今年の桜は“スピード満開”が続出 3月の高温だけではない、本当の理由は?
2025年5月9日(金)5時10分 ウェザーニュース

2025/05/09 04:57 ウェザーニュース
桜前線も北海道まで到達し、間もなく桜の季節も締めくくりを迎えます。7日に稚内と釧路で、さらに8日には網走で開花が発表され、気象庁が桜の観測を行っている全地点で開花しました。
今年の開花時期は全国的におおむね平年より少し早い傾向です。気象庁によって開花発表される全53地点(ヒカンザクラを除く)のうち28地点で平年より早く開花し、特に北日本や東日本ほど開花の早さが目立ちました。
近年は温暖化の影響で、特に九州など温暖な地域で、開花から満開までの期間が長く“ダラダラ”と咲く傾向が見られていましたが、今年は少し違った特徴も見られたようです。元福岡市科学館館長の伊藤久徳・九州大学名誉教授に解説して頂きました。
今年は“スピード満開”の地域が多かった?
今年の桜の開花から満開までの期間は、どのような状況だったのでしょうか。
「今年は、近年には珍しく温暖地で『開花から満開までの期間が短くなったところが出た』という特徴がありました。
たとえば、福岡は3月25日に開花してからわずか3日で満開を迎えました。その他でも和歌山で4日、熊本・高知・松山などで5日と、開花から満開までの期間が短かったのです」(伊藤先生)

なぜ、今年はこんなに短かったのでしょうか。
「私がテレビなどでの説明を聞いている限り、3月の開花前後で気温がかなり高かったことを原因として挙げているものばかりでした。もちろん、3月の気温も桜の成長に影響しますが、この説明では不十分です。
なぜなら3月24日に開花した鹿児島でも3月の気温は十分に高かったにもかかわらず、開花から満開までは14日と長かったからです」(伊藤先生)
満開までの期間が短かった理由を説明するには、3月の高温だけでなく、「休眠打破(きゅうみんだは)」に言及する必要があるといいます。
「休眠打破とは、桜の花芽(かが)が冬の低温にさらされて休眠状態から目覚め、再び成長を始める現象のことです。
桜の花芽は開花前年の夏ごろに作られ、それが秋から冬にかけて、成長しないようにいったん休眠します。その後、桜の花芽が再び成長するためには、0℃以上9℃以下の低温が何度も(我々のモデルでは毎時気温で1300回)記録されて起こる休眠打破が必要です」(伊藤先生)

桜の開花から満開までの期間は、「休眠が打破される日」と「そこをスタート時点として、その後の気温などによる成長のスピード」で決まります。
「1本の木の花芽の中で休眠打破された日が異なれば、その後のスピードが同じでも、開花日が異なります。逆に違いがなければ、すべての花芽がほぼ同時に成長するので、開花(5・6輪の花が咲く)から満開までの期間が短くなるのです。
こうした“スピード満開”は北日本の特徴です。冬に10℃を超えることはほとんどなく、常に十分に気温が低いので、1本の木の中でどの花芽もほぼ同じ時期に休眠打破が起こるからです。
一方、九州などの暖かい地域は、近年、休眠打破がうまく進むかどうか“ギリギリ”の高い気温になっているため、1本の木の中でも花芽が休眠打破される日に個体差が生まれやすいのです。すると、花芽によって成長スピードに違いが生じるため、開花のタイミングもずれてしまい、ダラダラと長い時間をかけて満開になるのです」(伊藤先生)
2月の低温で一気に休眠打破が起こった
では、今年はなぜ暖かい地域でも“スピード満開”になったのでしょうか。
「最も短かった福岡を例にとって考えてみます。今冬の特徴は何と言っても2月の寒さです。12月・1月はほぼ平年と同じで、休眠打破がうまく進むかどうか“ギリギリ”の気温だったため、休眠打破は十分に進行しなかったと思われます。
ところが2月になると気温がグッと下がったのです。平年の月平均気温が7.8℃のところ、今年はなんと5.7℃と2℃以上も低かったです。1月の平年と比べても1℃以上低くなっています。
個体差を生じさせない十分に低い温度です。そうなるとここで一気に休眠打破が起こります。つまり今年は2月上旬にいっせいに休眠打破が揃ったと考えられるのです。
その後、開花の前後で気温が高くなったことと相まって、今年は開花から満開の期間が大変短い3日になったと考えられます。
一方、鹿児島の2月は平年より少し低くなったとはいえ、8.3℃と10℃近い気温なので、休眠打破がいっせいに起こるほど低くはなかったといえます。その結果、鹿児島では開花から満開までが長くなったのでしょう」(伊藤先生)
桜の開花から満開までのメカニズムは複雑で、冬の寒さや春の気温など、様々な気象要素が影響しています。
桜前線も北海道に到達し、桜の季節も残すところあとわずか。来年はどのような咲き方をするのか、冬の気温にも注目しながら、来季の桜を愛(め)でてみましょう。
写真:ウェザーリポート(ウェザーニュースアプリからの投稿)