サイゼリヤの人気ナンバーワン商品「ミラノ風ドリア」は、なぜ1000回以上も改良を重ね続けているのか?
2024年12月25日(水)4時0分 JBpress
国内外で1500以上の直営店を展開し、年間の来客数は2億人を超えるサイゼリヤ。創業者の正垣泰彦会長は、大学4年生だった1967年に小さな洋食屋を開業して以来、安くておいしい料理の提供を追求してきた。本連載では『一生学べる仕事力大全』(致知出版社)に収録されたインタビュー「最悪の時こそ最高である」から内容の一部を抜粋・再編集し、正垣氏の経営観と人生観を紹介する。
第1回は、千葉県市川市で17坪・38席の洋食屋をオープンし、店舗が火事で焼けるなどの辛酸をなめた創業期を振り返る。
満足した瞬間から衰退が始まる
——コロナ禍で外食産業は苦境に立たされていますが、サイゼリヤは今期の通期予想によると前期比で業績が回復する見通しで、健闘されていますね(2021年10月13日決算発表=売上高1265億円、経常利益34億円)。
正垣 コロナ禍って確かに営業時間が短くなったり売り上げが下がったり、いろんなことが起こるでしょう。だけど、創業期に何をやってもお客さんが全く来なかった時のほうが、よっぽど経営は大変でした。その頃に比べたら大した苦境ではないと思っています。
一つ意識してきたのは、資産と人財を蓄積すること。創業間もない頃、この会社を将来どうしていくかって自分で考えた時、小さいなりに、資産と人財を集めていればどんな危機が来ても乗り越えられると思って、資産と人財を蓄積することをずっと目標にしてきました。その積み重ねがあったからこそ、堀埜社長体制の下、テイクアウトや宅配サービスを新たに導入したり、様々な感染対策を打ち出すことができています。
——将来の危機を見据えて備えを怠らなかったと。
正垣 うまくいかない、思い通りにならない、それが人生ですよね。つまり失敗することが前提にあるわけです。失敗して失敗して失敗すると、最後は成功に漕ぎ着く。人間ってうまくいくとダメになっちゃうんですよ。エントロピーの法則(物事は放っておくと無秩序な状態に向かい、自発的に元に戻ることはない)と同じで、これでいいと満足したところから進歩はなくなってしまう。
正垣 大学で物理の勉強をやっていたんですけど、量子力学によれば、この世に存在するすべてのものはエネルギーでできています。エネルギーって何かというと、中心がなくてみんなと繋がって、よりよい調和に向かって永遠に変化し続けている。ただこれだけなんです。「俺はすごいだろう」なんて有頂天になると自分中心になっちゃう。こういう人はエネルギーの法則に反するから落ちぶれていく。
同様に、自分の店の料理をおいしいと思った瞬間から衰退が始まってしまう、とよく言うんです。常にこれ以上のものはないと思って料理をつくってお客さんに提供する。だけど、その直後からは、もっとおいしいものは出せないかと考えて創意工夫する。その繰り返しです。
——道の追求に終わりはない。
正垣 例えば、1日の販売数約7万食を誇る人気ナンバーワン商品の「ミラノ風ドリア」は、少なくとも年に10回以上、1983年の発売からこれまでに1000回を超える改良を続けています。
乗り越えられない困難は来ない
——このような困難な時代にリーダーとして求められることは何だとお考えですか?
正垣 なぜ困難が起きるかというと、そこには必ず原因があります。多くの人はその原因を人のせい、世の中のせい、あるいはコロナのせいにするんですけど、実際には自分にあるんです。失敗の理由を他に押しつけていては一歩も前に進めない。原因は自分の中にある。そう考えることが最も建設的だと思います。
普通は自分を変えるってなかなかできません。ただ、うまくいかない原因が自分にあると腹落ちすれば、自分の考え方を変えなければならない。困難な状況に直面すると苦しいですよね。でも、苦しい時にしか本当に自分を変えることはできないんです。
だから、困難や辛苦の時は自分を変えるチャンス。周りの人をより幸せにできる、会社を大きく成長発展させるチャンス。いままで自分が考えてやってきたことの結果として、困難な現象が起きていると捉えたほうがいいんです。
そうやって捉えると、何が起きるか。いいことも悪いことも人生で起こることはすべて最高、常に最高だって思える。最悪の時こそ実は最高なんです。
——最悪の時こそ最高である。
正垣 そして、乗り越えられない困難は来ない。自分を変えることによって必ず目の前の困難は乗り越えられる。これはいままでの自分の経験の中で実感し、かつ信じていることです。
火事に遭ったあの店はおまえにとって最高の場所
——正垣会長がサイゼリヤを開店してから、来年(2022年)で55年の節目になります。長年一筋の道を歩み来て、いまどんなご心境ですか?
正垣 1967年、大学在学中の21歳の時に千葉県市川市で洋食屋を始めたわけですけど、当初は食べ物屋なんてやりたいとも何とも思わなかった(笑)。たまたまアルバイトをしていた飲食店のコック長から、「おまえ、食べ物屋をやってみないか。向いてるぞ」と言われたのがきっかけです。サイゼリヤと共に生きてきた半世紀を振り返ると、これはエネルギーの仕業だなと思っています。
——エネルギーの仕業?
正垣 エネルギーがよりよい調和のためにこういう環境をつくってくれたんだなと。好きとか嫌いとかは関係なくて、好きでも嫌いでも、いまやっていることが最高なんです。いまある環境も、共に働いてくれているスタッフたちも、日常に起こる様々な現象も、すべて最高なんです。これ以上のものはない。そう思えるかどうか。
よく若い人が「自分の好きなことをやりたい」とかって言いますけど、それは自分中心に考えているだけだから、うまくいかない。皆に喜んでもらいたいとか困っている人を幸せにしてあげたいとか世の中を変えたいとか、自分の利益じゃなくて誰かの役に立つことを優先して考えると、結果はよくなるんです。
かく言う私も店を始めたばかりの頃は欲の塊ですから、楽をしてお金をたくさん儲けたいと思っていました(笑)。しかし、来る日も来る日もとにかくお客さんが全然入らない。1日の来店客が6人だけということもありました。
当時の店は2階にあって、1階には八百屋さんとアサリ屋さんが入っていました。狭くて見えにくい階段を上がっていかなきゃいけないのに、階段の入り口に荷物が置いてあるから飛び越えたりどかしたりしないと通れない。深夜に店を開ければ集客できるだろうと営業時間を朝四時まで延ばしたところ、ならず者のたまり場になっただけ。挙句の果てには客同士の喧嘩で石油ストーブが倒れ、店は燃えてしまったんです。開店から1年9か月後のことでした。
——弱り目に祟り目ですね。
正垣 立地は悪いし、ならず者しか来ないし、火事にはなるし…こんな店でいくらおいしいものを出してもお客さんは絶対に来ないと思っていました。店を辞めることも考えましたし、再開するにしても別の場所でやろうと。
ところが、ある時おふくろにこう言われたんです。「火事に遭ったあの店はおまえにとって最高の場所だから、辞めちゃダメ。八百屋もアサリ屋も、せっかくおまえのためにそこにあるんだから、逃げちゃダメ。もう一度同じところで頑張りなさい」って。
——火事に遭った店が最高の場所だと。
正垣 お客さんが来ないことを立地のせいにしないで、お客さんが来てくれるようにひたむきに努力することが大切なんだと、おふくろは教えてくれました。だから、立地が悪いのもならず者しか来ないのも火事になったのも、すべてエネルギーの仕業で、より幸せになるようにやってくれていたことに気づかされたんですね。
正垣 泰彦(しょうがき・やすひこ)
昭和21年兵庫県生まれ。42年東京理科大学4年次に、レストラン「サイゼリヤ」を千葉県市川市に開業。43年同大学卒業後、イタリア料理店として再オープン。48年マリアーヌ商会(現・サイゼリヤ)を設立、社長就任。平成12年東証一部上場を果たす。21年より現職。27年グループ年間来客数2億人を突破。令和元年7月国内外1,500店舗を達成。同年11月旭日中綬章受章。
<連載ラインアップ>
■第1回 サイゼリヤの人気ナンバーワン商品「ミラノ風ドリア」は、なぜ1000回以上も改良を重ね続けているのか?(本稿)
■第2回 1日の来客数を40倍に跳ね上げた驚きの価格設定、サイゼリヤの破壊的な安さを生んだ“全部逆”の発想とは?(1月9日公開)
■第3回 テレビ番組の反響で倒産危機に…なぜサイゼリヤは「宣伝なし」「直営店」にこだわるのか?(1月21日公開)
※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者をフォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから
筆者:藤尾 秀昭