基地か経済か…「沖縄には日本の矛盾が詰まっている」タイプも思想も正反対の2人が、ともに抱えた“沖縄県知事としての苦労”
2025年4月19日(土)8時0分 文春オンライン
沖縄県知事、大田昌秀と翁長雄志(たけし)。大田は学者で革新。翁長は、父も兄も政治家の家に生まれた保守。政治思想も手法も対照的なふたりは激しく反目したが、不思議とその言葉は共鳴し合う。曰く、「沖縄は何ですか。沖縄は日本ですか」。また曰く、「うちなーんちゅ、うしぇーてー、ないびらんどー」。沖縄人を蔑ろにしてはいけませんよ——。
ドキュメンタリー『太陽の運命』で、佐古忠彦さんは、「なぜ沖縄は、いまだにかくも不条理のなかを生き続けているのか」と問い続ける。

「私が『筑紫哲也NEWS23』のキャスターとなった96年は、前年に起きた米兵の少女暴行事件で、日米地位協定の見直しが訴えられ、大田知事が軍用地を強制使用するための代理署名を拒否したことで、基地問題が大きな岐路を迎えた時期でした。その後の取材で、地位協定の不条理に衝撃を受けて以来30年近く、取材を続けています」
大田は、橋本龍太郎総理と17回もの会談を重ね、「普天間基地全面返還」の言葉を引き出したが、それには「県内移設」という条件が付いた。大田は受け入れられなかった。移設の是非を巡り県と国が対立を続ける、「辺野古新基地建設問題」の発端はここにある。
ただ、橋本が呟いた“3つの言葉”が、取材では明らかになった。「大田さんばかりか、橋本さんの心の動きもとても人間的だと思いました。“橋本さんまでは、申し訳ないという気持ちで、沖縄のことを考えてくれた。いまの政権にはそれが全く感じられない”。安倍政権と決裂した翁長さんの言葉です」
辺野古移設推進を掲げ、大田を執拗に批判し退陣に追い込んだ県議会議員の翁長は、当時、辺野古移設推進派だった。自民党を背負い、県政奪還のために戦っていた。だが、戦うべき相手はそこにはいなかった。のち知事となって、翁長は気付く。大田が本当は何と戦っていたのかを。
「沖縄県知事ほど苦悩を抱える首長はいません。保守も革新も関係なく、基地か経済かの二者択一を迫る国と対峙し、行政官と民意を背負う政治家との狭間で揺れる。あまつさえ、ふたりとも国と法廷で争うことに。手を取り合うことはありませんでしたが、大田さんは『法的に負けても挫ける必要はない』と翁長さんを鼓舞し、翁長さんは『自分の言葉が大田さんと似ている』と穏やかに語る。魂の重なり、沖縄の心をそこに感じます」
「沖縄には日本の矛盾が詰まっている」。ジャーナリストの筑紫哲也はこう喝破した。
「日米安保による恩恵を国全体で受けているのであれば、基地などの負担は沖縄だけに負わせず、等しくすべきだ。この当たり前のことが、民主主義の名のもとに等閑視されている。けれど、少数派の意見を尊重するのも民主主義です。ふたりの知事は民主主義を諦めなかった。沖縄からこの国のありかたを考えてほしい、そんな思いで作りました」
さこただひこ/1964年、神奈川県生まれ。88年、TBS入社。96年から「筑紫哲也NEWS23」でキャスターを務める傍ら、沖縄、戦争、基地問題などをテーマに特集を制作。本作は、ドキュメンタリー映画『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』『米軍が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』『生きろ 島田叡 戦中最後の沖縄県知事』に続く4作目。
INFORMATIONアイコン
映画『太陽(テイダ)の運命』
沖縄・桜坂劇場にて、先行公開中
4月19日(土)より、東京・ユーロスペース他全国順次ロードショー
https://tida-unmei.com
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年4月24日号)