《懲役は…》「もう二度と娘には近づかないと約束しろ!」大事な娘(16)を守るため交際相手(38)を包丁で殺した「父親のその後」(2009年の事件)
2025年4月26日(土)18時30分 文春オンライン
〈 【衝撃事件】「まだ高校生だぞ」16歳の女子高生が“バツ2の無職男性(38)”と交際していた理由とは…娘を助けるため「交際相手を殺した」父親のその後(2009年の事件) 〉から続く
「今、お父さんに言ってあげたいことは」「私がお父さんと代わってあげたいです。早く家に帰ってきて欲しいです」——交際を続けるために娘(当時16)を脅し続けた38歳の恋人を殺害した父親(42)。この事件は地元の同情を集め、ついには1万2000人もの減刑を求める嘆願書が裁判所に提出される事態に…。裁判所が父親にくだした罰とは? なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆
娘の交際相手に包丁を突き出した父親
「お父さんとお爺ちゃんが殺される!」
「一体、どうしたんだ?」
熊野が理由を聞いても、泣いて首を振るばかり。
その2日後、ミユキの母親が青山の車から降りてくるミユキの姿を見かけた。慌てて車に駆け寄ると、青山は脱兎のごとく逃げてしまった。
「どうしてまた会ってたの? ワケを話しなさい」
それでもミユキは何も話さない。どうしてミユキは黙り込んでいるのか。
だが、そのことを知った熊野と祖父は激怒し、2人で青山の自宅を訪れた。
「息子は出かけていますが……」
例によって、青山の母親が対応した。
「では、戻ったらすぐに連絡するように伝えてください」
その帰り道、青山の母親から電話があり、「息子が帰ってきた」と報告があった。それでもう一度引き返したが、青山は熊野が着く前に再び逃げてしまった。
熊野は激怒し、家に戻ってミユキから青山の携帯番号を聞き出した。「今すぐ家に来い!」と呼びつけると、青山がふて腐れた様子でやって来た。
熊野は青山とソファに座って向かい合い、「二度と娘には会わないと言ったのに、なぜ会ったのか?」と問い詰めた。しかし、青山は謝るどころか開き直り、逆に食ってかかってきた。
「お宅の娘から電話があったんだ。今日は彼女の誕生日だったから、プレゼントを渡した。それの何がいかんのだ?」
「何だと……」
2人は立ち上がってにらみ合い、熊野は用意していた包丁を突き出した。
「もう二度と娘には近づかないと約束しろ!」
「刺せるもんなら、刺してみろ!」
しかし、青山は小バカにしたような態度で、「刺せるもんなら、刺してみろ!」と挑発した。
カッとなった熊野は、青山を突き飛ばし、倒れ込んだところを腹部目がけて突き刺した。その刺し傷は深さ19センチにも及んでいた。それほど父の怒りはすさまじかったのだ。
青山は「くそーっ……」と言って起き上がろうとしたので、熊野はさらにもう1度突き刺した。青山は虫の息となり、我に返った熊野は自分で110番通報し、駆けつけた警察官に緊急逮捕された。
「どうしても娘と別れさせたかった」
「自分と同年代の男が高校生の娘と交際しているのが許せなかった。被害者に挑発され、カッとなってしまった。娘はまだ人生経験が浅い。どうしても娘と別れさせたかった。事件当日も警察に相談したが、『今回の件では事件にならない』と言われ、もう自分で動くしかないと思った。彼の2人の子どもたちには申し訳ないことをしたと思う。責任を持って、自分が面倒を見ていきたい」
青山は中学卒業後、左官として働いたがすぐ辞めてしまい、遊んでばかりいた。19歳で最初の結婚をしたが、2年で離婚。24歳で再婚し、2人の子どもをもうけたが、まもなく離婚してしまった。
その後、両親と5人で暮らし、出稼ぎなどに行っていたが長続きせず、ハローワークに行っても就職が決まらなかった。そこで金づるにしていたのがミユキだった。
ミユキは熊野の公判に情状証人として出廷した。
弁護人:お父さんはどんな人ですか?
ミユキ:怒っても手を上げたりしない優しい人です。
弁護人:お父さんが事件を起こしたときの気持ちは?
ミユキ:人の命がなくなったけど、解放されたという気持ちでした。
弁護人:被害者とはどのくらい付き合っていた?
ミユキ:半年ぐらい。男女関係はありました。
弁護人:両親から反対されていましたね?
ミユキ:高校生であることや将来のこと、年齢差から反対されていた。交際をやめなかったのは、相手から何をされるか分からなかったから。
弁護人:お金の要求は?
ミユキ:ありました。お年玉から3万2000円を貸しましたが、返してもらえませんでした。
弁護人:なぜお父さんはこんなことをしたのだと思う?
「私がお父さんと代わってあげたい」
ミユキ:私を守るためです。
弁護人:今、お父さんに言ってあげたいことは?
ミユキ:私がお父さんと代わってあげたいです。早く家に帰ってきて欲しいです。
この場面で熊野は号泣し、裁判員の女性ももらい泣きしていた。続いて検察官の反対尋問が始まった。
検察官:あなたは本当に会うのがイヤだったのか。
ミユキ:イヤでした。相手は気分次第で殴ってきたりしました。
検察官:具体的にどんな暴力を受けたのか?
ミユキ:事件の少し前、左の二の腕を4〜5回叩かれて、ずっと青いアザが残っていました。タバコの火を近付けられたこともありました。
検察官:楽しかった思い出は?
ミユキ:何もないです。
検察官:被害者にお弁当を作って遊びに行ったのはなぜ?
ミユキ:強制的にさせられた。相手の子どもたちと遊ぶのもイヤイヤでした。早く帰りたかった。
検察官:被害者との交際を親に隠したかったのか?
ミユキ:最初は内緒にしたかったけど、花火大会のときの母との電話で、帰りも遅かったので、もうバレてもいいやと思い、「男の人と一緒」と言った。相手は一緒に家に行くのをイヤがっていて、後から仕返しされた。携帯電話を取り上げられ、今も返してもらっていない。
これ以降、ミユキは青山に手紙を書くように強要された。警察沙汰になりかけたときも「何で警察に行きよるんや!」と言われ、暴力を振るわれた。最後に裁判長から「何か言いたいことは?」と聞かれると、蚊の鳴くような声で「私のせいでごめんなさい……」と述べた。
ミユキの証人尋問が終わり、退廷した途端、通路からミユキが大声で泣き叫ぶ声が聞こえた。
父親の懲役は…
熊野の事件は地元の同情を集め、1万2000人もの減刑を求める嘆願書が裁判所に提出された。ミユキは青山に「言うことを聞かないと、家族を殺すぞ!」と脅されていたのだ。
熊野は情状面を考慮されたが、「殺意が認められる」として、懲役8年を言い渡された。もし、熊野と同じ立場に立ったら、どうすべきだっただろうか。
(諸岡 宏樹)
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