「子どもを堕ろして彼女を傷つけたくない」と言ってたのに…元夫(30)が妊娠5カ月の元妻(21)を殺害した「悲しすぎる理由」
2025年5月18日(日)18時10分 文春オンライン
「むやみに子どもを堕ろして彼女を傷つけたくない。それより法的に自分のものにしたい。子どもは2人で育てていけばいい」
見知らぬ男とも肉体関係を結んだ恋人を許した、ある男。やがて彼女と入籍するも2人の結婚生活はすぐ破綻してしまう…。ついに男が女を殺害する事件にまで発展。いったい何があったのか? 2007年に起きた事件の顛末をお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/ 後編を読む )

◆◆◆
「無人の手漕ぎボートが漂流している」
航行中の外国籍のコンテナ船から海上保安庁に連絡が入った。そこは海流がぶつかる潮目で、漂流物が集まりやすい場所だった。
海上保安庁がヘリや巡視船で付近を捜索したところ、ボートから約200メートル西に別の浮遊物を見つけた。それは風俗店がよく使うリネン袋が膨らんだものだった。
リネン袋から出てきのは「21歳の女性遺体」
引き揚げて中を見ると、人間の遺体が入っていた。遺体の両足は工事現場で使う虎柄のロープで縛られており、重さ約20キロの鉄製のダンベルが2個くくりつけられていた。
司法解剖の結果、遺体は20代の女性。妊娠5カ月。女児を授かっていた。死因は窒息死。海水は飲んでおらず、今どきのギャル風で、手の10本の指には白い付け爪がきれいに残っていた。
それから3日後、遺体の身許は元ヘルス嬢の矢代友美さん(当時21)と判明した。それと同時に「唯一の殺害の動機を持つ者」として、真っ先に浮上したのが別れたばかりの元夫の井上和弘(同30)だった。
井上は風俗店従業員として働いていたが、遺体発見直後から行方不明になっていた。その井上は「逃げきれない」と警察に出頭してきて、殺人と死体遺棄の容疑を認め、「愛憎の葛藤の末に殺した」と供述した。
友美さんと井上の結婚生活は、わずか3カ月ほどでしかなかった。その前の同棲期間中に妊娠が発覚し、友美さんの21歳の誕生日に入籍したが、お腹の子どもが井上の子どもであるかどうかは確証がない状態だった。
井上と友美さんは事件の8カ月前、デリヘルの送迎ドライバーとコンパニオンという立場で知り合った。井上は前妻との間に2人の子どもがおり、トラック運転手として働いていたが、前妻がパチスロ狂いだったことや井上の浮気などが原因で約1年前に離婚した。その後、地元に戻り、風俗店の寮に住み込みで働くようになった。
友美さんに一目惚れした井上は、すぐに友美さんと肉体関係を結んだが、それが店にバレ、系列店に飛ばされた。
被害者にはほかに「付き合っていた男性」がいた
井上は友美さんが風俗店で働くことに関して、「気が狂いそうになった」と言うが、友美さんには別に交際している寺島春樹(同26)という男がいた。
友美さんが風俗店で働くようになったのも、もともと寺島とのデート代を捻出するためだった。井上はそれを承知の上で、横取りしようとしたのだ。
風俗店の寮で友美さんと同棲するようになると、寺島とは別れるように説得した。友美さんはそれを受け入れたフリをしていたが、寺島とはこっそり連絡を取り合っていた。
だが、友美さんの交際相手は寺島ばかりではなかった。入籍の2カ月前には、風俗店の客とも避妊せずにセックスしていたことが判明。それを知った井上はヤケ酒を飲み、自分も避妊しないでセックスした。
その後、友美さんの妊娠が判明した。井上が勢いでセックスした日と、客がセックスした日は2日ほどしか離れていなかった。それでも井上は「むやみに子どもを堕ろして彼女を傷つけたくない。それより法的に自分のものにしたい。子どもは2人で育てていけばいい」という考えを優先して入籍することにした。
入籍後も浮気を続けていた被害者
ちょうど友美さんが勤めていたデリヘルは閉店することになったので、それを機に友美さんは風俗から足を洗った。井上は相変わらず風俗店で働いていたが、積極的に家事を担当するなど、献身的に尽くしていた。自分のバッグを売って結婚指輪を買ったが、もっといい指輪を贈ろうと、酒店の倉庫でもアルバイトを始めた。
だが、そんな状況にあっても、友美さんは寺島との密会を繰り返していた。
ある日、「実家に行く」と言って外出した友美さんが、車の芳香剤の匂いを漂わせて帰宅したことから、追及したところ、「寺島と会っていた」と告白。「携帯を見せてみろ!」と迫る井上と大喧嘩に発展し、そのことについては友美さんの両親が厳しく叱責して、元の鞘に納まった。
ところが、疑念がぬぐえない井上は、たびたび友美さんの携帯を盗み見て、大喧嘩に発展。逆に携帯を勝手に見たことをとがめられて、友美さんに開き直られたため、怒った井上は離婚届にサインして、友美さんに突き付けた。
「あ、そう。これにサインすればいいのね」
泣いてすがりついてくると思ったのに、友美さんは動揺する様子もなく、あっさりサインした。
「私はもっといろんな人と遊びたかった。あなたが子どもを産めと言うから、仕方なく結婚した。もともと性格も合わなかった」
驚いた井上は友美さんの母親に相談したが、「この結婚は正しかったのか」と逆に問いただされ、友美さんの父親にも「子どもが産まれたら、また会いにこればええ」と言われた。
友美さんに反省を促すためだけに書いた離婚届は、その後、友美さんの両親の手に渡り、市役所に提出されてしまったのだ。
井上は愕然とし、土下座して謝ったが、時すでに遅しだった。
「私もあなたのことが好きなうちに別れた方がいいと思うの。私は結婚に向いていなかった。家事もしんどかった」
ついに「殺してやる!」と決意
井上は失意のどん底に沈んだまま、2人で住んでいた新居を出て行くことになった。なぜこうなったんだろう。もともと彼女と同棲を始めた風俗店の寮に1人で帰り、胸が張り裂けそうな気持ちになった。
事件当日、井上は仕事後に吸い寄せられるように友美さんの住むマンションに向かった。彼女も失意のどん底にいるだろうか。そこで壁に耳を当て、寺島と楽しげに話す電話の内容を聞いてしまったのだ。
「好きよ。愛してる。あなたの考えることはよく分かるけど、井上の考えることはよく分からなかったわ」
寺島に対する愛の言葉と自分を罵るような言葉。聞いたこともない楽しそうな笑い声。はらわたが煮えくり返るほど怒った井上は、「殺してやる!」と決意した。
いったん自宅に戻り、レンタカーを手配。リネン袋とダンベルを車に積み、途中のホームセンターで虎柄のロープを購入。「荷物を取りに来た」と言ってドアを開けさせ、押し入るや一気に首を絞めて殺害したのだ。
〈 《懲役は…》「娘の人生を奪った男を極刑にしてください」と遺族は主張…浮気グセの直らない元妻(21)を殺害した男(30)のその後 〉へ続く
(諸岡 宏樹)
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