京都FG社長が語る、持ち株会社移行で目指す「銀行のモデルチェンジ」

2024年1月25日(木)6時0分 JBpress

 京都銀行グループは2023年10月に持ち株会社体制に移行。京都フィナンシャルグループを持ち株会社とし、京都銀行をはじめとする金融、非金融の子会社が並列となる形に再編成された。初代社長には京都銀行会長を兼務する土井伸宏氏が就任。インタビュー前編では、京都という特徴ある地域を支える金融グループの意義、持ち株会社体制移行の経緯などを聞いた。

シリーズ「地域金融機関の今、未来」ラインアップ
■第1回 茨城と栃木の産業特性のポテンシャルを最大に引き出す、めぶきFGの戦略とは?
■第2回 めぶきFGトップに聞く、地域金融機関ならではの店舗網のあり方とデジタル戦略

■第3回 東京きらぼしFGが競合ひしめく東京マーケットで見出した商機と勝ち筋
■第4回 「UI銀行」を核に、東京きらぼしFGのデジタル戦略の狙いと成長へのシナリオ
■第5回 京都FG社長が語る、持ち株会社移行で目指す「銀行のモデルチェンジ」(本稿)
■第6回 京都FGが挑む、「閉塞感」を打ち破るグループ社員の意識改革

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世界的な観光資源とものづくり企業が集積する地域

——京都という地域のポテンシャルについて、どう捉えていますか。


土井伸宏氏(以下敬称略) ご存じのとおり世界的な観光地である京都は、コロナ前の2019年には国内外から5300万人の観光客が訪れ、1兆円を超える観光消費を生み出していました。

 そこから一転、2020年からの約3年間は、コロナ禍によって観光客が極端に落ち込みました。飲食、宿泊業などのダメージは非常に大きかったのは間違いありません。しかし、そこからの回復も、目を見張るものがあります。2022年は4361万人まで回復し、行動制限が解除された2023年はさらに増加する勢いです。ただ、現場で働くかたにいろいろ聞いてみると、コロナ禍前とはいささか状況が異なるようです。

 いろいろな要因があると思いますが、一つはコロナ禍前から指摘されていたオーバーツーリズムの問題があります。回復した観光需要に対して、観光業の供給体制がコロナ禍前の水準に戻っていません。宿泊業の人員が確保できず、オペレーションが回らず稼働率を上げられない、あるいはタクシー業界では、コロナ禍で高齢のドライバーが引退してしまい、戻ってこないため車があっても走らせる人がいないという声を聞いています。オーバーツーリズム、人手不足問題の解決は一筋縄ではいきませんが、世界のかたが訪れる観光地としてさらに成熟していくために、官民が一体となって取り組む必要があると感じています。

 一方で京都は、京セラ、任天堂、ニデック(旧・日本電産)などの世界的なメーカーが、ベンチャー企業として生まれてきた地域であり、伝統的に、新たな産業を受け入れる風土があります。一因として京都は伝統産業が盛んで、織物からスクリーン技術、清水焼からセラミック、花札から印刷技術などの産業に発展したという説もあります。また京都大学を中心とした研究開発者の頭脳が集積していることも、製造業の発展につながったという見方もできます。

 地方発の企業は、大きくなると本社を東京に移してしまうことが多いのですが、これら京都発のグローバル企業は、本社を京都から移しません。登記上の本社ということでなく、財務も含めた本社機能を、引き続き京都に置かれています。企業のトップも京都に住んでいらっしゃいますので、私も頻繁にお会いすることができます。これは、当社にとって非常にありがたく、大きなメリットです。

 しかし、そうした日本を代表するメーカーに続く新しい企業が、長らく京都から登場していないことに、大きな危機感を持っています。京都の産業界、商工会議所などと力を合わせて、当社グループとしても、産業振興、ベンチャー支援に改めて力を入れたいと考えています。


銀行子会社だったグループ企業の独立を促す

——その京都銀行グループは、2023年10月から京都フィナンシャルグループを持ち株会社とする新体制に移行しました。そこに至った理由をお聞かせください。

土井 持ち株会社体制に移行する話を説明するために、これまで京都銀行が進めてきた事業について説明させてください。

 京都銀行は2000年に「広域型地方銀行になる」という宣言をして、以降出店を加速しました。当時は金融機関にとって厳しい環境だったのですが、逆張り的に店舗を増やすことに決めました。

 当時の京都銀行は、京都府内に約110店舗、大阪に9店舗あって、あとは東京支店があるだけの合計120店舗の規模でした。そこからまず、滋賀県の草津に進出して、滋賀に14店舗を出店、奈良7店舗、兵庫県8店舗、大阪も31店舗まで増やしました。名古屋にも出店し、東京は営業部に格上げすることで、2015年までに、合計61店舗を新規に出店しました。

 その結果、全国の地方銀行64行(現在は62)の中の規模は、2000年の15位から、2015年には8〜9位に上昇し、株式の時価総額では4位という位置に成長しました。それだけ、銀行のステータスといいますか、地位を上げました。

——土井さんが頭取に就任したのは、ちょうどそのころですね。

土井 はい。私は2015年6月に頭取に就任しましたが、当初はその拡大路線を引き継ぐ気持ちでおりました。

 ところが、頭取就任直後の2016年1月にスタートしたマイナス金利政策によって、目の前の環境ががらっと変わってしまいました。金利がゼロ、あるいはマイナスですから、いくら預金を集めて貸出金を出しても、その利ザヤがほとんどありません。銀行は本来、預貸金の活用が収益の柱であり、稼がせていただいたのですが、それが全くもうからないビジネスになってしまいました。

 従来は、店舗を新規出店すれば、預金ビジネスでおよそ5年で黒字化するメドが立ちました。しかしマイナス金利下では、いくら預貸金を積んだとしても、10年、20年たっても計算上黒字化しません。預金のビジネスは今でも重要で、それをなくすということは考えられませんが、店舗網を拡大して銀行を成長させるビジネスモデルは描けなくなったのです。

 さらに、銀行のもう一つの大事な業務である為替にも転機が訪れました。それまで、お客さまの資金移動を当行が代行し、その手数料をいただいていました。しかし、資金移動について、銀行を通さなくてもできるシステムがいろいろと登場し、銀行が担う振込の件数自体も落ちてきて、手数料が大きく減少しました。これまでどおりの銀行の業務をしていたのでは、成り立たない状況に追い込まれたのです。

 それなら、銀行にできることは何か。それを真剣に考えた結果、いわゆる「フィービジネス」を拡大していく方向性が見えてきました。

 金融緩和によって資金の供給は十分確保されており、企業のお客さまは必ずしも銀行から調達しなくてもよくなりました。また、振込も銀行に頼る必要もなくなりました。

 そんななかでお客さまが、銀行に何を望むかというと、例えばコロナ禍のような非常事態下で、事業環境が変わったときの新たな売り先ですとか、業務提携先を探す際の相談相手です。特に、事業承継のご相談はコロナが大きなきっかけとなり、非常に増えてきました。それに関連して、M&Aについても案件が増えています。

 銀行に期待されることが、お金を預け、貸してもらう先ということでなく、事業に関わる相談事に乗ってもらう先としての存在感が増しています。個人のお客さまに関しても、預金金利が非常に少ない時代に資産運用をどうするか、安心して相談できる相手としての利用価値が高まっています。

 2016年のマイナス金利をきっかけとして、企業に対するコンサルティングや、M&Aの支援や実行、証券、信託業務など、それらの事業による手数料を稼ぐ形にシフトしていくことで、地域の金融機関として生き残っていく必要があると考えています。

——銀行以外の業務グループを強化するため、持ち株会社体制に移行するということでしょうか。

土井 そうなります。2017年に京銀証券を立ち上げ、証券業務をスタートしました。翌2018年には信託業務の本体参入、2020年に人材紹介業に参入するなど、新しい事業を次々と始めてきました。

 しかし、それらは全て、京都銀行の子会社としてスタートしました。以前からあったコンサル事業の京都総研コンサルティング(旧 京都総合経済研究所)、カード会社やリース会社などと同様に、銀行の子会社としてぶら下がる形でした。

 独立性がなかったため、親会社である銀行から仕事が降りてくるのを待っている状態。それがグループ企業の問題でした。各機能の会社が独自にお客さまを開拓し、お客さまの課題解決に取り組まなければ、当社が目標とするフィービジネスの強化は実現しません。

 そこで今回、京都フィナンシャルグループを持ち株会社として、銀行を含めた子会社を「兄弟」として横に並べるグループ体制に変更したわけです。銀行の子会社だった一種の甘えから脱却し、独立した事業体として個々の事業を伸ばしていく明確な意思表示をしました。


専門性を伸ばせる長期的な人材政策

——グループ事業の強化にあたり、まず必要なのは人材の確保だと思いますが、順調に進んでいますか。

土井 もちろん、必要な人の手当については当社(FG本体)も責任を持って行います。その一方で、グループ社員には「自分たちは何ができるかを考えてほしい」と呼びかけています。

 これまで83年間銀行業を続けてきたなかで、総合力の高い人が支店長になり、それを推奨するのが銀行の人事でした。しかし、これからは何でも知っている人よりも、一つの専門性についての強みを持つ人が必要です。例えばM&Aの業務は、10年以上、同じ業務に携わり、キャリアを積まなければお客さまのニーズには応えられません。それぐらいの深みがあります。証券、信託なども同様です。グループ社員からの希望も募り、人材の移動もスムーズにしていきます。

 また、従来は銀行から子会社への異動は比較的高齢の社員に限られてきました。それを改めなければいけません。先行事例としては、2017年に設立した京銀証券があります。ここは社長も含め、銀行の若手メンバーで構成されています。

 年齢に限らず、専門性を追求したい人がグループ間を行き来できる組織と、人材育成システムの構築にかじを切っているところです。2026年までの中期経営計画の期間中に、延べ1000名の人材交流を目標としています。

【後編に続く】
京都FGが挑む、「閉塞感」を打ち破るグループ社員の意識改革

シリーズ「地域金融機関の今、未来」ラインアップ
■第1回 茨城と栃木の産業特性のポテンシャルを最大に引き出す、めぶきFGの戦略とは?
■第2回 めぶきFGトップに聞く、地域金融機関ならではの店舗網のあり方とデジタル戦略

■第3回 東京きらぼしFGが競合ひしめく東京マーケットで見出した商機と勝ち筋
■第4回 「UI銀行」を核に、東京きらぼしFGのデジタル戦略の狙いと成長へのシナリオ
■第5回 京都FG社長が語る、持ち株会社移行で目指す「銀行のモデルチェンジ」(本稿)
■第6回 京都FGが挑む、「閉塞感」を打ち破るグループ社員の意識改革

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筆者:指田 昌夫

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