仮面で第一声「AIメイヤー2号と申します」…ネット通称候補が増殖、経歴分からず有権者に不利益

2025年4月27日(日)5時0分 読売新聞

東京・小金井市議選で第一声を行うAIメイヤー2号氏(手前中央)(3月16日、東京都小金井市で)

[SNSと選挙]時代遅れの制度<1>

 選挙運動でのインターネット利用が解禁され、まもなく12年。急速に普及したSNSを使って、選挙制度の不備を突くような行為が横行している。「時代遅れ」とも言われる制度の課題を検証する。

 「AIメイヤー2号と申します。どこの誰かは言いません」。東京・小金井市議選が告示された3月16日、JR武蔵小金井駅前にAIメイヤー2号氏の第一声が響いた。名前は同氏を擁立した政治団体「AI党」党首・AIメイヤー氏に由来する。仮面で素顔を隠して演説する異様な光景に、道行く人はけげんな表情を浮かべていた。

 かつて別の市の議員選挙に本名で立候補した際、家族の猛反対に遭った苦い記憶がある。再挑戦にあたり、AI党が掲げる「名前も顔も職歴も全て非公開で立候補できる」というキャッチコピーが目に留まった。選挙管理委員会への立候補届け出は戸籍名(本名)でないと受理されないが、「通称」が本名より広く知られていると認定されれば、通称で選挙運動を行える。

 党首の助言で昨年8月、X(旧ツイッター)にAIメイヤー2号のアカウントを開設した。記者会見に出てスポーツ紙の掲載実績を作り、市選管に届け出た。

 告示までのXの投稿は十数回、フォロワーはわずか30人程度。それでも市選管は「本名より広く通用している」と通称使用を認めた。担当者は「Xは世界中の人々が見られる。通称の認知度が本名より低いとは言い切れず、認めないという判断は難しかった」と話す。

 落選したが、AI党は別の市長選でも本名非公表のAIメイヤー4号氏を支援した。党首は「匿名で出馬したいと約300人から問い合わせがある。100号まで擁立したい」と語る。

 通し番号の通称を付けた候補者名は、過去に問題になったことがある。

 藤田一郎、高田十八、塚田二七……。1963年衆院選では、名前に1〜27の番号を振った27人が東京と千葉の選挙区で立候補した。

 いずれも本名でなく、「背番号候補」と呼ばれ、国会では「通称を乱用して妙ちきりんな名前で立候補させた」との批判が起こった。翌64年の公職選挙法施行令改正で、通称を法令で初めて「本名以外で広く通用している呼称」と定義し、選管の認定手続きを明記。乱用に歯止めをかけようとした。

 通称使用は長らく、アントニオ猪木氏のような全国的に著名なスポーツ選手や芸能人、旧姓使用者らに限定的に認められてきた。だが、SNSの登場で選管の姿勢に変化が生じている。

 市民がSNS上でハンドルネーム(通称)を使うのが一般的になり、面識のない多くの人々と気軽につながれるようになった。その結果、SNSで広く知られていると主張し、通称使用を求める候補者が増えた。

 通称を認めなければ、「立候補の自由を制限した」として訴訟を起こされるリスクもある。拓殖大の河村和徳教授(政治学)は「プライバシー意識の高まりで社会が匿名に寛容になり、選管が通称認定に傾きやすくなった」とみる。

 選挙ごとに氏名を変える候補者も現れている。昨年の都知事選では、本名で市議を1期務めた男性が、ネット上の活動名で立候補した。氏名が変われば、かつてどんな思想・信条を持って政治活動をしていたのか、有権者が知る機会がなくなる。

 福島学院大の高選圭コソンギュ教授(政治参加論)によると、韓国では選挙時、本名の使用が義務づけられており、著名人でも選挙ポスターなどに通称を記載する際は、本名のそばにかっこ書きにするという。「通称を安易に許せば、有権者が正確な情報を基に投票できなくなる。政治家は市民の代表者で、プライバシーよりも有権者の知る権利が優先されるべきだ」と指摘する。

■公職選挙法施行令第88条

・候補者の氏名は、戸籍簿に記載された氏名(本名)によらなければならない。

・本名に代わるものとして広く通用しているもの(通称)が使用されることを求めるときは、選挙長に当該呼称が本名に代わるものとして広く通用していることを説明し、そのことを証するに足りる資料を提示しなければならない。

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