「通常ならトップの司忍組長の名前が…」6代目山口組の“抗争終結宣言”に暴力団古参幹部が感じた「違和感の正体」とは
2025年4月20日(日)18時0分 文春オンライン
国内最大の暴力団「6代目山口組」と「神戸山口組」との10年続いている対立抗争。最近は派手な事件は発生していなかったが、6代目山口組が4月7日に兵庫県警に抗争の終結宣言と受け止められる「宣誓書」を提出したニュースは界隈を駆け巡った。
分裂抗争が始まったのは、1915年に創設された山口組にとって100周年のメモリアルイヤーとなるはずだった2015年のことだった。110周年となる今年、6代目山口組は分裂の汚点を解消することができるのか。

「宣誓書 この度は全国の任侠団体の申し出により山口組は処分者の井上、入江、池田、岡本、宮下との抗争を終結することにしました 尚山健組処分者の織田とも今後一切揉めることはしません 一般の市民にはご迷惑お掛けしました 高山清司 執行部一同」
6代目山口組本部長の森尾卯太男、若頭補佐の安東美樹、津田力らの最高幹部3人が同日、兵庫県警を訪れて提出したのは、上記のような趣旨の宣誓書だったという。宣誓書にある井上とは神戸山口組組長の井上邦雄を指し、続く入江(宅見組組長)、池田(池田組組長)、岡本、宮下らも6代目山口組からみた“造反者”にあたる。
「処分者」として言及されている織田は神戸山口組の中核組織だった山健組の最高幹部を務めた人物だが2017年に離脱し、現在は絆会を率いて独立して活動している。
「通常、こうした書面にはトップの司忍組長の名前が記載されるが…」
首都圏に拠点を構える指定暴力団の古参幹部は宣誓書について、6代目山口組ナンバー2の若頭の高山の署名があるところに「違和感がある」との感想を述べる。
「通常、こうした書面にはトップの司忍組長の名前が記載されているものだ。それでこそ、重みがあるということになる。ただ、今回の場合は高山のカシラ(若頭)が自分の名前を記すことに意味があるように見える」
山口組が司忍を頂点とする現在の6代目体制になったのは2005年。組長と若頭というツートップの役職を名古屋市に拠点がある弘道会出身者で独占した異例の人事だった。高山は若頭として強権的な組織運営を進めたが、前出の古参幹部は「分裂劇に責任を感じているのでは」と推測する。
「そもそも今回の分裂劇は、高山のカシラが恐喝事件で長期間服役している間に起きている。組織を割った井上らも、当然『高山不在』の期間を狙って神戸山口組を旗揚げした。それだけに高山としては、自分が捕まったことで分裂の事態を招いたと自責の念があるのだろう。今回の宣誓書に親分の司の名前ではなく高山の名前があるのは、自分の責任で分裂を終結させるという意志を示したのではないか」
分裂した2015年の6代目山口組の構成員は約6000人、対する神戸山口組は約2800人だった。分裂の原因は高山らによる強権的な組織運営と、様々な名目の金銭の徴収だったとも言われ、その点について高山が責任を感じていてもおかしくない。
6代目山口組の構成員6000人対神戸山口組2800人で始まった抗争は、10年を経て6代目山口組が約3300人、神戸山口組が約120人と大きな勢力差が開くに至った。もう終わりにしよう、ということなのだろうか。
しかし、今回の宣誓書によって10年続いた抗争がすんなり終わるかは別問題である。
過去にも、対立抗争状態にある暴力団の双方がそろって抗争終結を宣言したり、もしくは劣勢に陥った側が組長の引退や組織の解散を警察に届け出ることはあった。しかし今回の場合は、6代目山口組の一方的な“終結宣言”で、神戸山口組からの反応はない。
警察当局の捜査幹部も「これでは手打ちになっていない。6代目(山口組)が抗争終結を宣言しても、『はい、そうですか』という訳にはいかない」と姿勢は厳しい。
終結宣言の目的は「厳しい規制の解除」?
この警察当局の幹部は終結宣言の目的について、「特定抗争指定暴力団の規制を解除してほしい、ということだろう」と話す。
特定抗争指定暴力団とは、指定暴力団同士が対立抗争状態にある場合に、その暴力団の主な活動拠点がある都道府県の公安委員会が指定するもので、指定されると様々な規制がかけられることになる。
警戒区域でおおむね5人以上で集まると中止命令などの行政手続きを経ずに即座に逮捕されるほか、事務所などの使用も禁止される。6代目山口組と神戸山口組は、抗争が激化した2020年1月に指定され、名古屋の弘道会の事務所などが立ち入り禁止となっている。
他にも双方の主な拠点がある神戸市や大阪市、名古屋市などに警戒区域が設定されており、6代目山口組が警戒区域外の静岡県内にある傘下組織の事務所で集会を開くことがあるのはこれが理由だ。
「特定抗争指定による厳しい規制を解除してほしいということだろうが、片方が抗争をやめますといっても、その実態を見極めるには時間が必要だ。当面は規制を続けることになるだろう」(前出の警察当局の幹部)
「ヤクザが相手だと、警察はヤクザ以上にイジワルだからな」
特定抗争指定暴力団の指定が解除された前例を振り返ると、解除のハードルの高さが見えてくる。2012年12月に史上初めて特定抗争指定暴力団に指定された、「道仁会」と「九州誠道会」(当時)のケースだ。
どちらも福岡に拠点を持つ2団体の抗争の原因は、道仁会の3代目会長の座をめぐって内紛状態となり、一部グループが2006年7月に離脱し九州誠道会を結成したことだった。その後は対立抗争状態となり、道仁会の3代目会長が射殺されるなど双方で14人が死亡した。
4代目山口組組長に竹中正久が就任したことに反発し、一部グループが一和会を結成して始まった「山一抗争」と似た構図だった。
しかし道仁会と九州誠道会の対立抗争は、特定抗争指定暴力団に指定されるとピタリと事件の発生が止まった。当時を知る警察当局の幹部は、「抗争による消耗が激しかったことと、事務所の使用禁止などから組織の統制が崩れ、脱退する者が増加したため」と振り返る。
指定から約半年後の2013年6月に、道仁会が福岡県警に抗争を終えるとした宣誓書を提出。九州誠道会も組織の解散を届け出た。
当初は警察当局にも抗争終結は偽装ではないかという見方もあったが、実際にその後は対立抗争が原因とみられる事件は起きなかった。事態を見極めるという名目で推移を見守り、結局双方の特定抗争指定暴力団としての指定が解除されたのは2014年6月で、宣誓書の提出、解散の届け出から1年後のことだった。
しかし今回の場合は、6代目山口組は抗争終結を宣言する宣誓書を提出したものの、神戸山口組は静観を決め込んでいる。この状況では、双方に向ける警察当局の視線の厳しさは変わらず、特定抗争指定暴力団としての規制は継続となりそうだ。
九州の抗争で解散したはずの九州誠道会が、警察の監視の目をくぐり抜けるように後に浪川会として組織を再編して活動を再開したことも、警察が指定解除に慎重にならざるをえない理由になっている。
東京都内で主に活動している指定暴力団の幹部も、これで終わりだとは思っていないようだ。
「しばらく解除はないだろう。ヤクザが相手だと、警察はヤクザ以上にイジワルだからな」
(尾島 正洋)
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