピークだった数十年前から30%以上減った業者もあるという。担当者は「バブル期には体長7〜8メートルに達する大型のものが人気で、金色をあしらった100万円前後の高価な製品も売れたものです」と振り返る。

窓ガラスや卓上に

 「屋根より高い」と童謡でも歌われるこいのぼりは、民家の庭で数匹が連なって舞う姿が定番だった。だが、近年は少子化や広い庭を持たない戸建て住宅が増加し、ベランダに飾るのを規約で禁じるマンションも。「家族構成がばれてしまう」「子どもがいることを知られたくない」など、個人情報の保護や防犯対策を理由に屋外への設置を避けるケースもあるという。

 こうした現状を受け、窓ガラスに吸盤で取り付けたり、卓上に設置したりできる小型のこいのぼりが人気を集めている。

 老舗人形店「久月」(東京)は2018年頃、室内に置いて飾れるぬいぐるみ型のこいのぼりの販売を開始。徐々に小型化し、高さ約40センチのものも。色のバリエーションも増え、今や都心の店舗では販売数の9割以上を室内用が占めるという。

 横山久俊社長(42)は「手軽に飾れて、価格も2万〜3万円と買い求めやすいため、売り切れる商品も出ている。室内用の製品に移行する流れは、今後も止まらないだろう」と分析する。

新たな活用方法模索

 一方で、住宅街では出番が減ったこいのぼりの新たな活用方法を模索する取り組みが各地で行われている。

 名古屋市では20年、地元の業者らが集結し、江戸時代から伝わる染色技法「有松絞」の染め物を使ったこいのぼり作りと、地域の建物への飾り付けを始めた。

 企画した大西嘉彦さん(43)は「需要減で職人の仕事がなくなれば、技術の継承もままならない。伝統工芸としての文化を発信しながら、作り手の仕事も増やせれば」と力を込める。

 国内最大手のこいのぼり製造販売会社「徳永こいのぼり」(岡山)も16年から、東京都港区の複合商業施設・東京ミッドタウンで毎春開かれる「こいのぼりギャラリー」への協力を続けている。著名なクリエイターらが考案する独特なデザインを続々と製品に仕立て上げ、約100匹を展示する。

 日本鯉のぼり協会の会長も務める同社の徳永夕子社長(51)は「『愛情を伝える』ことが、こいのぼり文化の本質。人がつながり、交流する架け橋のような存在として、日本の空に泳がせていきたい」としている。

ルーツは江戸の庶民文化

 日本鯉のぼり協会によると、こいのぼりの発祥は、約300年前の江戸時代中期。木綿や和紙で作ったのぼりを町人が立て、そこに急流を登ったコイが竜に変わる故事「登竜門」にまつわる絵を描くことで、子どもたちの健やかな成長を願ったのがルーツという。

 縁起物として風習は全国に広まり、金や銀の華やかな色遣いで仕上げた「関東系」、黒や赤の単色で上品に濃淡をつけた「関西系」と地域ごとに作風の違いも生まれた。生地に開いた穴に染料を落とし込む「シルクスクリーン」と呼ばれる技法が用いられ、職人が手作業で頭部やうろこに複雑な模様を浮かび上がらせる。

 生地の素材は現在、軽量のポリエステル製が増えている。体長10メートルに達する大型品の中には、完成まで1週間を要するものもある。人気が高いのは3〜5メートルのセットで、用途や生地に応じて数万〜50万円程度の価格で販売されている。

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