オランダに春を告げるホワイトアスパラガス…季節限定の甘みと味わい
2025年5月16日(金)9時29分 読売新聞
トーストにホワイトアスパラガスとブルーチーズなどを挟み、メープルシロップをかけたデザート
オランダの冬空はどんよりとし、日照が乏しい。待ちわびた春を告げるのが、ホワイトアスパラガスだ。
「野菜の女王」とも呼ばれる春の食材
4月、オランダ南部エッテンルールのギルバート・スィープさん(61)の畑を訪れた。スィープさんは「ホワイトアスパラガスを食べると、春が来たぞと力がみなぎる」とにっこり笑った。4〜6月の収穫時期しか市場に出回らず、「ホワイトゴールド」や「野菜の女王」とも呼ばれる。
畑を案内してもらった。畝にかぶせた黒いシートを取ると、白い頭が土の中から飛び出していた。専用のナイフを地面に突き刺し、ぐっと力を入れるとアスパラガスが切れる。頭から抜き取ると、25センチほどのアスパラガスが出てきた。
黒いシートの脇から、緑色のアスパラガスも飛び出していた。日本でおなじみのグリーンアスパラガスとの違いは日光を浴びたかどうかだ。
オランデーズソースかければ…伝統的料理に
スィープさんは収穫したばかりのアスパラガスを使って、伝統的なオランダ料理を振る舞ってくれた。皮をむき、お湯が入った鍋に水平に並べる。3分ほどでコンロから鍋をずらし、余熱で煮る。フォークで持ち上げた時に両端がだらんと垂れないように、煮込みすぎないようにするのがポイントだという。
オランデーズソースをかけ、ゆで卵とハム、ジャガイモを添えて完成だ。アスパラガスは軟らかく、甘みが口の中に広がった。
オランダの画家ビンセント・ファン・ゴッホの父親は、エッテンルールで牧師を務めていた。ゴッホも滞在し、貧しい農家のありのままの暮らしを描いたという。ゴッホが見た風景に思いをはせながら、アスパラガスのほんのりとした苦みを味わった。
レストランには変わり種「日本風」メニューも
エッテンルールのレストラン「ブラッスリータルタール」には、様々なホワイトアスパラガスのメニューがある。うなぎのたれとわさびのふりかけを使った日本風は7ユーロ(約1100円)。
収穫は手作業…人件費のコスト高く
オランダ南部リンブルフ州の「アスパラガス協会」によると、ホワイトアスパラガスは第2次大戦中の食糧難の反省を踏まえ、オランダ政府が戦後に食料自給力向上のために栽培を本格化させた。
アスパラガスを土から出やすくするため、栽培には砂質の土壌が必要だ。このため、オランダでは、リンブルフ州のほか、隣接するエッテンルールのある北ブラバント州に栽培が集中している。
収穫は機械化が進んでおらず、腰をかがめて手作業で行う。エッテンルールのスィープさんは「1週間で手首や腰が痛くなる」と笑う。
1ヘクタールの畑で栽培されるアスパラガスを収穫するには、5.5キロ・メートルを歩く必要があるという。スィープさんの畑では、ルーマニアからの季節労働者が作業を続けていた。
販売価格は1キロ・グラム当たり18ユーロ(約2900円)の高額になることもあるが、人件費が総コストの半分を占める。最近は生産をやめる小規模農家が多いという。
国内外の総支局長が、地域の自慢の味を紹介します。